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出入国規制と外国人労働者-過去最高も、就労政策には課題も

総合政策研究部 准主任研究員 鈴木 智也
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1――外国人就労は、コロナ禍でも過去最多を更新
外国人労働者の内訳を国籍別にみると、ベトナム[44.4万人、同+10.63%]、中国[41.9万人、同+0.26%]、フィリピン[18.5万人、同+2.82%]、ブラジル[13.1万人、同▲3.21%]、ネパール[10.0万人、同+8.56%]の順に多くなっており、近年の増加を牽引してきたベトナムが中国を初めて上回り、国籍別の最多を記録している。
在留資格別には、身分に基づく在留資格[54.6万人、同+2.76%]が最も多く、技能実習[40.2万人、同+4.79%]や資格外活動[37.0万人、同▲0.68%]が続く[図表2]。なお、資格外活動の減少は、リーマン・ショックや欧州債務危機による影響で経済が低迷した2012年以来のことであり、特に留学生のアルバイトに影響が大きく及んでいることが伺われる。
2――コロナ禍における外国人就労
外国人労働者を取り巻く環境は、コロナ禍で一変した。コロナ禍は国籍を問わず、全ての労働者に影響を及ぼすものであったが、とりわけ外国人労働者にとっては、水際対策として導入された「出入国制限措置」が大きく影響したと見られる。
出入国制限は、国外から新型コロナウイルスが持ち込まれて、国内で感染爆発することを未然に防止する措置として導入された。日本では、中国武漢での感染拡大を受けて、2月1日に中国湖北省からの入国を制限したことに始まる。その後、世界的な感染拡大を受けて、対象地域は拡大し、4月7日に緊急事態宣言が発令される頃には、欧州や米国などを含む、世界73ヵ国に拡大していた。
この措置が、とりわけ外国人労働者にとって問題となったのは、雇用情勢の悪化で職を失った労働者が母国に帰国することもできず、行き場を失ってしまったことにある。この時期の報道を見ると、生活に困窮した外国人労働者が、民間団体や企業などの支援を受けて急場を凌いでいる姿や、訪日客の急減で客室に空きのある簡易宿泊施設が、外国人留学生を無償で受け入れた事例などが確認される。また、出入国制限措置の影響は、すでに日本での就労が決まっていた労働者にも及び、外国人労働者の確保を前提としていた農業や漁業などでは、操業の停止や人手不足などの深刻化な問題が生じた。
それでも当初の想定通り、緊急事態宣言が短期で終わり、V字回復によって経済が早期に正常化に向かうのであれば、この問題は収束に向かっただろう。しかし実際には、新型コロナウイルス収束は思うように進まず、緊急事態宣言の解除は遅れ、その後もソーシャルディスタンシングや営業自粛などの取組みが必要になるなど、新型コロナウイルスとの戦いは、長期戦を覚悟しなければならないものとなった。そのため政府は、感染拡大防止と社会経済活動の両立、いわゆる「With コロナ」を前提とした対策へと軸足を移し、出入国制限措置も感染状況に合わせて修正して行く。
1つ目は、「双方向の往来を可能とする制度」だ。2国間協議に基づいて、ビジネス上必要な人材等の出入国について例外的な枠を設置し、現行の水際措置を維持した上で、追加的な防疫措置を条件として受け入れる。この制度は、「レジデンストラック」と「ビジネストラック」の2つのスキームがあり、対象者や必要な防疫措置の内容が違ってくる。
「レジデンストラック」については、受入企業・団体による「誓約書」の作成や検査証明の提出、接触確認アプリをダウンロードしたスマートフォンの保持といった防疫措置を講じることを条件に、入国後14日間の待機を求めたうえで、双方向の往来を再開する制度であり、主に駐在員の派遣・交代や技能実習など長期滞在者のための出入国に関する制度である。7月末頃にタイおよびベトナムとの間で往来が再開すると、アジア周辺国地域へ徐々に拡大して来た。
「ビジネストラック」については、「レジデンストラック」の防疫措置に加えて、さらに本邦活動計画書の提出などの追加措置を講じることで、入国後14日間の待機期間中も、行動範囲を限定した形でビジネス活動が可能となる(行動制限が一部緩和される)制度であり、主な渡航目的が短期商用または公務等に限定されている渡航者のための出入国に関する制度である。9月18日にシンガポールとの間で開始して以降、韓国(10月8日)、ベトナム(11月1日)、中国(11月30日)と4ヵ国に拡大して来た。
2つ目は、「全ての国・地域からの新規入国措置」だ。「レジデンストラック」と同様の防疫措置を条件に、入国後の14日間の待機を維持しつつ、原則、全ての国・地域からの新規入国を認める。この措置は、経済回復に向けて出入国制限措置をさらに緩和するものであり、ビジネス関係者に加えて、留学や家族滞在など、その他の在留資格を有する外国人の新規入国も認めている。
3つ目は、「日本からの短期出張者の帰国・再入国後14日間待機の緩和措置」だ。「ビジネストラック」と同様の防疫措置を条件に、日本居住者(日本人及び在留資格保持者)を対象として、全ての国・地域への現地滞在7日以内(渡航先での隔離要請期間を除く)の短期海外出張からの帰国・再入国時、入国後 14 日間の待機緩和が認められる。この措置は、主に日本人や外国人の中でも高い技能や専門性を有する高度外国人材を対象とした制度であると見られる。
また、国籍別に緩和措置に基づく外国人入国者数の推移[図表6]を見ると、まずベトナムからの入国者数が増加したのち、中国やその他地域からの入国者数が増加している。ベトナムおよび中国からの入国者数は、統計が公表されている期間(2020年8月5日から2021年1月21日まで)において全体の66.3%を占め、緩和措置利用の中心であったと言える。なお、今年1月には、緊急事態宣言に伴う出入国制限の再強化を前に、ベトナムからの入国者数が顕著に増加する「駆け込み入国」とも言える動きが確認される。
両国からの入国者数を在留資格別[図表7]に見ると、ベトナムは技能実習[32,305人、構成比65.8%]、留学[9,931人、同20.2%]、特定技能[1,755人、同3.6%]の順に多く、中国は留学[20,841人、同52.6%]、技能実習[11,807人、構成比29.8%]、特定技能[555人、同1.4%]の順に多くなっている。いずれも、技能実習と留学および特定技能で8割超を占めており、緩和措置がこれらの在留資格者の受け入れに利用されてきたことが分かる。
ただ、両国の出入国状況をネット(短期滞在者を除く、純入国者数)で比較[図表8]してみると、入国者数が出国者数を上回る純流入となった期間は、ベトナムの9カ月間(5月から7月を除く)に対して、中国は4カ月間(3月から10月を除く)と短く、コロナ禍においてもベトナムからの入国が続いてきたことが分かる(全体での純流入は6ヵ月間)。これは、入国者数が多いことに加えて、出国者数が少ないことが要因の1つであったようだ。実際、自民党の外国人労働者等特別委員会が、11月に公表した資料3によると、失業や生活困窮などの理由で母国への帰国を希望しながら帰国できないでいる「帰国希望滞留ベトナム人」は、11月10日時点で26,000人ほど居たとされる。その主な要因には、不法滞在・オーバーステイ外国人問題や技能実習、日本語学校留学生が抱える構造問題(借金・悪質ブローカー当委員会の過去の申入れに含まれる)が挙げられるが、ベトナム側の受入れ体制(帰国便を増やした場合のコロナ隔離施設の増強など)の整備が遅れていたとの事情もあったようだ。
3 自由民主党政務調査会・外国人労働者等特別委員会「外国人労働者等特別委員会」(11月17日)
3――コロナ禍で明らかになった外国人就労政策の課題
まず1つ目は、外国人就労政策における建前と実体の乖離である。今般のコロナ禍では、パートやアルバイトなどの就労機会を失った留学生などが、生活に困窮して行き場を失う事態や、失業や劣悪な環境におかれた技能実習生などが、トラブルを引き起こす事態が相次いだ。この直接的な原因は、コロナ禍による労働環境の激変があることは間違いないだろう。しかし、根本的な原因には、就労を前提としないはずの留学生を労働者として受け入れて来たことや、母国の技術発展に寄与する人材を育成するための技能実習制度が、労働力を確保するための制度として活用されて来たことがあると考えられる。その結果、コロナ禍で就労機会を失った留学生は生活に困窮し、労働者としての法的な位置づけが曖昧な技能実習生は、雇用調整の対象となって生活に行き詰まり、様々なトラブルを起こすことになったと見られる。これらの問題は、実態に合わせて制度を見直すことが、問題解決に向かう第一歩になり得る。海外からの労働者を受け入れるための制度に改め、そのうえで外国人労働者に特化した法律を整備し、労働者としての権利を明確化していくことが必要だろう。
2つ目は、外国人労働者を受け入れるための環境が、十分に整備されていなかったことである。政府は、2018年12月には「外国人材の受入れ・共生のための総合的対応策」を策定し、外国人が日本人と同様に公共サービスを享受し、安心して生活することができる環境を整えるべく、各種の取組みを進めてきたが、その準備が十分に整わないうちにコロナ禍が起きてしまった。その結果、外国人労働者への支援は後手に回ってしまったとの印象が残る。実際、政府は実習が継続困難となった技能実習生等を対象に「特定活動(就労可)」の在留資格を付与し、人手不足分野の異業種への転職や特定技能への円滑な移行を支援するなど、外国人労働者への様々な支援策を打ち出して来たが、その支援はどれだけ迅速に届いただろうか。政府の予算内容を見ると、第1次補正では、外国人労働者への相談支援体制を強化するための職業相談員や通訳員の増員、多言語音声翻訳機器の追加配付などが実施され、第2次補正では、ハローワーク・コールセンターの多言語対応や、各種支援手続き等の多言語での情報発信の更なる強化が行われている。出入国在留管理庁の「外国人生活支援ポータルサイト」などでは、多言語化及びやさしい日本語での情報提供が進んでいるが、引き続き、情報発信の面で改善を図っていくことが必要だろう。外国人が利用することの多いSNSでの情報発信をはじめ、自ら必要な情報を得られるように、日本語能力を習得するための環境を整備して行くことも重要である。
3つ目は、労働供給を外国人労働者に依存することが、経済レリジエンスの低下につながり得ることである。レリジエンスは、危機時の耐性と回復するための力、弾性(しなやかさ)を意味する言葉であり、リーマン・ショックや東日本大震災など数々の危機を経験する中で、日本でもその重要性が認識されるようになっている。今般のコロナ禍では、外国人労働者が入国できないことで、コロナ禍の影響を受けにくい農業や漁業などにおいて、稼働率が低下する事態が生じた。コロナ禍という特殊な要因で生じた問題は、コロナ禍の収束と共に解消して行くと見られるが、中国やベトナムなどのアジア諸国では高齢化が進み、日本への労働供給は将来的に細っていくことが予想される。過度に外国人労働者に依存することは、日本経済のリスクを高めることにもつながりかねない。一定程度、外国人労働者への依存に歯止めを掛ける仕組みは、考えて行く必要があるだろう。その方法としては、外国人労働者の受入れ上限を決めておく「総量規制」、職種や地域ごとに受入れ人数枠を割り当てる「クォータ制」、個別の受入れ企業の従業者規模に応じた受入れ人数枠を設定する「雇用比率4」などがある。日本の外国人就労政策には、労働市場の需給に合わせて調整する仕組みが十分に備わっていないという課題もあり、諸外国で導入されている「労働市場テスト(一定期間求人を出しても国内労働者による応募がないことを確認したうえで、外国人労働者に就労許可を与える仕組み)」についても、検討する価値はあるだろう。
4 日本でも技能実習や特定技能の一部で導入されている。
4――おわりに
見直しの方向性としては、建前と実体の乖離を解消していくことが挙げられる。技能実習や留学という名目で、外国人労働者を受け入れるのではなく、労働者としての位置づけで受け入れて行くことが必要だろう。なお、受入れにあたっては、生活者としての観点から、外国人住民の生活環境を改善して行くことも重要である。2018年に策定された「外国人材の受入れ・共生のための総合的対応策」は、改定を重ねグレードアップしているが、この取組みを着実に進めてしていく必要がある。なお、外国人労働者の受入れでは、国内労働市場や産業政策との調整も欠かせない要素となる。日本企業の競争力を維持し、日本の経済レリジエンスを高めるためには、外国人労働者への依存に、一定の歯止めを掛けることも考える必要があるだろう。
外国人労働者は人口減少が進む日本で、貴重な労働力として欠かせない存在となっている。コロナ禍で生じた問題を教訓として、受け入れ体制の改善につなげていくことが期待される。
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(2021年04月02日「基礎研レター」)

03-3512-1790
- 【職歴】
2011年 日本生命保険相互会社入社
2017年 日本経済研究センター派遣
2018年 ニッセイ基礎研究所へ
2021年より現職
【加入団体等】
・日本証券アナリスト協会検定会員
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