2020年11月10日

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(2) 賃貸マンション
これまで上昇基調にあった東京23区のマンション賃料は転換期を迎えている。三井住友トラスト基礎研究所・アットホームによると、2020年第2四半期は前期比でシングルタイプが▲1.33%、コンパクトタイプが+0.15%、ファミリータイプが▲0.37%となった(図表-11)。シングルタイプは2016年第3四半期以来、ファミリータイプは2019年第2四半期以来の前期比マイナスとなった。緊急事態宣言やリモート授業・リモートワークの普及を受け、学生や転勤者等の移動(引越)が延期され、賃貸マンションの需要がやや弱含んだ。また、LMCによると、都心5区の平均募集賃料(9月末)は高値圏にあるなか、前月比では全ての区で下落となった。
図表-11 東京23区のマンション賃料
(3) 商業施設・ホテル・物流施設
商業セクターは、引き続きテナントの業態により、好不調の差がみられる。商業動態統計などによると、2020年7-9月の小売販売額(既存店、前年同期比)は百貨店が▲23.9%、コンビニエンスストアが▲5.4%、スーパーが+0.7%となった(図表-12)。百貨店は新型コロナウイルスの感染拡大に伴う外出自粛や悪天候の影響を受けて、12カ月連続で前年同月を下回った。コンビニエンスストアも、オフィス街を中心に都心部の来店客数が減少しており、7カ月連続で前年同月を下回った。一方、スーパーは、昨年9月の消費増税の駆け込み需要の反動で9月の販売額が前年比マイナスになったものの、住宅地を中心に日用品需要や巣ごもり消費が引き続き堅調であった。

主要都市に路面店舗を出店しているリテーラーを対象としたアンケート調査4では、リテーラーの約9割が売上減少などに伴い既存店舗の賃料減額をオーナーに要請したと回答した。また、シービーアールイー(CBRE)によると、リテーラーの出店ニーズの減少に伴い、ハイストリートの空室率(2020年第3四半期)は、「銀座」が2.6%(前期比+0.9%)、「心斎橋」が5.0%(前期比+3.7%)、「栄」が3.2%(前期比+3.2%)となり、前期から上昇した。
図表-12 百貨店・スーパー・コンビニエンスストアの月次販売額(既存店、前年比)
コロナ禍により甚大なダメージを受けたホテルセクターは、依然として厳しい状況にあるものの、回復に向かい始めている。2020年7-9月累計の訪日外国人客数は前年同期比▲99.7%の約2.6万人となった(図表-13)。また、宿泊旅行統計調査によると、2020年7-9月の延べ宿泊者数は前年同期比▲50.9%減少し、このうち外国人が▲97.3%、日本人が▲41.7%となった(図表-14)。一方、STR社によると、全国のホテル稼働率(9月)は39.5%と4月のボトム(14.1%)から回復しており、7月にスタートした政府の観光需要喚起策「Go Toトラベル」の効果が地方を中心に現れている。10月からは、「東京都を目的とする旅行」と「東京都に居住する人の旅行」も「Go Toトラベル」の対象に追加されたことから、今後、その効果が期待される。
図表-13 訪日外国人客数の推移(12ケ月累計、前年同月比は月次ベース)
図表-14 延べ宿泊者数の推移(月次、前年比)
CBREによると、首都圏の大型マルチテナント型物流施設の空室率(2020年9月末)は0.5%(前期比▲0.1%)となり、過去最低水準に低下した(図表-15)。ネット通販関連貨物の増加に伴い、EC関連企業は物流拠点の拡大に一段と積極的になっており、需要を牽引している。2021年第1四半期までに供給予定の大規模物流施設は、既に8割程度の面積が内定済みとのことである。近畿圏の空室率は4.0%となり、前期から▲0.8%低下した。近畿圏でも、EC関連や生活必需品を中心に、物流拠点の拡張ニーズが旺盛である。実質賃料は、首都圏が4,420円/月坪(前期比+0.7%)、近畿圏が3,970円/月坪(前期比+1.0%)と上昇した。
図表-15 大型マルチテナント型物流施設の空室率
 
4 CBRE「ジャパン特別レポート COVID-19:リテールマーケットへの 影響とアウトルック 2020年8月」
 

4. J -REIT(不動産投信)市場・不動産投資市場

4. J -REIT(不動産投信)市場・不動産投資市場

2020年第3四半期の東証REIT指数(配当除き)は6月末比+3.6%上昇した。セクター別では、商業・物流等が+6.9%、オフィスが+1.5%上昇した一方で、住宅が▲0.8%下落した(図表-16)。J-REIT市場は2期連続での上昇となったものの1-3月期の大幅下落(▲25.6%)に対して価格の戻りは鈍く、依然として昨年末対比で▲19.5%下落している。また、株式市場に対しては4四半期連続でのアンダーパフォームとなった。9月末時点のバリュエーションは、純資産10.5兆円に保有物件の含み益3.9兆円を加えた14.4兆円に対して時価総額は13.6兆円でNAV倍率は0.95倍、分配金利回りは4.1%(10年国債利回りとのスプレッドは4.1%)となっている。
図表-16 東証REIT指数の推移(2019年12月末=100)
J-REITによる第3四半期の物件取得額(引渡しベース)は2,663億円(前年同期比▲8%)、1-9月累計で9,816億円(同▲17%)となった(図表-17)。コロナ禍による影響で大きく落ち込んだ第2四半期(同▲48%)から回復し、前年並みの水準を確保した。アセットタイプ別の取得割合(1-9月累計)は、物流施設(40%)、オフィス(24%)、住宅(17%)、商業(9%)、その他(6%)、ホテル(5%)の順となった。引き続き、投資口価格が堅調に推移しスポンサーからの取得パイプラインが豊富な物流施設の取得が目立つ。
図表-17 J-REITによる物件取得額(四半期毎)
J-REIT市場は3月以降NAV倍率が1倍を下回り、不動価格の今後の下落リスクを織り込む水準で推移している。J-REITが示唆する今後の不動産価格の騰落率は、物流(+19%)を除いて、ホテル(▲18%)・商業(▲14%)・オフィス(▲8%)・住宅(▲0%)がマイナスとなり、市場全体では▲5%となっている(図表-18)。これに対して、実際の鑑定評価額(4-7月期決算、前期比)はホテル(▲4%)を除いてほぼ横ばいとなり、リーマンショック後に見られた急激な価格調整は起きていない。足もとでは、J-REIT等の金融市場と物件取引市場である不動産市場の間で不動産評価に対する温度差が感じられる。
図表-18 REIT市場が示唆する価格騰落率vs実際の価格騰落率
日経不動産マーケット情報(2020年11月号)によると、2020年第3四半期の取引額は6,313億円(前年同期比▲9%)となった。第2四半期(3,967億円・前年同期比▲59%)と比べて持ち直しつつある。こうしたなか、日本の不動産市場は、新型コロナウイルス感染拡大による影響が相対的に軽微との評価から、海外機関投資家の関心が高まっている。日本経済新聞社によると、「カナダの不動産ファンドであるベルトール・グリーンオークは、日本の不動産に対し、今後2~3年で最大1兆円の投資を行う計画であり、香港の投資ファンドPAGも今度4年程度で最大8,000億円の投資を行う」としている5 。今後も不確実性が高い金融市場環境が想定されるなか、海外資金を中心に投資家の不動産取得意欲は衰えていない模様だ。
 
5 日本経済新聞・電子版「不動産ファンド、日本で1兆円投資 企業売却受け皿に」2020年10月12日
 
 

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金融研究部   主任研究員

吉田 資 (よしだ たすく)

研究・専門分野
不動産市場、投資分析

(2020年11月10日「不動産投資レポート」)

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