2021年01月29日

図表でみる中国経済(新型コロナ禍の2020年を振り返って)

三尾 幸吉郎

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1.20年の中国経済(概況)

(図表-1)中国経済の実質成長率と消費者物価 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)が世界を襲った2020年、中国の経済成長率は実質で前年比2.3%増と、2019年の同6.0%増を3.7ポイント下回ることとなった(図表-1)。そして、天安門事件(1989年6月4日)で西側諸国から経済制裁を受けた1990年の同3.9%増を下回り、改革開放に舵を切った1978年以降の最低水準を塗り替えた。
まず中国経済の供給面に焦点を当てて産業別の実質成長率を見ると(図表-2)、新型コロナ禍への対策として実施された行動規制が直撃した宿泊飲食業は前年比13.1%減、卸小売業も同1.3%減と前年割れに落ち込んだ。一方、新型コロナ禍で経済活動がテレワークやライブコマースといった非接触型にシフトしたことを背景に、情報通信・ソフト・ITサービスは前年比16.9%増と高い伸びを示すこととなった。

他方、中国経済の支出面に焦点を当てて需要項目別の寄与度を見ると(図表-3)、新型コロナ禍で需要が落ち込んだ最終消費が▲0.5ポイントと、1978年の改革開放以降で初めてのマイナス寄与となった。一方、新型コロナ禍への対策として実施された大規模な財政出動を背景に、総資本形成は2.2ポイントと前年の1.7ポイントを上回るプラス寄与となった。また、純輸出も0.6ポイントのプラス寄与となった。COVID-19がパンデミック(世界的大流行)となるなかで、早期に感染が収束に向かった中国では、世界に先駆けて生産体制が正常化したため、新型コロナ禍で需要が増えた医療物資やハイテク製品などの輸出が増えたからである。

また、消費者物価は前年比2.5%上昇した。2019年に流行し始めたアフリカ豚熱(ASF)の影響で20年1月には同5.4%まで上昇率を高めたが、その後は次第に落ち着きを取り戻し、20年通期の消費者物価上昇率は19年の同2.9%上昇を0.4ポイント下回ることとなった(図表-1)。
(図表-2)産業別の実質成長率/(図表-3)需要項目別の寄与度

2.20年の新型コロナ禍(概況)

2.20年の新型コロナ禍(概況)

(図表-4)中国におけるコロナ禍との闘い 2020年の中国経済の詳細を述べる前に、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の概況を確認しておくことにしよう1
新型コロナ禍との闘いを振り返ると(図表-4)、2019年12月に最初の感染者が確認されたあと、新型コロナ混迷期を経て、1月20日に習近平国家主席が新型コロナ対策に全力を挙げるよう指示、1月23日には武漢を都市封鎖(ロックダウン)するなど防疫強化期に入った。その後2月中旬に爆発的感染が峠を越えると、中国政府は“復工復産”を旗印に経済活動再開に舵を切った。そして4月8日には武漢の都市封鎖を解除、5月下旬には新型コロナ禍で遅れていた全国人民代表大会(全人代、国会に相当)の開催に漕ぎ着け、財政・金融の両面で景気対策が本格稼働することとなった。その後も北京や新彊ウイグル自治区など各地では、散発的なクラスター(感染者集団)発生が見られた(図表-5)。しかし、厳格な防疫で早期に抑え込むのに成功したため、中国経済は徐々に回復して行った。20年の経済成長率の推移を見ると、新型コロナ禍で混迷した1-3月期に前年比6.8%減まで落ち込んだあと、4-6月期には同3.2%増、7-9月期には同4.9%増、10-12月期には同6.5%増と、期を追う毎に成長の勢いを取り戻すこととなった。

なお、中国におけるCOVID-19現況を見ると(図表-6)、2020年末時点で確認された症例は累計87,071人、退院が82,067人、死亡が4,634人なので、現存感染者は370人となっていた。また、現存感染者のうち重症症例が9人で、確認症例に含まれない無症状感染者が279人、疑似症例が1人だった。なお、経過観察中の濃厚接触者は13,584人、その累計は905,493人に達した。
(図表-5)COVID-19新規感染確認(百万人当たり)/(図表-6)中国におけるCOVID-19現況
 
1 中国における新型コロナウイルス感染症の感染爆発とその対策、そして政府や社会の動きに関する詳細に関しては、「中国におけるコロナ禍との闘いを振り返って~今後の政策運営にどう影響するのか?」ニッセイ基礎研レポート、2020-10-30を参照ください
 

3.20年の中国経済(推移)

3.20年の中国経済(推移)

(図表-7)小売売上高の推移 1|個人消費の推移
2020年、個人消費の代表指標となる小売売上高は前年水準を3.9%下回ることとなった。新型コロナ禍で防疫が強化された1-2月期には厳しい外出制限などを背景に前年比20.5%減まで落ち込んだ(図表-7)。その後は、徐々にマイナス幅を縮めたものの回復の勢いは鈍く、前年水準を上回るまで持ち直したのは8月のことだった。9月以降は前年水準を上回るようになったが、1桁台前半の伸びに留まり、結局20年通期では前年比3.9%減となった。他方、新型コロナ禍に伴う“巣ごもり”が追い風となったネット販売(商品)は前年比14.8%増と好調で、小売売上高に占める比率はおよそ25%に達した。なお、個人消費を取り巻く環境は改善傾向にある。調査失業率は5月を底に改善してきており(図表-8)、所得環境も1-3月期を底に改善してきている(図表-9)。
(図表-8)調査失業率(31大都市)/(図表-9)一人あたり可処分所得(実質)
2|投資の推移
投資の代表指標となる固定資産投資(除く農家の投資)は前年比2.9%増とプラスを維持した。新型コロナ禍で1-2月期には前年比24.5%減と落ち込んだものの、3月には早くも同0.2%増(推定2)と前年水準を回復し、4月以降は平均10%弱の伸びを示すこととなった(図表-10)。業種別では、不動産開発投資が前年比7.0%増で全体を牽引した(図表-11)。“疫情融資3”による大量資金供給(大水漫灌)でバブルが発生した面があると見られる。なお、製造業は前年水準に届かず、インフラ投資も同0.9%増と前年並みに留まった。また、主体別では、国有・国有持ち株企業は前年比5.3%増で全体を牽引した(図表-12)。他方、民間企業は同1.0%増に留まり、新型コロナ禍とその対策が追い風となった一部を除いて大半の業種で前年割れとなった(図表-13)。
(図表-10)固定資産投資(除く農家の投資)の推移/(図表-11)固定資産投資(除く農家の投資)
(図表-12)固定資産投資(国有と民間)の推移/(図表-13)民間投資の業種別動向(2020年)
 
2 中国では、統計方法の改定時に新基準で計測した過去の数値を公表しない場合が多く、また1月からの年度累計で公表される統計も多い。本稿では、四半期毎の伸びを見るためなどの目的で、中国国家統計局などが公表したデータを元に推定した数値を掲載している。またその場合には“(推定)”と付して公表された数値と区別している。
3 資金繰りに窮した中小零細企業を救済するために、元利払いを一時的に延期するモラトリアム的な金融措置のことで、3月1日に開始された。当初の期限は6月末までだったが、その後に後述のとおり期限が延長されることとなった。
3|輸出の推移
個人消費・投資と並ぶ第3の柱である輸出(ドルベース)は前年比3.6%増とプラスを維持した。防疫を優先し移動が制限された2月までは落ち込んだものの、爆発的感染が峠を越え、春節(旧正月)で帰郷していた農民工(出稼ぎ労働者)が職場復帰し、生産体制が正常化するとともに回復して行った(図表-14)。伝統的輸出品(服装、靴、帽子など)は不冴えだったが、世界で需要が増えた防疫関連(医療機器やマスクなど)や巣ごもり関連(PCや家電など)が好調だった(図表-15)。
(図表-14)輸出(ドルベース)の推移/(図表-15)輸出品目の増加率(2020年)

4.20年の財政金融政策

4.20年の財政金融政策

(図表-16)中国の一般政府債務残高(対GDP比)の推移 1|財政政策
新型コロナ禍に見舞われた20年、中国政府は「積極的な財政政策はさらに積極的かつ効果的なものにする必要がある」として財政運営に取り組んだ。具体的には、[1]財政赤字の対GDP 比率を3.6%以上として財政赤字を前年度より1兆元増やし、新型コロナ禍に対する疫病防御、経済への悪影響を緩和するための基本民生保障、減税・費用引き下げ、賃料軽減などに充てる、[2]財政赤字に算入されない感染症対策特別国債を1 兆元発行し、地方公共衛生などのインフラ建設と疾病対策関連支出に充てる、[3]地方特別債を昨年より1.6兆元増やして3.75兆元とし、主に「両新一重(新型インフラ建設、新型都市化建設、交通・水利などの大型建設工事)」に充てることとなり、20年の財政出動は前年比でおよそ3.6兆元増やす計画となった。そして、防疫体制の整備や国民の経済的ダメージを和らげる上では多大な貢献があった。但し、政府債務は拡大することとなった(図表-16)。
(図表-17)2020年の金融運営 2|金融政策
金融政策に関しては「穏健な金融政策はより柔軟かつ適度なものにする必要がある」として運営に取り組むこととなった。具体的には、「通貨供給量(M2)・社会融資総量の伸び率が前年度の水準を明らかに上回るよう促す」とするとともに、前述の“疫情融資”を21年3月末まで延長した。そして、経済をV字回復させる上では多大な貢献があったものの、銀行に返済を猶予させた元利金額は9月末時点で4.7兆元に達し、不良債権も増えてしまった4

なお、8月には「通貨供給量と社会融資総量の合理的増加を維持」と方針変更し、12月には住宅ローンに総量規制5を課すなど、金融政策は景気回復と歩調を合わせて、引き締め方向に軌道修正されて行った(図表-17)。
 
4 中国銀行保険監督管理委員会(銀保監会)は、2020年に銀行が処理した不良債権は3.02兆元に達し過去最大だったと発表している
5 「銀行業金融機関の不動産融資集中度の管理制度に関する通知」を指す。施行は21年1月1日。
 
 

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三尾 幸吉郎

研究・専門分野

(2021年01月29日「Weekly エコノミスト・レター」)

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