2020年10月01日

日銀短観(9月調査)~企業の景況感は底入れしたが、回復の鈍さが目立つ、設備投資計画は異例の下方修正

経済研究部 上席エコノミスト 上野 剛志

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■要旨
 
  1. 9月短観は、景況感の底入れが確認される一方で回復ペースの鈍さが目立つ結果となった。大企業製造業では、中国向け等の輸出の回復や、国内での経済活動再開に伴う需要回復を受けて景況感が底入れした。特に需要が順調に回復している自動車が牽引役となり、幅広い業種に好影響が波及したとみられる。ただし、依然生産水準がコロナ前を大きく下回っているうえ、設備投資の減少も重荷となり、景況感の水準はコロナ前を大幅に下回っている。非製造業も、国内経済の再開に加え、経済対策の効果も一定程度あって景況感が持ち直しに転じた。一部では巣ごもりやテレワークも追い風となっている。ただし、訪日客の途絶が続いているうえ、新型コロナの感染再拡大が逆風となったことで、景況感の改善幅は製造業を下回っている。
     
  2. 先行きの景況感は全体として改善が限定的となった。冬場に向けてコロナ感染拡大への警戒が根強いためとみられる。そうした中、製造業と非製造業とでは明暗が分かれている。製造業では海外需要を中心に需要回復期待が台頭していること、産業の裾野が広い自動車が今後も増産計画を立てていることから、先行きにかけて明確な改善がみられる。一方で、牽引役を欠く非製造業では、大企業でほぼ横ばいに留まり、中堅・中小企業では悪化が示されている。
     
  3. 2020年度の設備投資計画(全規模全産業)は前年度比2.7%減へと下方修正された。例年、9月調査では上方修正される傾向が強いが、収益が大幅に悪化したことで投資余力が低下したうえ、新型コロナの行方など事業環境の先行き不透明感も強い。このことから、設備投資の見合わせや先送りの動きが広がり、この時期としては異例の下方修正となっている。
     
  4. なお、経済活動の再開にもかかわらず、雇用人員判断D.I.は前回から変化がなかった。人手不足感が乏しいままであるため、今後景気回復が遅れた場合には、人手過剰感が高まることで失業増加が加速する懸念がある。企業の資金繰り判断D.I.は、政策効果もあってやや改善した。
業況判断D.I.の改善幅は製造業が優勢(大企業)
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経済研究部   上席エコノミスト

上野 剛志 (うえの つよし)

研究・専門分野
金融・為替、日本経済

経歴
  • ・ 1998年 日本生命保険相互会社入社
    ・ 2007年 日本経済研究センター派遣
    ・ 2008年 米シンクタンクThe Conference Board派遣
    ・ 2009年 ニッセイ基礎研究所

    ・ 順天堂大学・国際教養学部非常勤講師を兼務(2015~16年度)

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