2021年03月02日

年金改革ウォッチ 2021年3月号~ポイント解説:2021年度の年金額と新型コロナの影響

保険研究部 上席研究員・年金総合リサーチセンター 公的年金調査室長 兼任 中嶋 邦夫

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1 ―― 先月までの動き

年金事業管理部会は日本年金機構の令和3年度計画案を議論し、前回の指摘事項を修正した計画案を大筋で了承した。
 
○社会保障審議会  年金事業管理部会
2月22日(第54回)  日本年金機構の令和3年度計画の策定、その他
URL https://www.mhlw.go.jp/stf/kanribukai-siryo54_00002.html (資料)
 

2 ―― ポイント解説:2021年度の年金額と新型コロナの影響

2 ―― ポイント解説:2021年度の年金額と新型コロナの影響

1月22日に、2021(令和3)年度の年金額改定の内容が公表された。本稿では、年金額改定の仕組みを近年の制度変更を含めて概観し、今後想定される新型コロナ禍の影響を考察する*1
 
*1 年金額改定の仕組みの詳細は、拙稿「2021年度の年金額は、現役賃金と同様に0.1%の減額(前編)」を参照。新型コロナ禍の影響の詳細は同稿の後編に記載したが、同稿より1か月直近の状況を反映した。
図表1 年金額改定ルールの全体像 1|年金額改定の仕組み:本来の改定(実質価値の維持)とマクロ経済スライド(健全化策)の合算
現在の公的年金額の改定(毎年度の見直し)は、2つの要素から構成されている。1つ目は、物価や賃金の変化に応じて年金額の価値を維持する部分であり、これが年金額改定の基本的な意義である(以下では、本来の改定という)。これに加えて、現在は年金財政を健全化している最中なので、少子化や長寿化の影響を吸収するための調整(いわゆるマクロ経済スライド)も加味される。2021年度の改定では、本来の改定率が-0.1%で、マクロ経済スライドは特例に該当して次年度へ繰り越されたため、年金額の改定率は-0.1%となった(図表1)。
図表2 本来の改定率の仕組み (1) 本来の改定率:2021年度から制度変更
本来の改定率は、物価の変動と賃金の変動の組合せで決まる(図表2)。このうち物価変動は、前年の消費者物価指数(総合・暦年平均)の対前年上昇率が使われる。2020年の前半には消費税率の引上げが影響したが、新型コロナ禍の影響もあり、年平均では±0.0%となった。他方、賃金の変動は、前年の物価上昇率と2~4年度前までの実質賃金変動率を合わせたもので、今回は-0.1%だった。

この組合せの場合、以前の制度なら本来の改定率はゼロ%になっていた。しかし2021年度分からは新制度が適用され、賃金変動率と同じ-0.1%になった。改正前の制度では、年金額の伸びが保険料収入を左右する賃金変動率を上回るため、年金財政が悪化する方向に働いていた。しかし、改正後の制度では賃金の伸びで改定するため、年金財政に中立的になる。受給者には痛みを伴う改正だが、現役世代も同様の痛み(賃金の低下)を受けており、いわば痛み分けと言えよう。
図表3 マクロ経済スライドの仕組み (2) マクロ経済スライド:2018年度から制度変更
マクロ経済スライドは年金財政の健全化に必要な方策だが、本来の改定率がマイナスの場合には実施されない(図表3)。実施されなかった分は、以前の制度では実施されないままになっていたが、年金財政の健全化を進めるため2018年度からは次年度に繰り越されている。今回は本来の改定率が-0.1%だったため、マクロ経済スライドの調整率-0.1%は次年度へ持ち越された。
 
2|新型コロナ禍の影響:2022年度から現れ、 マクロ経済スライドの繰越が続く懸念
2021年度の年金額は賃金変動率と同じ-0.1%で改定されることになったが、前述の通り、年金額改定に用いられる賃金変動率は前年の物価上昇率と2~4年度前までの実質賃金変動率の合算である。そのため、2020年度の新型コロナ禍の影響は2022年度の改定から3年間に分割して現れる。
図表4 年金額改定に関係する経済動向 2020年度の賃金変動は未確定だが、新型コロナ禍が影響する過程を確認するために、粗い試算を行った。最新の公的年金の事業月報(2020年9月分)によれば、年金計算用の賃金(標準報酬月額)は9月に前年比でマイナスに転じており、10月以降も同じ前年比なら、2020年度平均は-0.1%になる。ただ、毎月勤労統計の現金給与は12月に前年比-3.5%で、この前年比が続けば2020年度平均は-2.5%となる。

年金額改定用の賃金変動率は正確な把握が難しいが*2、前述の傾向を単純に織り込めば、2022年度の本来の改定率は-0.8~±0.0%のマイナス水準となる。この場合、年金財政の健全化に必要なマクロ経済スライドは再び繰り越され、ツケがたまる形になる。今後の動向を注視したい。
 
*2 公務員等(共済組合)を含み、かつ性別や年齢構成等の変化の影響を除去して計算される。
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保険研究部   上席研究員・年金総合リサーチセンター 公的年金調査室長 兼任

中嶋 邦夫 (なかしま くにお)

研究・専門分野
公的年金財政、年金制度全般、家計貯蓄行動

経歴
  • 【職歴】
     1995年 日本生命保険相互会社入社
     2001年 日本経済研究センター(委託研究生)
     2002年 ニッセイ基礎研究所(現在に至る)
    (2007年 東洋大学大学院経済学研究科博士後期課程修了)

    【社外委員等】
     ・厚生労働省 年金局 年金調査員 (2010~2011年度)
     ・参議院 厚生労働委員会調査室 客員調査員 (2011~2012年度)
     ・厚生労働省 ねんきん定期便・ねんきんネット・年金通帳等に関する検討会 委員 (2011年度)
     ・生命保険経営学会 編集委員 (2014年~)
     ・国家公務員共済組合連合会 資産運用委員会 委員 (2023年度~)

    【加入団体等】
     ・生活経済学会、日本財政学会、ほか
     ・博士(経済学)

(2021年03月02日「保険・年金フォーカス」)

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