2020年08月12日

景気ウォッチャー調査(20年7月)~現状判断DIは上昇も、先行きに不透明感~

山下 大輔

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1.景気の現状判断DIは3か月連続で改善、先行き判断DIは大幅下落

8月11日に内閣府から公表された2020年7月の景気ウォッチャー調査(調査期間:7月25日~31日)によると、3か月前との比較による景気の現状判断DI(季節調整値)は41.1と前月から2.3ポイント上昇した。また、2~3か月先の景気の先行き判断DI(季節調整値)は36.0と前月から8.0ポイント低下した。

現状判断DIは、4月に7.9まで落ち込んだ後に5月から3か月連続で改善した。景気の現状判断DIの回答者構成比をみても、5月までは悪化と回答した割合(「悪くなっている」と「やや悪くなっている」の回答の合計)が全体の8割超であったが、6月はその割合が半分未満に減少し、7月は更に減少した。ただし、7月は、改善と回答した割合(「良くなっている」と「やや良くなっている」の回答の合計)が6月とほぼ同じであり、現状維持(「変わらない」の回答)が増加する結果となっている。他方で、現状判断DIとともに先月まで2か月連続で改善していた先行き判断DIは7月で下落に転じることとなった。先行き判断DIの下落幅は、直近1年間では、2020年2月(前月差▲17.2ポイント)に次ぐ大きさである。

緊急事態宣言の解除により、経済活動が再開され、景況感に持ち直しの動きが続いているものの、新型コロナウイルス感染症の感染者の増加や天候不順などにより持ち直しの動きが弱まっている。加えて、最近の新型コロナウイルス感染症の感染者の増加に対する強い警戒感が景気の先行き判断に影響を与えている。なお、現状判断DIについても依然として50を下回っており、依然として厳しい景況感であることに変わりはない。
現状判断DI・先行き判断DIの推移/現状判断DI・回答者構成比

2.景気の現状判断DI(季節調整値):家計は横ばいに

現状判断DI(季節調整値)の内訳をみると、企業動向関連(前月差+7.4ポイント)と雇用関連(同+6.4ポイント)は改善する一方、家計動向関連は前月と変わらなかった(前月差+0.0ポイント)。家計動向関連の内訳をみると、サービス関連(前月差+6.0ポイント)や住宅関連(同+5.7ポイント)、飲食関連(同+1.7ポイント)では前月から引き続き上昇となったが、小売関連では前月から低下する結果となった(同▲3.7ポイント)。

回答者のコメントをみると、「3か月前に比べれば、最悪期は脱しつつある。個人への10万円の給付金等、政府のばらまき施策が効いて、単価の高いエアコンやパソコンが売れている。ただし、7月に入り天候不順もあり前年超えは微妙である。」(東海・家電量販店)、「国や自治体の特別定額給付金やGo To Travelキャンペーンなどの効果で客が動き出した。また、客が動き出す気配も強まっている。」(北海道・旅行代理店)、「特別定額給付金の特需効果が出ている。住宅設備機器ではエアコン、給湯器、コンロなどの交換が急増しており、リフォームでは屋根外壁塗装工事やハウスクリーニングの問合せが増えている。」(東北・その他住宅)、「3か月前は外出自粛の影響で消費が冷え込んでいたため、それに比べると大幅に上向いている。特に、家電製品は10万円の特別定額給付金の影響で、好調な荷動きが続いている。」(近畿・電気機械器具製造業)など、経済対策の政策効果による消費下支えへの言及が多々みられた。そのほか、家計動向関連の小売関連では「7月に入り雨の日が非常に多く、なかなか来客数が伸びない。また、レジ袋の有料化が始まって、販売量も伸びないため、売上に影響を受けている。」(甲信越・コンビニ)、飲食関連では、「大きな団体の宴会は皆無だが、少人数の飲食が目立つ。客単価もやや高い傾向である。」(北関東・一般レストラン)、サービス関連では、「県外客やインバウンド客の減少により、県内客や近県客の集客争いとなっているため、単価が大幅に低下し、売上も大幅に減少している。ただ、来場人数は前年並みに回復傾向にある。」(中国・ゴルフ場)、住宅関連では、「住宅ローン控除の延長対象期限に間に合わせるため、9月末までの請負契約を考えている客の動きが活発化している。」(北陸・住宅販売会社)などのコメントがあった。また、企業動向関連では「3か月前と比較すると、経済活動の再開とウィズコロナ関連での需要により案件が増加しており、当社の景況感としてはやや良くなっている。」(北海道・通信業)などのコメントがあった。

緊急事態宣言が解除され経済活動に徐々に持ち直しの動きがみられる状況ではあり、特別定額給付金やGo to トラベルキャンペーンなどによる消費下支え効果も期待されるところではあるが、最近の新型コロナウイルスの感染者数の増加や豪雨等の天候不順などが景況感に悪影響を及ぼし、家計動向関連の景況感が前月から改善しない結果となったと考えられる。また、キャッシュレス・ポイント還元事業が6月末で終了したことやレジ袋の有料化なども一定の負の影響を与えている可能性があるように思われる。
現状判断DIの内訳の推移/先行き判断DIの内訳の推移

3.景気の先行き判断DI(季節調整値):全ての内訳で悪化

また、2~3か月先の景気の先行き判断DI(季節調整値)の内訳をみると、家計動向関連(前月差▲9.9ポイント)、企業動向関連(同▲2.3ポイント)、雇用関連(同▲8.2ポイント)の全てで前月より悪化した。

回答者のコメントをみると、「新型コロナウイルスの感染拡大が収まらなければ、一層の外出自粛や再度の営業自粛、緊急事態宣言が発出されるため、悪くなる」(甲信越・高級レストラン)、「新型コロナウイルスによる経済への影響は2~3年続くとみられていることから、民間の建設投資に対する意欲が減退し、冬季に向けて厳しい状況が続く」(北海道・建設業)、「主な要因である新型コロナウイルス感染を収束させることが、最も効果ある対策であると考えられるが、当面の間期待できない」(九州・職業安定所)など、新型コロナウイルスの感染拡大を懸念する意見が相次いだ。他方で、「国から在宅勤務7割の要請が出たため、リモートワークの見直しや、設備投資などで問合せが増えている。(東北・通信業)」などのコメントもあった。

新型コロナウイルス感染症の感染者が再び増加傾向に転じたことに伴い、新型コロナウイルス感染症の短期間での終息を見込みにくいとの予想が共有され、経済への影響も長期化することが見込まれることへの強い警戒感が示されている。業種による影響の違いはあるものの、新型コロナウイルス感染症の今後の感染動向次第では、先行き判断が更に悪化する可能性があると考えられる。
 
 

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山下 大輔

研究・専門分野

(2020年08月12日「経済・金融フラッシュ」)

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