2020年07月09日

2019年度生命保険会社決算の概要-外貨建保険と外貨建資産にいつまで頼れるか

保険研究部 主任研究員 年金総合リサーチセンター・気候変動リサーチセンター兼任 安井 義浩

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3当期利益は実質減少~しかし引き続き内部留保、配当とも安定的な水準
次に当期利益の動きである。基礎利益が減少するとともに、キャピタル損も増加するなど、実質的な当期利益は減少した。以下、当期利益を構成する、基礎利益、キャピタル損益、特別損益の状況を概観し、その後、当期利益の使途を見る。(図表-9)

基礎利益(①)は減少、キャピタル損益(②+③)も減少し、その合計額は19,563億円と対前年度▲1,401億円の減少となった。また、「⑧その他」のほとんどを占めるのが、追加責任準備金(逆ざや負担に備えるため、予定利率よりも低い評価利率を用いて責任準備金を高めに評価したことによる差額分。これが平均予定利率を下げる効果を発揮し、逆ざや解消の早期化に貢献してきた。)の繰入額である。9社中7社が、個人年金や終身保険など貯蓄性の高い商品を対象として繰入を行なっており、その水準は再び増加し、引き続き高水準である。
 
【図表-9】当期利益とその使途(大手中堅9社計)
危険準備金や価格変動準備金の繰入・戻入は、基本的には保険業法に基づく統一の積立ルールに沿っているとはいえ、そのルールの範囲内での政策判断の余地はある。それを見るため、これらを繰入・戻入する前のベースに修正した「当期利益」(表中(A))は前年度より▲2,351億円減少して13,111億円となっている。同じく政策要素の強い追加責任準備金を積み立てる前の状態に、さらに戻せば、17,147億円(A')と前年度より減少した。

さてこうした利益の使途であるが、上記の危険準備金、価格変動準備金は残高を増やしてはいるものの、昨年よりは増加幅は減少した。(内部留保の増加(B))。これに、前年度と同程度の追加的責任準備金繰入を加算した実質的な内部留保の増加額(B’)も11,766億円と、前年度より減少している。

一方、配当であるが、5,381億円が還元(株式会社の契約者配当を含む)されることとなった。

このような見方をすれば、2019年度は「実質的な利益」の69%が内部留保に、残り31%が契約者への配当にまわっているとみることができ、引き続き内部留保の充実により重点がおかれていて、この傾向は近年比較的安定している。(なお、ここで算出した「内部留保」からは、いずれ株主配当も支出されることも、剰余の使い方としては区別する必要があるが、持ち株会社形態の場合どう評価するかなどの考慮が必要なので、現時点では省略する。)

配当還元の金額は、対前年▲629億円減少している。9社中4社が、危険差益関係で増配する予定である。一方利差益関係では2社が減配する予定であり、運用環境の先行きに不安があることを反映している。
4ソルベンシー・マージン比率~高水準を維持
【図表-10】ソルベンシー・マージン比率(大手中堅9社計)
ストックベースの健全性指標であるソルベンシー・マージン比率(9社合計ベース)をみたものが図表-10である。ソルベンシー・マージン総額と保有リスクとの関係を見るため、形式的に9社計で算出した比率は前年度の966.9%から1000.3%へと上昇し、引き続き高水準にある。

2019年度は、国内株式を中心としたその他有価証券の含み益は減少し、また当期利益の使途でふれたように、オンバランス自己資本(貸借対照表の資本、危険準備金、価格変動準備金などの合計)が引き続き増加した。また、外貨建資産の増加にも関わらず、資産運用リスクが減少した(詳細は不明だが、国内株式の時価下落によるリスク対象資産額の減少や、外貨建保険対応資産の増加で実質的には為替リスクが増えていないことなどによるものであろうか。)ことでリスク総額も減少している。こうしたことが、各社ソルベンシー・マージン比率の上昇要因となっている。

なお、経済価値ベースのソルベンシーの検討は、引き続き検討が進められており、2025年の導入と言われている。それまでは現在の方式でみていくことになるが、比率の水準そのものはともかく、内容をみればリスクとその対応状況の一端がうかがえるものとであるともいえる。
 

3――かんぽ生命の状況

3――かんぽ生命の状況

【図表-11】かんぽ生命の業績(2019 年度)/【図表-12】かんぽ生命の基礎利益
かんぽ生命は他の国内大手の生命保険会社とは歴史的な経緯も異なり、規模も大きいので、別途概観しておく。

個人保険の業績動向を見たものが図表-11である。個人保険の新契約年換算保険料は、▲58.1%の減少となった。2019年7月以降の積極的な営業活動の自粛や2020年1月以降の業務停止等が影響した(前年度はかんぽ生命▲6.6%減少、9社計4.2%増加)。また、保有契約年換算保険料の減少率は▲6.8%と国内大手中堅9社計よりやや大きい傾向がある。

基礎利益の状況は次のとおりである。(図表-12)

利差益については、平均予定利率が順当に低下し、かつ基礎利回りが若干上昇したため、805億円へと増加している。危険差と費差の内訳は開示されなくなっているが、両者合計では増加している。ただしこれは業務改善命令などによる新契約の減少により販売報酬などの事業費が一時的に減少したことが収益の一時的な増加になっているということであり、長期的には必ずしも好ましい状況ではないようだ。

かんぽ生命の資産運用は、有価証券については、国債・地方債・社債がほとんどを占めており、中でも国債の構成比が有価証券全体の66%となっている(前年度は65%)。株式への投資は近年増加はしているようだが、もともとほとんどない。この点は他の伝統的な大手中堅生保とは異なる、より安全性を重視した運用ポートフォリオとなっている(一方、9社計では、有価証券中の国債の構成比は40%程度)。

そうしたこともあり、基礎利回りが低い反面、ソルベンシー・マージン比率は高い。2019年度は1,068.9%へと若干上昇した(前年度は1,188.0%)。こうした高水準は、リスク性資産の構成割合が従来から低いことに加え、内部留保が厚いことに起因する。例えば、民営化前の旧簡易保険契約(貯金・簡易生命保険管理機構からかんぽ生命が受再している形態)を含め1.7兆円の危険準備金を保有している。かんぽ生命を除く民間生保40社の合計額が、ここ数年増加してきてはいても4.9兆円程度であることからも、水準の厚さがうかがえる。また逆ざやに備えるための追加責任準備金が累計で5.8兆円と、引き続き厚い水準にある。
 

4――トピックス

4――トピックス

1外貨建保険と外貨建資産
最初に業績のところでふれたように、2019年の販売業績が減少した大きな要因は、外貨建保険の販売減少ということになる。このあたりの事情をもう少し詳しく見ておく。

もともと外貨建保険の販売が量的に大きくなるきっかけは、日本国内の超低金利であったと考えられる。一方、資産運用面から言っても、本来は国債などの比較的安全な資産で、保険負債を支えていくのが基本的な方針ということはわかっていたはずだが、さすがにゼロ金利ではどうしようもないので、よりリスクは高まることはわかった上で外国債券など利回りの高い資産への投資を高めてきたわけである。この時点では保険金支払のほうが円建であるため、為替リスクは保険会社が負った状態である。

一方、保険商品の方に目を向けると、貯蓄性の高いもの、例えば終身保険や養老保険で、特に一時払のものが国内金利の低下に応じた予定利率の引き下げによって、顧客からみた利回り面での魅力が低下してしまった。とはいうものの、保険会社の方で、むやみに外貨建資産を多く保有するのは、利回り面では魅力を保つことができたとしても、為替リスクの面で不安がある。

ここで、為替リスクが顧客にある外貨建保険とすれば、保険会社にリスクはなくなる。これで利回りが高いままで、為替も安定してくれれば、保険会社にとっても顧客にとっても好ましい状況が続くわけである。(本来は、国内の金利が正常に高くなってくれれば最も好ましいのだが。)

外貨建資産の推移は図表13に示した通り、ここ数年、その金額と資産全体に対する構成比が高まっている。(なお、図表13は外貨建保険に対応したものだけに限らない、外貨建資産全体である。)
【図表-13】外貨建資産の金額と構成比の推移(2014~2019)
さて2019年度に起こったことは、海外金利も低下して、外貨建保険の貯蓄の魅力が薄れたことである。例えば米国10年債利回りの推移をみると、図表14のような様相である。
【図表-14】米国10 年債利回りの推移(2015.3~2020.5)
これが今後も続くと販売業績面でも苦しい上に、資産運用面でも有利な投資先がなくなってしまう。現状では海外の高い利回りを獲得すべく、図表13のように外貨建資産を増やしてきたことによる利差益の拡大に多くを負っていることを思い出そう。とはいえこれは古くからある国内大手の話かもしれない。外資系や損保系など比較的新興の会社は、バブル期の教訓を生かして、債券を中心とした資産運用を柱としており、価格変動の大きな株式などには慎重な面がある。国内大手社ですら、今後の厳しい資本規制などに対応して資産運用リスクはなるべくとらず、リターンの源泉としては保険そのもののリスクの比重を高めてコントロールするという方向にあるようだ。

外貨建保険が実際にどのくらい販売・保有されているのかというのは、実ははっきりした金額が公表されているわけではない。各社が業績動向の定性的説明に使っているだけで、決算発表のあとで公表されるアニュアルレポート(統合報告書とも称する会社もある)などですら、明示的に公表しているとも限らない状況であり、定量的には実績を捉えにくいのが現状である。とはいえ、今後どこまで外貨建保険への注力が続くのか、あるいは一時の傾向にすぎなかったということになるのか、興味深いところではある。もちろん「経済状況に応じて機動的に」となるだろうが、資産運用面ではそれが当然としても、保険販売面でも機動的に運営できるだろうか。
2新型コロナウィルス感染拡大の影響など
どうしてもこの話題にはふれざるを得ない。といっても2019年度の業績に限った影響としては、株価の下落程度しか、まだ表に現れては来ていない。感染の拡大は、2019年度終盤の2020年1月以降の話であるので、生命保険会社の収支面への影響がでるとすれば、2020年度からであろう。

生命保険会社は、新型コロナウィルスの感染拡大を受けて、販売面、保険金等支払面、医療機関等への支援など様々な取り組みをおこなっており、全部紹介するのがここでの目的ではないが、差し当たって直接収支上に影響を及ぼすものとしては、

・新型コロナを直接の原因とした死亡・高度障害に対して「災害割増」保険金を支払うこと

・新型コロナに起因して医療機関に入院した場合はもちろんのこと、医療機関の事情などにより臨時施設に宿泊、自宅療養した場合などにも、入院給付金を支払うこと

がある。現時点での感染者数や死亡者数をみる限りにおいては、こうした保険金・給付金支払の増加が収支に与える影響は限定的と思われるが、今後の動向は未知の世界である。2020年度あるいはそれ以降への影響として思いつくのは以下のような事柄であろう。

・販売活動の制限や景気の悪化に伴う新規契約の減少、保険加入時の制限(販売業績の悪化)

・保険金・入院給付金などの支払増加(保険関係収支の悪化)

・資産運用面では、既に2019年度にも影響がでているように、金融市場の悪化や投融資先企業の業績悪化の懸念からくる株価の下落、不良債権の増加など(資産運用収支の悪化)

・長期的には、死亡率あるいは疾病発生率全体の変動など何らかの悪影響(平均寿命などへの長期的な影響による保険料率のアップ)

いずれにせよ、医療保障に対する支払金の増加というよりは、経済活動へのダメージからくる販売業績面や資産運用面のほうの影響がさしあたって大きいように思われるが、実際に人の健康状態や死亡率にまで、国内外問わず影響するようなことになるなら、長期的には大きな影響となりそうである。しかしそれは、しばらく様子をみて、統計データが判明するのを待たねばならないだろう。
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保険研究部   主任研究員 年金総合リサーチセンター・気候変動リサーチセンター兼任

安井 義浩 (やすい よしひろ)

研究・専門分野
保険会計・計理、共済計理人・コンサルティング業務

(2020年07月09日「基礎研レポート」)

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