2020年10月05日

日本企業の企業文化

中央大学 総合政策学部   佐々木 隆文

このレポートの関連カテゴリ

年金資産運用 ESG などの記事に関心のあるあなたへ

btn-mag-b.png
基礎研 Report Head Lineではそんなあなたにおすすめのメルマガ配信中!
各種レポート配信をメールでお知らせするので読み逃しを防ぎます!

ご登録はこちら

twitter Facebook このエントリーをはてなブックマークに追加 Pocketで後で読む

文字サイズ

ESG投資が拡がりを見せる中、無形資産への注目が高まりつつあるが、企業行動やパフォーマンスに重要な影響を及ぼしうる無形資産の一つに企業文化がある。実際、日本企業のホームページを見ると、経営理念など企業文化に関連する情報がトップページに載っている企業は多く、企業が企業文化を経営上重要なものと位置づけていることが窺える。また、伊藤レポート2.0の6章の中では、企業のビジネスモデルや戦略の根幹にあるものとして、企業理念や企業文化を理解することが重要であると指摘されている。

企業文化には様々な定義があるが、近年の研究で一般的な定義として「組織中で幅広く共有され強く保有されている価値観(Values)や行動規範(Norms)」がある(O’Reilly and Chatman,1996)1。ここで価値観は「組織構成員が満たそうとする理想」、行動規範は「このような価値観を反映した日々のプラクティス」と定義される。このような企業文化は、コーポレートガバナンスなどのフォーマルな制度とともに企業行動に影響する。北米企業を対象にサーベイ調査を行ったGraham et al. (2019)では経営者が企業文化を経営上最も重要な経営資源の一つと捉えていることが明らかにされている2

日本企業の企業文化にはどのような特徴があるだろうか。国毎の文化の違いに焦点を当てたHofstede の研究では日本企業の特徴として不確実性回避(Uncertainty avoidance)の強さなどが挙げられる3。多額の現金保有、低いレバレッジといった保守的な日本企業の財務政策にはこうした特徴が多少なりとも影響していよう。他方、企業間の企業文化の差異に焦点を当てた研究ではCVF(Competing Value Framework)と呼ばれる分類方法が幅広く用いられ(図表1)、日本企業の特徴も分析対象となってきた。
 
1 O’Reilly ,C. A., Chatman, J.A., 1996. Culture as social control: corporations, cults, and commitment. In B.M. Staw and L.L. Cummings(Eds), Research in Organizational Behavior, Vol. 18. JAI Press.
2Graham, J., Grennan, J., Harvey, C., Rajgopal, S., 2019. Corporate culture: evidence from the field. NBER Working Paper 23255.
3 Hofstedeの研究については分析方法等について様々な批判があるが、近年はグローバルデータを用いたファイナンス分野の実証研究でも扱われるようになってきている。
図表1:CVFによる企業文化の分類
このフレームワークでは縦軸は柔軟性・裁量か安定性・コントロールか、横軸は外部重視・差別化か内部重視・統合かを示す。企業文化はClan(クラン)文化、Adhocracy(アドホクラシー)文化、Hierarchy(ヒエラルキー)文化,およびMarket(市場)文化の4つのカテゴリーに分類されるが、日本企業はClan文化の代表格として位置づけられてきた。

強いClan文化の下では、共有された価値観により望ましい行動を促すことができる。つまり、明文化されたルール等の代わりに「あうんの呼吸」で組織が機能するため、組織の管理に必要なコストを節約できる可能性がある。また、従業員の一体感がモチベーションを向上させる可能性もあろう。その一方、均一的な価値観が浸透している組織は外部環境の変化に対する対応が遅くなる可能性もあるし、管理会計などのマネジメントコントロールが弱くなることにより、各部門の採算管理が甘くなる可能性もある。

また、日本企業の企業文化はその形成過程にも興味深い特徴がある。図表2は日本企業を対象に行ったサーベイ調査と北米企業を対象としたGraham et al. (2019)との比較から、企業文化の形成過程の違いを見たものである。北米企業では経営トップが企業文化の形成に大きな影響を及ぼしている一方、日本企業では従業員が及ぼす影響が強くなっている。つまり北米企業ではトップダウンで企業文化が形成されるのに対し、日本企業では従業員主体のボトムアップで企業文化が形成されてきた。
図表2:企業文化の形成に影響を及ぼしているのは誰か
創業者の影響が強いことも踏まえると、日本企業の企業文化は長い歴史をかけて伝承されてきた性格を持つ。このような企業文化は良くも悪くも一朝一夕には変わらないだろう。昨今のガバナンス改革によりフォーマルな制度は変容しているが、日本企業の行動を理解する上では企業文化の特徴や企業文化と企業統治との相互作用も考慮すべきだろう。
 
4 Cameron, K.S., Quinn, R.E., 2011. Diagnosing and Changing Organizational Culture: Based on the Competing Values Framework. Jossey-Bass.
twitter Facebook このエントリーをはてなブックマークに追加 Pocketで後で読む

このレポートの関連カテゴリ

中央大学 総合政策学部

佐々木 隆文

研究・専門分野

(2020年10月05日「ニッセイ年金ストラテジー」)

アクセスランキング

レポート紹介

【日本企業の企業文化】【シンクタンク】ニッセイ基礎研究所は、保険・年金・社会保障、経済・金融・不動産、暮らし・高齢社会、経営・ビジネスなどの各専門領域の研究員を抱え、様々な情報提供を行っています。

日本企業の企業文化のレポート Topへ