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- ECB政策理事会-中期的な課題に焦点
2020年07月17日
1.結果の概要:政策は変更なし
7月16日、欧州中央銀行(ECB:European Central Bank)は政策理事会を開催し、金融政策について決定した。概要は以下の通り。
【金融政策決定内容】
・変更なし
【記者会見での発言(趣旨)】
・6月のマクロ経済見通しに沿う形で4-6月期にはさらに縮小すると予想される
・インフレ率は21年に回復する前に、今後数か月で再度低下する
・大きく事態が改善しない限り、PEPPは総枠を利用する
2.金融政策の評価:足もとが落ち着き、中期的課題に焦点
金融政策は現状の政策を維持し、市場予想通りであった。
政策の変更については、記者会見で階層化乗数(tiering multiplier)1の変更についての質問があったが、理事会では特に議論がされていないことが明かされた。またPEPPに関して、一部の委員から総枠の利用をしない可能性が言及されたことや、足もとの購入ペースが鈍化していることから、枠の利用ペースについての質問も見られた。しかし、ラガルド総裁は基本的には総枠を利用する予定であるとのハト派な回答をしている。
ただ、質疑応答では全体として見ると、景気が底入れしていることもあって、足もとの金融政策から、中期的な課題(例えば政策の崖、欧州の二極化、グローバル化への影響、戦略見直しなど)に関する質問や今週末に開催されているEU首脳会議と復興計画についての質問が多かった。
理事会が主導する戦略見直しについては、やるべきことが多くあるとしつつ、パンデミックからの学びも踏まえたものにする旨の回答をしている。「次世代のEU」の復興計画については、前提として補助金の多い基金が合意されるとの見通し置いていると回答しつつ、交渉の早期合意に対する期待を述べている。
景気回復が、6月のマクロ経済見通しに沿う形で進んでいることもあって、金融政策への注目も足もとの刺激策の検討・実施から、今後の政策評価や出口戦略、そして戦略見直しなどに集まっていると言えるだろう。
1 超過準備のうち、預金ファシリティ金利が適用される部分。現在は法定準備額×6となっており乗数は「6」。
政策の変更については、記者会見で階層化乗数(tiering multiplier)1の変更についての質問があったが、理事会では特に議論がされていないことが明かされた。またPEPPに関して、一部の委員から総枠の利用をしない可能性が言及されたことや、足もとの購入ペースが鈍化していることから、枠の利用ペースについての質問も見られた。しかし、ラガルド総裁は基本的には総枠を利用する予定であるとのハト派な回答をしている。
ただ、質疑応答では全体として見ると、景気が底入れしていることもあって、足もとの金融政策から、中期的な課題(例えば政策の崖、欧州の二極化、グローバル化への影響、戦略見直しなど)に関する質問や今週末に開催されているEU首脳会議と復興計画についての質問が多かった。
理事会が主導する戦略見直しについては、やるべきことが多くあるとしつつ、パンデミックからの学びも踏まえたものにする旨の回答をしている。「次世代のEU」の復興計画については、前提として補助金の多い基金が合意されるとの見通し置いていると回答しつつ、交渉の早期合意に対する期待を述べている。
景気回復が、6月のマクロ経済見通しに沿う形で進んでいることもあって、金融政策への注目も足もとの刺激策の検討・実施から、今後の政策評価や出口戦略、そして戦略見直しなどに集まっていると言えるだろう。
1 超過準備のうち、預金ファシリティ金利が適用される部分。現在は法定準備額×6となっており乗数は「6」。
3.声明の概要(金融政策の方針)
7月16日の政策理事会で発表された声明は以下の通り。
- 政策金利の維持(変更なし)
- 主要リファイナンス・オペ(MRO)金利:0.00%
- 限界貸出ファシリティ金利:0.25%
- 預金ファシリティ金利:▲0.50%
- フォワードガイダンス(変更なし)
- インフレ見通しが、見通し期間において2%に十分近いがやや下回る水準へと確実に収束し、かつ、インフレ動向に一貫して反映されるまで、政策金利は現行水準もしくはより低い水準を維持する
- インフレ見通しが、見通し期間において2%に十分近いがやや下回る水準へと確実に収束し、かつ、インフレ動向に一貫して反映されるまで、政策金利は現行水準もしくはより低い水準を維持する
- PEPPの継続(変更なし)
- 総枠1兆3500億ユーロの資産購入を実施
- 緩和的な金融政策姿勢でパンデミックに伴うインフレ見通しの下方シフトの相殺に貢献
- 購入に際しては、実施期間、資産クラス、国構成について柔軟性を持って行う
- これにより理事会は金融政策の円滑な伝達に関するリスクを回避する
- 少なくとも2021年6月までPEPPの実施(変更なし)
- 理事会は、PEPPによる資産購入を新型コロナ危機が去るまで実施する
- 理事会は、PEPPによる資産購入を新型コロナ危機が去るまで実施する
- PEPP元本償還分の再投資の実施(変更なし)
- PEPPの元本償還の再投資は少なくとも2022年末まで実施する
- 将来のPEPPの元本償還(roll-off)が適切な金融政策に影響しないよう管理する
- 資産購入プログラム(APP)の実施(変更なし)
- 月額200億ユーロに加えて、年末までの総枠1200億ユーロの購入を実施
- 毎月の購入は、緩和的な政策金利の影響が強化されるまで必要な限り継続
- 政策金利の引き上げが実施される直前まで実施
- APPの元本償還再投資(変更なし)
- APPの元本償還分は全額再投資を実施
- 利上げ後の相応の期間、十分な流動性と金融緩和を維持するために必要な限り実施
- 十分な流動性供給の実施(文言の追加、政策上の変更なし)
- リファイナンス・オペを通じて十分な流動性供給を継続
- 特にTLTROⅢは企業・家計への貸出支援となる非常に潤沢な資金供給を記録した
- 追加緩和へのスタンス(変更なし)
- インフレが目標に向け推移するよう、必要に応じ、すべての手段を調整する準備がある
4.記者会見の概要
政策理事会後の記者会見における主な内容は以下の通り。
(冒頭陳述)
(経済分析)
(検討結果)
(構造政策)
(冒頭陳述)
- 6月初旬の理事会以降に公表された情報はユーロ圏の経済活動再開を示している
- 活動水準は依然としてコロナ禍前よりかなり低く、高い不確実性がある
- 高頻度データや景況感調査は4月に底打ち、不均一で部分的だが5月・6月は回復した
- 現在や今後の雇用・所得減少、感染拡大と成長見通しに対する不確実性が個人消費や投資の重しとなっている
- インフレ率はエネルギー価格の下落で低迷し、成長率の急減と景気後退から物価上昇圧力は引き続き弱いことが予想される
- 十分な金融刺激策が経済回復と中期的な物価安定のためには必要である
- 非常に緩和的な金融政策姿勢を取ることを再確認した
- 非常に緩和的な金融政策姿勢を取ることを再確認した
- 金融政策の決定内容
- (具体内容は上記第3節記載の通り)
- (具体内容は上記第3節記載の通り)
- 3月初旬以降の金融政策は、ユーロ圏経済の回復と中期的物価安定への重要な支援である
- 資金調達環境を支え、全業種・地域における家計・企業への信用供給維持に貢献している
- 景気が後退し不確実性の高い現在、困難な時期を通じて、ユーロ圏のすべての市民を支援するために権限の中で必要なことはすべて実施すると約束する(fully committed)
- これは物価安定の責務において、金融政策の波及効果が経済・地域全体へ伝達することを確実にするために、我々にまず求められる役割である
(経済分析)
- 最新の経済指標と景況感調査は、ウイルス拡大が落ち着き、ロックダウンが緩和されたことに伴い、4月の底から5・6月に経済活動が改善したことを示している
- 活動水準はコロナ禍前より依然として低く、回復は初期段階で業種や地域より不均一
- 実質GDPは20年1-3月期に▲3.6%と減少した後、6月のマクロ経済見通しに沿う形で4-6月期にはさらに縮小すると予想される
- 消費は回復、大きく生産も反発している
- 労働市場の低迷と、貯蓄性向の高まりが個人消費の重しとなっている
- 景気後退と不確実性の高さから投資が低迷し、世界経済の減速で外需が減少している
- 20年7-9月期の経済活動は封じ込め政策のさらなる緩和、良好な資金調達環境、拡張的な財政政策、世界的な活動再開によって反発する見込み
- 経済停滞と回復は、一般的に封じ込め政策の期間や有効性、雇用・所得支援策の巧拙、供給網や内需への恒久的な被害の程度に大きく依存する
- 理事会は成長率には下方リスクが残っていると評価している
- HICPインフレ率は5月0.1%から6月0.3%まで上昇
- エネルギー価格下落の影響が緩和されたことが主因
- 原油先物価格の動向やドイツの付加価値税(VAT)の一時的な引き下げの影響を考慮すると、インフレ率は21年に回復する前に、今後数か月で再度低下すると見られる
- 中期的には需要低迷による下落圧力が生じる一方、供給制約による上昇圧力で一部は相殺
- 市場観測の長期的インフレ期待は3月中旬の最低値から上昇が続いているが、まだ低水準
- インフレ期待調査は、コロナ禍以降に低下しているが、長期的な期待インフレへの影響は短期・中期的よりも小さい
- M3上昇率は5月8.9%で4月8.2%より上昇
- 流動性需要の高まりが続いており、銀行の信用創造が進んだことが背景
- 経済の不確実性により、予防的な理由による貨幣保有選好が進んでいると思われる
- 流動性の高い狭義通貨(M1)が引き続き広義通貨の伸びをけん引している
- 民間部門への貸付も新型コロナウイルスの影響を受けている
- 非金融法人向け伸び率は4月6.6%から5月7.3%とさらに増加
- 収益の低迷が続くなかで、支出維持と運転資金確保のための資金需要を反映
- 家計向け貸出伸び率は消費低迷によって、2か月連続で低下した後、4月・5月は3.0%と横ばいで推移
- 4-6月期のユーロ圏貸出動向調査がさらなる情報を提供している
- 企業部門はコロナ禍により、投資需要は低下する一方で、緊急の流動性需要が高まった
- 企業に対する与信基準(貸出態度)はおおむね変わらなかった
- 景気悪化に伴う企業の信用力低下は、ECBの流動性支援、政府の信用保証などの緩和的な政策によって大きく相殺された
- 将来的には、政府保証制度の終了もあって、企業への与信基準は厳格化される見通し
- 家計部門はコロナ禍による所得・雇用環境の悪化を受けて与信基準が厳格化された
- 我々の政策手段、各国政府・欧州機関による政策とともに、コロナ禍の影響を大きく受けた人たちへの資金調達支援となるだろう
(検討結果)
- 経済分析・金融分析の結果、物価安定のために十分な金融緩和策が必要であると確認された
- ユーロ圏経済の急激な縮小を踏まると、野心的かつ協調した財政政策が重要
- 可能な限り、一時的かつ対象を絞った措置が必要
- 欧州理事会の労働者・企業・国家のための5400億ユーロの政策は重要な支援となる
- 同時に、理事会はさらに強力かつ適時の回復支援策を要請する
- 欧州委員会の提案する、パンデミック被害を受けた地域・産業を支援し、単一市場を強化し、持続的な繁栄のための「次世代のEU」復興計画を強く歓迎する
- 欧州のリーダーたちがこの野心的な政策に迅速に合意することが重要
(構造政策)
- 潜在力を最大限に発揮するためには、回復と強靭さのファシリティが国によって考案され、実施される健全な構造政策にきちんと根差している必要がある
- 適切に設計された構造政策は、危機からの迅速で力強く、均一な回復に寄与し、金融政策の実効性も支える
- グリーンやデジタルへの移行といった優先分野への投資加速に焦点を当てた、特定分野への構造政策が我々の経済回復に特に重要である
(2020年07月17日「経済・金融フラッシュ」)
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03-3512-1818
経歴
- 【職歴】
2006年 日本生命保険相互会社入社(資金証券部)
2009年 日本経済研究センターへ派遣
2010年 米国カンファレンスボードへ派遣
2011年 ニッセイ基礎研究所(アジア・新興国経済担当)
2014年 同、米国経済担当
2014年 日本生命保険相互会社(証券管理部)
2020年 ニッセイ基礎研究所
2023年より現職
・SBIR(Small Business Innovation Research)制度に係る内閣府スタートアップ
アドバイザー(2024年4月~)
【加入団体等】
・日本証券アナリスト協会 検定会員
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