コラム
2020年12月15日

現在の株価は割高か-様々な指標から日本株の株価水準について考える

金融研究部 准主任研究員   原田 哲志

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1――上昇が続く日本の株式市場

中央銀行による大規模な資金供給や新型コロナウイルスのワクチン開発への期待などから株式市場の上昇が続いている。東証株価指数(TOPIX)は今年3月16日に最安値1236.34ポイントまで下落した後、11月末には、1754.92ポイントまで上昇している(図表1)。急速に株価が上昇する中、過熱感を指摘する声も多い。本稿では、様々な指標から現在の株価水準についてあらためて考えたい。
図表1 TOPIXの推移(年初来)
株価が上昇するとともに、代表的な株価の割安性指標である株価収益率(Price Earnings Ratio:PER)は上昇が続いている(図表2)1。TOPIXのPERの推移を見ると、今期の予想利益から算出される今期PERは11月末時点で22.9倍まで上昇しており、今期PERから見たTOPIXの水準は割高となっている。
図表2 TOPIXのPER(株価収益率)の推移(年初来)
しかしながら、この数値は今期業績に基づいた株価の割安性であり、来期以降の業績の回復予想は反映されていない。試しに来期と2期先の業績予想から単純計算してみると、11月末時点の来期PERは16.1倍、2期先PERは13.9倍となる。今期業績から見た場合と異なり、来期、2期先といった来期以降の業績から見た株価水準は、割高感は比較的少ない。

つまり、現在の株価は来期以降の業績回復を織り込んで上昇したと言えそうだ。企業業績の変化が急速で不確実な現在の状況では、従来通りの今期PERのみでは、株価水準について判断することが困難となっていることが考えられる。

実際に、企業業績を四半期毎に細かく見てみると、実績ベースの一株当たり純利益(Earnings Per Share:EPS)は11月末時点で22.4ポイントと、大幅に上昇している。足元の株価の上昇はこうした実際の業績の急回復などが背景となっていることが分かる(図表3,4)。
図表3 TOPIXのEPS(一株当たり利益)の推移(年初来)
図表4 TOPIXの四半期EPSの推移(年初来)
 
1 PERとは株価が割安か割高かを判断するための指標である。PERは株価を1株当たりの当期純利益で割って算出される。この値が大きいほど、企業の利益に対して株価が割高であることを示している。

2――様々な参考指標

株価の株価水準を考える上で、PERだけでなく様々な指標から見ることが必要だろう。近年では、サプライチェーンに関する情報やSNS2上の投稿といった新たなデータの資産運用などへの応用が試みられている。こうした新たなデータは、「オルタナティブデータ」と呼ばれ、注目されている。

その一つとして、野村證券が公表する、SNS投稿の情報に基づいて鉱工業生産指数を予測する「SNS×AI 鉱工業生産予測指数3」が挙げられる。同指数は、SNS上の日々の仕事や景気に関する書き込みを抽出し、その件数と他のデータを組み合わせることで、鉱工業生産指数を予測するものである。

図表5はSNS×AI 鉱工業生産予測指数と鉱工業生産指数の推移を示している。これを見ると、5月頃には、SNS×AI 鉱工業生産予測指数は鉱工業生産指数に先行して回復しており、SNS投稿から従来の鉱工業生産指数よりも早く景気回復を把握できる可能性が示されている。

また、鉱工業生産指数が当月の数値が翌月末に公表(例えば11月の数値は12月末に公表)されるのに対し、SNS×AI 鉱工業生産予測指数は一週間ごとにデータが公表され、速報性が高い。2020年11月の鉱工業生産指数は本稿執筆時点(2020年12月14日)では未公表だが、SNS×AI 鉱工業生産予測指数は前月比▲1.2%となっており、鉱工業生産の回復が停滞している可能性が示唆されている。こうした情報は、今後の企業業績や景気の動向を考える上で、参考となるだろう。
図表5 SNS×AI 鉱工業生産予測指数と鉱工業生産指数の推移(前月比)
また、現状では新型コロナウイルスワクチンの開発の進捗が株価を動かす重要な要因となっている。ワクチン開発の状況や期待を考える上で、米国のGood judgmentによるワクチンが提供される時期についてのアンケートが参考となる4。Good judgmentは米ペンシルバニア大学のBarbara Mellers教授などが中心となり、様々な出来事の調査・予測を目的として、アンケートなどの調査を行っているプロジェクトである。

図表6は、Good judgmentによる新型コロナウイルスのワクチンが提供される時期についてのアンケートの結果を示している。これを見ると、米国で2億人以上にワクチンが提供される時期について2022年6月以降との回答が、今年10月頃には多かった。しかし、11月以降には、2021年の4~6月もしくは同年7~9月の間という比較的早い時期にワクチンを提供できるという見方が増えている。11月9日には、米製薬大手ファイザーが開発中の新型コロナウイルスのワクチンの治験で90%以上の有効性が示されたと発表した。ファイザーは2021年末までに最大13億回分のワクチンを製造する計画を発表しており、大量のワクチンを早期に提供できるという見方が強まっている5

また、米モデルナや米ジョンソン・エンド・ジョンソン、英アストラゼネカなども治験の最終段階に入っており、各社のワクチン開発が進展している。
図表6 新型コロナウイルスのワクチン提供時期についてのアンケート調査結果
 
2 SNSとは、Twitterなどインターネット上などでのコミュニケーションや社会的ネットワークの構築を可能にするSocial Networking Servicesの略称である。
3 野村證券 金融工学研究センター 「SNS×AI指数」 http://qr.nomura.co.jp/quants/sns_ai/
4 Good Judgment「When will enough doses of FDA-approved COVID-19 vaccine(s) to inoculate 200 million people be distributed in the United States?」
https://goodjudgment.io/economist/
5 日経新聞 「米ファイザー、ワクチンの効果9割超に」2020年11月9日
https://www.nikkei.com/article/DGXMZO66016210Z01C20A1EA1000

3――おわりに

このように、株価の回復は、企業業績の回復や、ワクチン開発の進展が背景となっていることが分かる。金融緩和によるバブルを指摘する声も多いが、企業業績の回復などを見てみると、株価の上昇は必ずしも、金融緩和だけによるものではないと言えそうだ。株価水準については様々な指標から考えることが大事だろう。

もっとも、ワクチンは現状では米国で12月より実際に配布が開始される等、当初想定より早期に提供される見込みが強いものの、実際のワクチン接種においては慎重になる人も大勢いると考えられ、経済正常化への進捗が遅れるリスクもある。従って、今後もこうした関連指標を詳細にモニタリングしていくことが必要だろう。引き続き株式市場や関連する要因の動向に注目したい。
 
 

(お願い)本誌記載のデータは各種の情報源から入手・加工したものであり、その正確性と安全性を保証するものではありません。また、本誌は情報提供が目的であり、記載の意見や予測は、いかなる契約の締結や解約を勧誘するものではありません。
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金融研究部   准主任研究員

原田 哲志 (はらだ さとし)

研究・専門分野
資産運用、オルタナティブ投資、ヘッジファンド

(2020年12月15日「研究員の眼」)

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