2020年12月08日

日銀短観(12月調査)予測~大企業製造業の業況判断D.I.は13ポイント上昇の▲14と予想、設備投資は下方修正へ

経済研究部 上席エコノミスト 上野 剛志

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12月短観予測:中国とGoToの牽引で景況感は改善、設備投資計画は下方修正へ

(景況感は2期連続の改善に) 
12月14日に公表される日銀短観12月調査では、海外経済の回復に伴う輸出の持ち直しや自動車販売の回復などを受けて、注目度の高い大企業製造業の業況判断D.I.が▲14と前回9月調査から13ポイント上昇し、前回調査に続いて景況感の回復が確認されると予想する。また、政府による需要喚起策「Go To キャンペーン」拡充などを受けて、大企業非製造業の業況判断D.I.も▲4と前回調査から8ポイント上昇すると見込んでいる(図表1)。ただし、それぞれのD.I.の水準は依然として新型コロナ拡大前(2019年12月調査では製造業が0、非製造業が20)を大幅に下回ることから、未だ回復途上にある点も鮮明になりそうだ。
 
前回9月調査では、夏場の新型コロナ感染第2波や設備投資の減少などが重荷となったことで力強さには欠けたものの、内外での経済活動再開や経済対策の効果を受けて、製造業・非製造業ともに、景況感の底入れが確認されていた(図表2)。

前回調査以降も中国を中心に海外経済が回復傾向にあり、輸出・生産の持ち直しが続いたほか、国内では10月から経済対策である「Go To トラベル」に東京が追加され、「Go To イート」も開始され、回復が遅れていた対面サービス需要が喚起された(図表3)。
(図表2)前回調査までの業況判断D.I./(図表3)生産・輸出・消費の動向
(図表4)景気ウォッチャー調査 景気の現状判断(水準)/(図表5)リーマンショック後との比較(業況判断D.I.)
一方、11月中旬にはコロナの感染拡大が鮮明となり、従来の感染の波を上回る「感染第3波」の様相となったことが客足の重荷になったばかりでなく、下旬には政府が「Go To トラベル」の一部地域除外を決定、一部自治体では「Go To イート」食事券の発効延期や飲食店への時短要請をせざるを得なくなった。

実際、本日公表された11月分の景気ウォッチャー調査(いわゆる街角景気)では、現状判断(水準)DI1が7カ月ぶりに低下している(図表4)。
 
今回、大企業製造業では、中国をはじめとする海外経済の回復に伴う輸出の持ち直しや、世界的な自動車需要の回復、家電などでの好調な巣ごもり需要等を受けて景況感が改善すると予想される(表紙図表1)。特に自動車産業は裾野が広いだけに、同産業が牽引する形で素材系など幅広い業種にも好影響が波及するだろう。

非製造業も、「Go To キャンペーン」拡充の効果などを受けて景況感が改善すると見込まれるが、訪日客の途絶が続いているうえ、11月に鮮明化した「コロナ感染第3波」が重荷になるため、改善幅は製造業を下回る。ただし、現段階では、「Go To キャンペーン」の全面停止や緊急事態宣言の再発令といった強い行動規制は回避されているため、景況感の改善が妨げられるまでの状況には至っていないとみている。

中小企業の業況判断D.I.は、製造業が前回から8ポイント上昇の▲36、非製造業が5ポイント上昇の▲17と予想(表紙図表1)。大企業同様、製造業・非製造業ともに景況感が回復に転じるものの、中小企業は輸出の割合が大企業ほど高くないうえ、危機後の回復が大企業よりも遅れる傾向があるため、上昇幅は大企業を下回ると見ている。
 
なお、先行きの景況感については、製造業と非製造業で方向感が分かれると予想。製造業では、コロナの感染が抑制されている中国を中心とする海外経済回復への期待から景況感のさらなる改善が示される可能性が高い。一方、非製造業は内需型産業が多いだけに、国内で感染拡大を続けている新型コロナへの懸念から、大企業の景況感は横ばい、中堅・中小企業では悪化が示されると予想している。なお、コロナワクチン実用化に向けた進展は前向きな材料だが、国内での普及時期も含めて依然として不透明感が強いため、影響は限られるだろう。
 
1 景気ウォッチャー調査におけるDIは通常3カ月前と比べた景気の方向感を示す指数を指すが、ここでは参考値として公表されている水準指数を使用している。
(設備投資計画はさらに下方修正へ)
2020年度の設備投資計画(全規模全産業)は、前年度比3.4%減(前回調査時点では同2.7%減)へ下方修正されると予想している(図表7・8)。
(図表6)設備投資関連指標の動向/(図表7)設備投資計画推移(全規模全産業)
(図表8)設備投資計画の予測表
例年、12月調査では、中小企業において計画が具体化してくることによって上方修正される傾向が強い。しかしながら、新型コロナの感染拡大に伴って収益が大幅に悪化したことで投資の原資となるキャッシュフローが減少したうえ、事業環境の先行き不透明感も依然として強い。このことから、企業の間で引き続き設備投資の見合わせや先送りの動きが広がり、前回調査に続いて設備投資計画が下方修正されると予想している。
(注目ポイント:雇用人員判断・資金繰り判断、ソフトウェア投資計画)
今回の短観においても、まず景況感や設備投資計画の動向が注目されるが、それ以外にも注目点は多い。

一つは雇用人員判断DIだ。コロナ禍での経済活動縮小を受けて企業の人手不足感は大きく緩和したが、今回の調査で人手不足感がさらに緩和しているのか、それとも人手不足感が再び強まっているのかが、今後の失業動向を占ううえで注目される(図表9)。

また、資金繰り判断DIもフォローが必要になる。コロナ禍が長期化するなかで、企業の間で再び資金繰り懸念が高まる兆しが出ていないかがポイントになる(図表9)。
(図表9)雇用人員判断と資金繰り判断/(図表10)ソフトウェア投資計画
さらに、コロナ禍を受けた企業の構造転換の動きを見るうえでは、ソフトウェア投資計画が注目される。テレワークの進展や遠隔サービス化の流れを受けたものとみられるが、ソフトウェア投資計画は前回調査でも上方修正されていた(図表10)。こうした流れがさらに拡大し、またDX(デジタルトランスフォーメーション)に向けた動きも顕在化してくることで、ソフトウェア投資計画がさらに上方修正されるかがポイントになる。
(日銀金融政策への影響)
今回の短観では、既述の通り、企業の景況感が引き続き回復を示す一方で設備投資計画が下方修正されると見込まれるが、こうした点が当面の日銀金融政策に与える影響は限定的になりそうだ。新型コロナの感染拡大が続いている点には警戒が必要だが、国内景気は最悪期を脱しているうえ、今のところ、緊急事態宣言の再発動など厳しい行動規制も課されていない。
 
また、日銀は今回のコロナ禍において、金融市場の安定と企業の資金繰り対応を優先課題としてきた。そうした中、既に今月の決定会合において、政府の追加経済対策と歩調を合わせる形で、新型コロナ対応特別オペとCP・社債買入れからなる「新型コロナ対応資金繰り支援特別プログラム」が延長される可能性が高まっている。

もともと政策金利の引き下げ余地が殆ど枯渇していることもあり、日銀は今後とも現行の金融緩和スタンスを維持したうえで、金融市場の安定と企業の資金繰り対応策を適宜延長・拡充していくと予想している。
 
 

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経済研究部   上席エコノミスト

上野 剛志 (うえの つよし)

研究・専門分野
金融・為替、日本経済

経歴
  • ・ 1998年 日本生命保険相互会社入社
    ・ 2007年 日本経済研究センター派遣
    ・ 2008年 米シンクタンクThe Conference Board派遣
    ・ 2009年 ニッセイ基礎研究所

    ・ 順天堂大学・国際教養学部非常勤講師を兼務(2015~16年度)

(2020年12月08日「Weekly エコノミスト・レター」)

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