コラム
2020年12月10日

韓国の新型コロナウイルスの勝者は「フライドチキン専門店」?-日本のコンビニ店舗数を上回る韓国のフライドチキン専門店-

生活研究部 上席研究員・ヘルスケアリサーチセンター・ジェロントロジー推進室兼任 金 明中

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<韓国では、中高年退職者がフライドチキン専門店を開業するケースが多いが、実態は3年しか続かない厳しい現実>

コロナ禍で多くの飲食店が業績悪化に苦しむ中で、一時は「自営業者の墓」とも言われていたフライドチキン専門店の売上が好調である。新型コロナウイルスの影響でデリバリーや持ち帰りによる中食需要が増加したからである。
 
韓国のフライドチキン専門店業界1位の「KyoChon」チキンの上半期の売上は2,156億ウォンで、昨年の上半期より15.8%増加した。業界2位の「bhc」の売上の増加幅は約30%だ。売上の増加をきっかけに「KyoChon」チキンを展開するKyoChon F&Bは11月12日にKOSPI(大手優良企業を対象とした韓国の有価証券市場)に上場し、上場日に上限価格を達成した。飲食業(外食)のフランチャイズとしては初めての上場である。KyoChon F&Bは、現在、韓国を含めた世界7カ国の1234店の店舗数を2025年までに1,500店まで増やす計画である。

日本のコンビニ店舗数を上回る韓国のフライドチキン専門店

韓国は「チキン共和国」と言われるほど、フライドチキン専門店が多い。韓国統計庁の発表によると、2018年時点の韓国のフライドチキン専門店の数は3万7000店に達している。一方、民間シンクタンクのKB経営研究所は、フライドチキン専門店に「ビール&フライドチキン専門店」で認可を受けた店を加えて、韓国のフライドチキン専門店は2019年2月現在約8万7000店に達すると発表した。2019年3月末時点の日本のコンビニ店舗数5万8340店を大きく上回る数値である。
 
韓国にフライドチキン専門店が多い理由としては、2016年に「高齢者雇用促進法」が施行されるまで、定年が法律で義務化されていなかったことがある。韓国では2013年4月30日に「高齢者雇用促進法」が国会で成立したことにより、2016年から従業員数300人以上の事業所や公的機関、そして2017年から従業員数300人未満のすべての事業所や国、そして地方自治体に60歳定年が義務化された。

退職後、比較的手軽に始められる

60歳定年制がない時代には、50代前半や50代半ばで会社を辞めた中高年者は退職金等を使ってフライドチキン専門店をオープンした。デリバリーや持ち帰り中心の店なら狭くても問題なく、他の飲食店に比べて賃貸料などの費用や開店費用(平均5,725万ウォン、日本円で約549万円(2020年12月4日為替レート適用))の負担が小さい。また、簡単な研修を受けて一週間ぐらい練習をすれば開店できること等がフライドチキン専門店を開店する人気の理由だった。
 
フライドチキン専門店の年間開店数は2014年に約9,700件でピークに達して以降は減少傾向に転じたものの、2018年時点でも約6,200店が新しく開店している。2015年以降の減少は2016年に「高齢者雇用促進法」が施行され、60歳定年が義務化されたのが一つの原因と考えられる。
韓国におけるフライドチキン専門店の年間開店・閉店数

飲食・宿泊業の平均存続期間は3.1年

問題は、フライドチキン専門店を含めた自営業者の経営が長く続かないことである。韓国銀行の経済研究院が2017年に発表した報告書によると、飲食・宿泊業の平均存続期間は3.1年に過ぎないことが明らかになった。フライドチキン専門店の閉店数は2015年から開店数を上回り、2018年には約8,000店が閉店に至った。これは、同時点の開店数6,200店を大きく上回っている。
 
新型コロナウイルスの影響でフライドチキン専門店の売上が一時的に増加しているものの、製造業を中心とする韓国経済はいまだに回復軌道に乗っていない。韓国銀行等は、来年には韓国経済が回復すると予想しているが、新型コロナウイルスによる問題が解決されない限り、経済回復を期待することは難しい。
 
当然のことであるが、韓国経済が回復しないとフライドチキン専門店の繁栄も長くは続かない。特にフライドチキン専門店を開業する定年退職者の多くは開業のために退職金を使い切り、さらに多くの債務を抱えている。店がつぶれると再就職も難しく後がない。世界がコロナ禍を早く乗り越え、世界経済が正常化されることを強く願うところである1
 
1  本稿は、「日韓を読み解く:韓国の新型コロナウイルスの勝者は自営の小さなフライドチキン専門店?」ニューズウィーク日本版 2020 年 12 月4 日 に掲載されたものを加筆・修正したものである。
https://www.newsweekjapan.jp/kim_m/2020/12/post-29.php
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生活研究部   上席研究員・ヘルスケアリサーチセンター・ジェロントロジー推進室兼任

金 明中 (きむ みょんじゅん)

研究・専門分野
労働経済学、社会保障論、日・韓における社会政策や経済の比較分析

経歴
  • プロフィール
    【職歴】
    独立行政法人労働政策研究・研修機構アシスタント・フェロー、日本経済研究センター研究員を経て、2008年9月ニッセイ基礎研究所へ、2023年7月から現職

    ・2011年~ 日本女子大学非常勤講師
    ・2015年~  日本女子大学現代女性キャリア研究所特任研究員
    ・2021年~ 横浜市立大学非常勤講師
    ・2021年~ 専修大学非常勤講師
    ・2021年~ 日本大学非常勤講師
    ・2019年  労働政策研究会議準備委員会準備委員
           東アジア経済経営学会理事
    ・2022年~ 亜細亜大学都市創造学部特任准教授
    ・2021年  第36回韓日経済経営国際学術大会準備委員会準備委員

    【加入団体等】
    ・日本経済学会
    ・日本労務学会
    ・社会政策学会
    ・日本労使関係研究協会
    ・東アジア経済経営学会
    ・現代韓国朝鮮学会
    ・韓国人事管理学会
    ・博士(慶應義塾大学、商学)

(2020年12月10日「研究員の眼」)

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