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- 新型コロナウイルスと各国経済-英国の変異種による感染拡大と経済活動状況
1――概要
特に、英国では感染力が強いとされる変異種が発見され、足もとの人口当たり新規感染者数は世界の中でも多く、冬には昨年春以来となる厳しい封じ込め政策を講じている。
そこで本稿では、英国経済を分析する上でも重要となる、新型コロナウイルスの感染状況、および封じ込め政策による人々の行動変化について高頻度データの状況などをもとに調査した。
・英国の新規感染者は年末年始にかけて急増しており、死者数も増加している。最近の人口当たりの感染者数・死亡者数は主要国のなかでも多い。
・イングランドでは昨年春を含めて、「ロックダウン(都市封鎖)」と呼ばれる封じ込め政策を3回実施している。1回目は昨年春(3月末~5月上旬)、2回目は昨年終盤(11月)、3回目は今年初め(1月~)である。
・人々の行動(混雑度や交通機関の利用状況など)はロックダウンを講じている時期に大きく減少した。ここから読み取れるロックダウンの厳格度は、1回目が最も厳しく、続いて3回目、2回目の順に穏やかになっていると考えられる。
・月次GDPからも、2回目のロックダウンによる経済の落ち込みは1回目と比較して全体的に軽微であったことが分かる。3回目のロックダウンによるGDPへの影響はまだ明らかになっていないが、行動データからは経済の落ち込みは1回目のロックダウンよりは軽微であるものの、2回目のロックダウン(11月)よりは落ち込む可能性が十分に考えられる。
・ONS(英国国家統計局)の感染率データでは、2回目のロックダウンを解除した12月以降には、変異種による感染が主流となっていたことが示唆されている。特にロンドンでは2回目のロックダウン期間中も明確な感染者の低下は見られず、ロックダウン解除後に感染が急拡大している。したがって3回目のロックダウン解除には慎重にならざるを得ない状況とみられる。
・一方、足もとでは感染者が減少に向かっていることに加えて、大規模なワクチン接種が開始されている。今後は、ワクチン普及による感染抑制効果も注目される。
2――世界のなかでの英国の状況
1 本稿以前に「新型コロナウイルスと各国経済」『ニッセイ基礎研レター』シリーズでMSCI ACWIの指数を構成する49 カ国・地域についての調査をしており、本稿でも特に断りがない限り、これらの国・地域を対象とする。世界比較ではこれら49か国・地域にベトナムを加えた地域のうちデータが取得可能な国・地域を対象としている。なお、昨年11月からACWI指数の構成国となったクウェートは除いている。
3――イングランドの封じ込め政策
それは、①春のロックダウン期(昨年3月末~7月頃)、②両立模索期(昨年7月頃~10月頃)、③冬のロックダウン期(10月頃~現在)の3つとなる。具体的な封じ込め政策の状況は以下の通りである。
2 「厳格度指数(Stringency index)」は「集会制限」「イベント中止」「職場閉鎖」「水際対策」「国内移動制限」「外出制限」「休校」「公共交通機関制限」と「新型コロナウイルスに関する情報発信」レベルの数値を合成した指数となっている。
この時期は、世界的にも感染拡大の初期であり、イングランドは3月23日夜から外出制限と営業制限を中心とした厳しいロックダウンを実施した。感染の収束とともに制限を緩和したのは5月11日からで、まず製造業などの出勤推奨などから段階的に緩和、6月1日に学校再開、そして7月4日に飲食店などで営業が再開され、厳しい封じ込めからは脱している(飲食店の営業再開は「パブ解禁」として報じられた)。
②(感染防止と経済活動維持の)両立模索期(昨年7月頃~10月頃)
政府は、「パブ解禁」後はソーシャルディスタンスを中心とした感染防止策を取りつつも経済活動も維持ずる姿勢を見せており、なかでも8月には外食支援策(Eat Out to Help Out scheme3)を実施、経済活動の支援も本格的に講じている。
3 8月3-31日に実施された政策であり、月-水曜日限定で、飲食店での店内飲食が10ポンド上限で50%割引となる。
その後、9月頃から感染者数の増加が目立ちはじめ(前掲図表1)、少しずつ感染防止策の強化がなされてきた。イングランドでは10月14日に、地域別に3段階の警戒レベルを設定、その段階に応じた規制を課す仕組みを導入した4。しかし、感染拡大が続く中で、11月5日から2回目のロックダウンに踏み切っている(12月2日まで)。この2回目のロックダウンは学校や製造業の職場が開いていたり、オンライン注文の商品を引き取るためのサービスが続けられたりと、春と比較すると厳しさは緩和されていた。
12月には予定通りロックダウンが解除されたものの、多くの地域で3段階の警報で最も高いレベル(Tire 3)が設定される状況が続き、それでも感染者数は収束に向かわなかった。こうした状況のなか、ジョンソン首相は12月19日の記者会見で、従来のウイルスより感染力が最大で7割強い可能性がある変異株がロンドンを含むイングランド南東部で流行していると発表、従来の3段階の警戒レベルに加えさらに強い警戒レベル(Tire 4)を設定した5。英国の変異種については、イングランド南東部の感染者数が急増したことと関連して昨年12月中旬から関係者が指摘していたが6、この記者会見で世界的に注目も集まった。
その後、最も強い警戒レベルの地域は拡大、年明けの1月5日には、3回目となるロックダウンに踏み切っている。学校は基本的にオンラインとなり、合理的な理由がない外出に対し罰金を科すなど1回目のロックダウンよりは緩いが2回目よりも厳しめの措置が講じられている7。
なお、冬のロックダウンは昨年11月(2回目)と今年1月以降(3回目)に分かれているが、その間の3段階警戒(途中から4段階に強化)でも多くの地域で厳しめの政策が続いていたことから、ここでは一括して冬のロックダウン期としている。
以上、イングランドの封じ込め政策は、①春に厳しいロックダウン、②夏から秋にかけて緩和、③秋から冬にかけて再び厳しいロックダウンと変化している。
4 警戒度で中程度(Tire 1)、高い(Tire 2)、非常に高い(Tire 3)の3段階で管理し、それぞれの段階に応じた封じ込め政策を実施。
5 新たに自宅待機(ステイホーム、Tire 4)を新設、さらに厳しい制限措置を導入した。
6 例えばhttps://www.gov.uk/government/news/phe-investigating-a-novel-variant-of-covid-19やマット・ハンコック保健・社会福祉相が下院で出した声明(https://www.bbc.com/news/av/uk-politics-55304340)。
7 遮蔽(シールディング、Shielding)と呼ばれる、感染リスクの高い人への対策も再導入されている(2回目では導入されず、Tire 4の地域で再導入、3回目のロックダウンでも実施されている)。
4――イングランドの封じ込め政策の影響・効果
共通して読み取れる事項としては、まず、政府の封じ込め政策の強化・緩和に応じて混雑度およびレストランの予約状況が上下していること、特にレストランの予約状況は、飲食店の店内飲食を制限した政府の政策が反映されていることが分かる。次に3回のロックダウン期(濃いオレンジ色の部分)について比較すると、いずれも混雑度やレストラン予約状況が低下しているが、2回目のロックダウン期の低下はやや緩やかで、1回目および3回目のロックダウンの影響(効果)が相対的に大きいことが分かる9。
なお、英国全体とロンドン市を比較すると、(この後見るように)感染拡大が目立つロンドン市の方が相対的に混雑度や活動状況のレベルが低いことが分かる。
交通機関の交通量も、混雑度などと同じで、ロックダウンの状況にあわせて上下している。また2回目ロックダウンによる交通量の低下が1回目や3回目より緩やかである点も共通している。細かく見ると、3回目のロックダウンの交通量が1回目のロックダウンよりやや多いことも分かる。
8 第5節でイングランドやロンドンにおける感染者数の動向などを見ていくが、本第4節におけるロンドンは狭いロンドン市(City of London)であり、後半で見るのは広域の大ロンドン(Greater London)である点に留意。
9 なお、レストラン予約(紫線)は、8月・11月・12月に急増している部分があるが、8月は外食支援策終了への駆け込み需要、11月は2回目のロックダウン公表(10月31日)から実施(11月5日)までの間の駆け込み需要、12月はクリスマスシーズンの需要と見られる。
(2021年01月27日「基礎研レター」)
03-3512-1818
- 【職歴】
2006年 日本生命保険相互会社入社(資金証券部)
2009年 日本経済研究センターへ派遣
2010年 米国カンファレンスボードへ派遣
2011年 ニッセイ基礎研究所(アジア・新興国経済担当)
2014年 同、米国経済担当
2014年 日本生命保険相互会社(証券管理部)
2020年 ニッセイ基礎研究所
2023年より現職
・SBIR(Small Business Innovation Research)制度に係る内閣府スタートアップ
アドバイザー(2024年4月~)
【加入団体等】
・日本証券アナリスト協会 検定会員
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