2020年07月24日

コロナ禍でも業績が上振れしそうな企業

金融研究部 主席研究員 チーフ株式ストラテジスト 井出 真吾

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1――はじめに

まもなく2020年度第1四半期(4月~6月)の決算発表が本格化する。例年、この時期に業績予想を変更する企業は少ないが、年度末まで残り9ヶ月ある第1四半期時点での見通し変更は重要な意味を持っている。
 

2――期初予想を公表した企業は半分に満たない

2――期初予想を公表した企業は半分に満たない

一般的に上場企業は前年度決算を発表する際に、今期の業績見通し(期初予想)も公表する。3月決算企業の場合、4月後半から5月前半だ。ところが今年は「コロナ禍の影響が見通せない」として、業績予想の公表を見送る企業が続出した。
 
東証1部に上場する3月決算企業で15~19年度の期初予想を公表した1,179社のうち、20年度の期初予想を公表した企業は45.3%(534社)に過ぎず(経常利益ベース)、前代未聞の事態となった。
【図表1】期初に業績予想を公表した企業は過半数割れ

3――第1四半期時点の予想修正は重要情報

3――第1四半期時点の予想修正は重要情報

7月下旬には第1四半期(1Q)の決算発表が本格化する。その時点で最新の業績予想も発表されるが、去年までの5年間では見通しを据え置く企業が大半で、上方修正した企業は全体の3%程度、下方修正は2%程度と極端に少なかった(図表2左)。
 
期初予想を公表してから僅か3ヶ月しか経過していない上、年度末まで残り9ヶ月間あることを考えれば当然だろう。逆に言えば、「残り9ヶ月あるのに見通しを修正した」ということでもある。
 
実は、1Q決算時点での業績予想の修正は重要な意味を持つ。というのも、15~19年度の1Q決算時点で業績予想を上方修正した企業の53%が中間決算時点(約3ヶ月後)に再び見通しを引き上げ“2段階アップ”となったからだ(図表2右)。
 
もし1Q決算時点で見通しを引き上げたにもかかわらず中間決算時点で一転して下方修正となれば、上場企業の経営者としては格好がつかない。そればかりか、場合によっては経営手腕に疑問を突き付けられかねない。経営者の心理をこのように考えると、1Q決算時点での上方修正は残り9ヶ月への“自信の表れ”といえそうだ。
 
一方、1Q決算時点で下方修正した企業のうち34%は中間決算時点でも見通しを引き下げ“2段階ダウン”となった。残り9ヶ月での挽回を期して1Q時点では下方修正幅を限定的にしたものの、思ったほど挽回ならず中間決算時点で断念したのだろう。
 
株式市場では、業績不振が囁かれる企業が見通しを引き下げると「悪材料出尽くし」などとしてその企業の株が買われることもある。しかし、実際は3社のうち1社は業績見通しがさらに悪化したことから、悪材料が本当に出尽くしたのか慎重な見極めが必要だ。
【図表2】第1四半期時点で上方修正した企業の過半数が“2段階アップ”

4――上方修正の常連企業

4――上方修正の常連企業

当初は「夏になれば終息する」とも言われていた新型コロナウイルスだが、7月17日に東京の新規感染者が293人と過去最多を更新、アメリカでも1日あたりの新規感染者が7万人を超える日が続くなど、終息する気配すらない。
 
当然、企業を取り巻くビジネス環境も先行き不透明感が強い。今月下旬から本格化する1Q決算時点で業績見通しを引き上げる企業は例年以上に少ないかもしれない。仮に1Q時点で上方修正する企業があれば、図表2で示したように2段階アップの可能性が高いだけでなく、中間決算時点で下方修正する可能性が低いので業績面での不安は少ないといえるだろう。
 
一方、企業数が多く投資先選定の参考としてより現実的なのは、1Q時点では見通しを据え置くものの、中間決算時点で上方修正する企業だろう(図表2左で95%、右で21%に該当する企業)。こうした企業の特徴を掴むため、過去5年連続で「1Q予想=据え置き、中間予想=上方修正」であった“常連企業”を探したところ、図表3の5社が該当した。
 
大手ゼネコンはこれまでオリンピック特需に支えられてきた面がある。ただ、オリンピック対応を優先するために建築現場の人員不足や資材不足で“順番待ち”になっていた案件は多いと聞く。
 
常連企業には地方銀行も目立つ。銀行は期初に貸し倒れ費用を多めに見積もるが、通常はそれほど必要にならない(見積もったほどの貸し倒れが発生しない)ので、結果的に業績が上振れしやすい。20年度はコロナ禍で例年よりも倒産が増えるとみられるが、一方でコロナ支援の保証付き融資も増えており、その綱引きとなりそうだ。
【図表3】上方修正の常連企業
参考情報として、「過去5年のうち4回、1Q予想=据え置き、中間予想=上方修正」であった上方修正の“準常連企業”を図表4に掲載しておく。図表3の5社も合わせて、全体的に内需企業が目立つ。海外景気や為替など自社でコントロール不能な外部要因の影響を受けにくいことも、業績が上振れしやすい背景と考えられる。
 
無論、これらの企業が20年度も中間決算時点で上方修正する確証はないが、投資先企業の一次スクリーニングとしては活用できるだろう。
 
また、世界的に社会構造が変化しつつあることを考えれば、去年までのデータでスクリーニングした上記企業の他にも、リモート関連や巣ごもり関連などコロナ禍が追い風になる業態もある。新たな観点からの企業の業績動向も注視したい。
(参考)【図表4】上方修正の準常連企業
 
 

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金融研究部   主席研究員 チーフ株式ストラテジスト

井出 真吾 (いで しんご)

研究・専門分野
株式市場・株式投資・マクロ経済・資産形成

(2020年07月24日「基礎研レポート」)

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