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新型コロナ 集団免疫論の是非ーワクチンがなくても、集団免疫は確立できるか?
基礎研REPORT(冊子版)1月号[vol.286]

保険研究部 主席研究員 兼 気候変動リサーチセンター チーフ気候変動アナリスト 兼 ヘルスケアリサーチセンター 主席研究員 篠原 拓也
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こうした中で、9月にブラジルの一部地域で、「集団免疫」を達成して感染が自然に終息に向かうという報告がなされた。自然感染に委ねることで、本当に集団免疫は確立するのか?考えてみたい。
ワクチンがない中での「集団免疫論」
感染症の感染力をみるうえで、「基本再生産数」という概念がある。これは、ある感染症にかかった人が、免疫を全く持たない集団に入ったときに、直接感染させる平均の人数を表す。WHO(世界保健機関)は、新型コロナの基本再生産数を、暫定的に1.4~2.5と示している。
仮に、基本再生産数が2.5だったとしよう。この場合、10人の感染者から2.5倍の25人に感染が拡大する。もし、25人のうち、15人以上が免疫を持っていれば、感染するのは残りの10人以下となるので、感染する人数が減り、いずれ終息するはずだ。つまり60%以上の人が免疫を持っていれば、感染は終息する。免疫を獲得するにはワクチン接種が必要だが、日本ではその導入はもう少し待つ必要がある。
そこで、こんな考えが出てくる。「実際に新型コロナにかかって免疫を獲得してしまえば、ワクチンと同じ効果があるはずだ。」3密回避などの予防策を一切とらずに、多くの人が感染すれば、集団免疫が機研究員の眼能して、いずれ感染は終息に向かう─これが、自然に集団免疫が確立するという「集団免疫論」の考え方だ。
ブラジルは集団免疫が確立した?
ブラジル全体では、7月のピーク時以後、新規感染の勢いはやや減じていたが、11月頃から再び感染が拡大しており、流行が下火になったとは言えない。
この論文は、別の専門家による査読前の段階で発表されており、科学的な真偽については精査が必要だ。だが、真偽のほどは別にして、内容がセンセーショナルなだけに、多くの物議を醸した。
現在、世界各国で感染拡大防止と経済活動再開の両立が進められている。そんな中、集団免疫論に期待する声も少なからずある。しかし、この集団免疫論には、否定的な見解も数多く寄せられている。
再感染や重症化リスクをどう捉えるか
ただ、新型コロナではそう簡単にはいかないことがわかってきた。数か月経つと抗体が減ってしまい、再感染する可能性があるというのだ。実際に、回復後に再感染した事例が各国で報じられている。新型コロナは「一度かかれば二度とかからない」というほど単純ではないようだ。
集団免疫確立までの「多くの犠牲」
先ほどの論文によると、マナウス地域では、住民1000人に1人の死亡率となっている。死亡者数が世界最多のアメリカでも0.6人程度、日本では0.01人ほどであることを踏まえると、この死亡率は、受け入れ難い。また、死亡には至らずとも、重症患者が多発して医療体制が崩壊する恐れもある。そうなれば、新型コロナ以外の患者にも影響が及ぶこととなる。
WHOは、集団免疫論について否定的な見解を示している。感染拡大を放置して集団免疫の獲得を目指すのは「科学的にも倫理的にも問題がある」との警告だ。
感染拡大はコントロールできているか
それでは、感染者数が最も多い東京で、濃厚接触者など、感染疑いのある人を中心に行ったPCR検査の結果はどうか?
検査の陽性率は、ここ数ヵ月10%未満で推移していることから、免疫を持つ人は、まだ限られているものとみられる。
いま日本には第3波が襲来しているが、欧米、ブラジル、インドのような爆発的な感染拡大状況ではない。
この状況で集団免疫論に従い、感染拡大防止措置を取りやめるのは無謀だ。やはり、ワクチン接種による集団免疫の確立を目指すことが適切といえるだろう。
* 論文名 “COVID-19 herd immunity in theBrazilian Amazon”
(2021年01月12日「基礎研マンスリー」)

保険研究部 主席研究員 兼 気候変動リサーチセンター チーフ気候変動アナリスト 兼 ヘルスケアリサーチセンター 主席研究員
篠原 拓也 (しのはら たくや)
研究・専門分野
保険商品・計理、共済計理人・コンサルティング業務
03-3512-1823
- 【職歴】
1992年 日本生命保険相互会社入社
2014年 ニッセイ基礎研究所へ
【加入団体等】
・日本アクチュアリー会 正会員
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