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- インド経済の見通し~封鎖解除が進むも、厳しい感染対策の継続で景気回復は緩やかに。20年度は二桁マイナス成長を予想。(2020年度▲10.4%、2021年度+11.8%)
インド経済の見通し~封鎖解除が進むも、厳しい感染対策の継続で景気回復は緩やかに。20年度は二桁マイナス成長を予想。(2020年度▲10.4%、2021年度+11.8%)
経済研究部 准主任研究員 斉藤 誠
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経済概況:都市封鎖の影響が本格化、過去最大の落ち込み
4-6月期のGDPの急激な落ち込みは、新型コロナウイルスの感染拡大を受けてインド政府が3月25日に全国的な都市封鎖を実施したためだ。インドの都市封鎖は、必需品の販売店を除く全商業施設の閉鎖や工場の操業停止、州間移動の制限、そして公共交通機関とタクシーの利用の禁止など、世界的にみても厳しいレベルで実施された。政府は全土封鎖を継続しつつ、4月20日から感染が抑制されている地域で製造業や建設業、貨物輸送などの操業再開を許可、5月4日と18日にも対象業種を拡大するなど部分的な活動制限の緩和を先行的に実施、そして6月から封鎖解除の第1期2をスタートした。活動制限は徐々に緩和されているが、英オックスフォード大学が算出した指数「Stringency Index(厳格度指数)」をみると、インドは6月以降も80弱の高めの水準で推移していることが分かる(図表2)。このように4-6月期は厳しい封鎖措置が続いて経済が停滞、GDPの約6割を占める民間消費(前年同期比▲26.7%)と総固定資本形成(同▲47.1%)が大幅に減少する結果となった。
実質GVA成長率は前年同期比22.8%減(前期:同3.0%増)と急減した(図表4)。産業別に見ると、第一次産業が前年同期比3.4%増と堅調だったものの、第二次産業(同38.1%減)と第三次産業(同20.6%減)がそれぞれ大幅に落ち込んだ。主に製造業(同39.3%減)と建設業(同50.3%)、商業・ホテル・運輸・通信(同47.0%減)の落ち込みが大きかった。
1 8月31日、インド統計・計画実施省(MOSPI)が2020年4-6月期の国内総生産(GDP)統計を公表。
2 6月1日から人やモノの無制限の移動を許可、6月8日からの「フェーズ1」ではショッピングモールやホテル、レストラン、宗教施設などの再開を許可、「フェーズ2」では教育施設の再開(決定時期は7月の予定)、「フェーズ3」では国際線の運航やメトロ、映画館、娯楽施設、大規模集会の再開を許可する方針。このほか、封じ込めゾーン以外では、夜間外出禁止令の時間帯を「午後7時~午前7時」から「午後9時~午前5時」に短縮された。
経済見通し:感染対策による経済正常化の遅れで過去最大のマイナス成長に
6月に始まった都市封鎖の段階的解除は着実に進んでおり、9月1日からは4期目の封鎖解除がスタートしている。感染状況が深刻な「封じ込め地域」以外では経済の活動レベルが上がってきており、7-9月期以降は景気持ち直しに向かうだろう。もっともインドは封鎖解除をきっかけに新型コロナの感染者が急増、現在1日当たりの新規感染者数が9万人を上回り(累計感染者数は400万人超)、世界最多記録を更新するまでになっている。上述のインドの厳格度指数が高水準で推移しているとおり、経済再開は厳しい感染対策との両立で進めざるをえない。実際、いくつかの都市や州では局地的なロックダウンを余儀なくされている。
またインド政府は危機的状況にもかかわらず、新型コロナ対応の財政支援策は極めて小規模なものとなっている。今後は銀行の不良債権問題が一段と悪化して、政府は金融不安を避けるために資金注入を実施するだろうが、財政余力が乏しいために景気対策には引き続き期待できない。
新型コロナの大流行により、インドでは何百万人もの出稼ぎ労働者が突然の都市封鎖による失職または感染リスクを避けるために故郷に戻ったとみられている。全土封鎖が解除されたとはいえ、国内感染の収束が見通せない状況が続く中では帰省した労働者が直ぐに都市部に戻るとは考えにくく、当面は労働力不足が企業の活動再開を阻む障害となるだろう。農村専門のウェブ・ニュースサイト「ガオン・コネクション」が実施した全国調査によると、再び都市への出稼ぎ労働を予定する者は全体の41%と多くない。
20年度は民間部門を中心に減少して実質GDP成長率が▲10.4%(19年度:+4.2%)となり、過去最大のマイナス成長を記録すると予想する(図表5)。民間部門は段階的な封鎖解除による経済再開を受けて7-9月期に大きく持ち直すだろうが、その後の回復には時間がかかりそうだ。コロナ陽性者の急増に伴う外出の自粛やソーシャルディスタンスの確保等が外食や娯楽などの支出を抑制して経済活動が停滞、倒産や失業者が増加する展開が予想される(図表6)。また海外出稼ぎ労働者からの本国送金が減少することも民間消費の重石となるだろう。民間投資については、内需低迷を背景に民間消費以上に持ち直しが遅れると予想する。
21年度は経済正常化の進展と前年度の低水準だったことによる反動増により、成長率が+11.8%まで上昇すると予想する。
(物価の動向)農業生産の回復で食品インフレは沈静化
インフレ率(CPI上昇率)は、昨年前半までは国内経済の停滞などから概ね+3%前後の安定的な推移が続いていたが、9月以降は急速な物価上昇が続いて今年1月に同+7.6%まで上昇、その後も高水準が推移している(図表7)。物価上昇は、初めは昨年の雨季の豪雨による作物被害によって野菜をはじめとする食品価格が高騰したためであったが、その後の高止まりは都市封鎖に伴う物流の混乱のほか、食品の買いだめなどによって物価が押し上げられたためである。先行きのインフレ率は、局地的な都市封鎖の影響で物流の正常化が遅れるため、短期的には高止まりするだろうが、農業生産は好調であり、農作物が国内市場に行き渡るなかで中央銀行のインフレ目標圏内(+2.0-6.0%)まで低下していくだろう。また新型コロナ感染拡大を背景とする油価下落や需要減少の影響、そして昨年度インフレ率が高水準だったことも、今後の物価上昇圧力を後退させるものとみられる。その後は21年度後半に景気回復による需給改善が進むなかで、インフレ率が再び上向くだろう。CPI上昇率は19年度の+4.7%から20年度が+5.6%に上昇、21年度が+3.9%に低下すると予想する。
(金融政策の動向)年内1回の追加利下げを予想
インド準備銀行(中央銀行、RBI)は景気減速に歯止めがかからないなか、昨年2月から5会合連続の利下げを実施した(図表8)。その後は中銀の物価目標を上回るインフレ警戒感から政策金利が据え置かれていたが、今年は新型コロナの感染拡大によって大打撃を受けた経済状況を踏まえ、定例会合開催前の3月と5月に緊急利下げを実施し、政策金利(レポレート)をそれぞれ0.75%、0.40%引き下げた。RBIは政策金利の調整のほか、市場機能の改善や輸出入支援、金融ストレスの緩和などを目的とした大規模な流動性供給や規制緩和を打ち出している。先行きについては、年内1回の追加利下げを予想する。過去最大の経済の悪化を踏まえ、RBIは今後のインフレ率の持続的な低下を確認してから、年末にかけて慎重に追加的な利下げ(▲0.5%)を決定するだろう。その後は低金利で据え置き、来年度に景気回復に伴うインフレ率の再上昇を確認した段階で政策金利を引き上げていくものとみられる。
(お願い)本誌記載のデータは各種の情報源から入手・加工したものであり、その正確性と安全性を保証するものではありません。また、本誌は情報提供が目的であり、記載の意見や予測は、いかなる契約の締結や解約を勧誘するものではありません。
(2020年09月07日「基礎研レター」)
03-3512-1780
- 【職歴】
2008年 日本生命保険相互会社入社
2012年 ニッセイ基礎研究所へ
2014年 アジア新興国の経済調査を担当
2018年8月より現職
斉藤 誠のレポート
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