2021年03月05日

コロナ禍における少子化対策-行動経済学から考えるネット型マッチングサービスにおける3 つの意思決定先送り要因

基礎研REPORT(冊子版)3月号[vol.288]

清水 仁志

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1―ネット型マッチングサービスの登場

日本において少子化が進行した主な要因は、非婚化・晩婚化である。しかし、今も昔と変わらず、独身者の多くは結婚願望を持っている。国立社会保障・人口問題研究所「出生動向基本調査」によると、「いずれ結婚するつもり」との回答は依然として85%を超えており、高水準を維持している。独身にとどまっている理由では、「適当な相手に巡り合わない」との回答が男女ともに5割程度存在しており、マッチングの効率化が、少子化対策に有効であると考えられる。
 
婚活におけるパートナー探しの方法は、ここ数十年で大きく変化している。以前は、知人・兄弟姉妹からの紹介やお見合い、結婚相談所などの仲介人型の婚活手段がメインであった。しかし、最近では、婚活アプリやSNS、オンラインビデオアプリを用いたイベントなどのより便利性の高いネット型サービスが登場している。これまでの結婚相談所などの伝統的なサービスと比べてネット型サービスの利用者は急増している。

2―マッチングサービスの利便化に伴う非マッチング

利便性の高いネット型サービスが登場し、普及する間においても日本全体の婚姻数の低下に歯止めはかかっていない。
 
本稿では、行動経済学の視点から、ネット型サ―ビスの特徴と、それら利用者の意思決定の先送りに関する3つの要因について考えてみたい。
 
1|選択肢の増加と「決定回避の法則」
 
「決定回避の法則」とは、選択肢が多い場合、どれを選ぶかを決めることが困難になり、結果、意思決定そのものをしなくなるという法則である。
 
これまでの仲介人型の婚活では数人~数十人の中から相手を選べばよかったが、ネット型サービスではサービス登録者数万人以上の中から一人を選ばなければならず、選択肢を吟味する負荷が大きくなった結果、選ぶこと自体をやめてしまっている可能性が指摘できる。
 
2|リアルの出会いからネット上での出会いへの変化と「確率の認知バイアス」
 
「確率の認知バイアス」とは、主観的確率が客観的確率とずれていることを示す。通常、客観的確率が90%といった比較的高い確率のものを実際はより低い確率と感じる一方で、10%といった比較的低い確率をより高く感じる傾向がある。
 
通常、出会いの機会が多くなると、相手に求める水準は高くなる。ネット型婚活サービスは、実際に相対することなく相手に関するある程度の情報を手に入れることができるため、その利用者の期待水準は相当程度押し上げられることが予想される。確かにネット上では期待水準を上回る相手は多そうではあるが、マッチングに至るには、オンラインからリアルへの移行が必須であり、実際にそうした好条件とされる相手とマッチングできる確率は非常に低いであろう。しかし、確率の認知バイアスは、あたかもそうした人が自分とマッチングできる可能性があると確率を過大認知してしまい、意思決定の先送りを行っている可能性がある。
 
3|単位コストの低下と「サンクコスト効果」
 
サンクコストとは、今後の意思決定にかかわらず回収が出来なくなった投資費用を指し、そのサンクコストを取り戻そうとする心理によって合理的な判断を妨げることを「サンクコスト効果」という。
 
従来の結婚相談所や友人からの紹介を通じたマッチングでは、比較的高額な金銭的コストや、断ったら申し訳ないといった心理的コストが大きく、相手に求める条件の不一致は、ある程度許容されるかもしれない。しかし、ネット型マッチングサービスでは、アプローチできる人数が増加した結果、一人当たりにかかるコストは著しく低下しており、サンクコストの低さから条件の不一致に対する許容度も低くなっている可能性がある。結果、自分の求める条件を少しでも相手が満たしていなければ、マッチングを見送る意思決定を行うかもしれない。

3―ネット型マッチングサービスの潜在的可能性を活かすために

ネット型マッチングサービスは、自身のコミュニティにおいて出会いがない人にとっては、コストを抑えつつマッチング機会を作る有用な手段である。また、コロナ禍においてはリアルでの出会いの場は急減しており、ネット型のサービスはその解決策となることが期待され、その潜在的可能性は計り知れない。
 
ネット型マッチングサービスの活用で、着実に婚姻数を増やしたいのであれば、デジタルが得意とするテクノロジー技術を駆使し、データをより詳細に分析することで個々の利用者に合致したサービスを提供し、先述した利用者の3つの意思決定先送り要因を惹起させないことが必要ではないだろうか。
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清水 仁志

研究・専門分野

(2021年03月05日「基礎研マンスリー」)

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