2020年06月05日

新型コロナでREIT市場は急落。不動産市場は曲がり角に直面-不動産クォータリー・レビュー2020年第1四半期

基礎研REPORT(冊子版)6月号[vol.279]

金融研究部 不動産調査室長 岩佐 浩人

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新型コロナウイルスの感染拡大が猛威を振るうなか、不動産市場において指標の悪化は一部のセクターにとどまる。しかし、今後は厳しい経済ショックの打撃は避けられず、不動産市場は曲がり角に直面している。2020年1-3月期の実質GDPは2四半期連続のマイナス成長となった。住宅市場は減速傾向が強まっている。東京オフィス市場は需給環境が良好で空室率は極めて低い水準にある。1-3月の訪日外国人客数は▲51.1%減少した。物流施設市場は、首都圏・近畿圏ともに空室率が低下した。第1四半期の東証REIT指数は▲25.6%下落した。

1―経済動向と住宅市場

1-3月期の実質GDP(1次速報)は前期比年率▲3.4%と2四半期連続のマイナス成長となった。新型コロナウイルスの感染拡大による政府の自粛要請の影響などで民間消費を中心に国内需要が落ち込んだ。4月以降は緊急事態宣言の発令とそれに伴う休業要請などを背景に経済活動が一段と縮小していることから、さらなる悪化が見込まれる。1-3月期の鉱工業生産指数は前期比+0.4%と3四半期ぶりに上昇したが、前期が消費増税の影響で大幅減産となっていたことを勘案すれば戻りは弱い[図表1]。4月以降は、世界各国の工場停止に伴うサプライチェーン寸断などから、4-6月期の生産は前期比で2ケタのマイナスが予想される。
鉱工業生産
住宅市場は昨年の消費増税が尾を引いて減速傾向が強まっている。2020年3月の首都圏のマンション新規発売戸数は2,142不動産投資レポート戸(前月同月比▲35.8%)と7カ月連続で減少した[図表2]。現状、新型コロナウイルスの影響により多くの販売拠点が閉鎖されており、環境の悪化が続くと思われる。
 
首都圏のマンション販売件数
2020年1-3月の首都圏の中古マンション成約件数は前年同期比▲1.9%減少した。これまで、中古マンションは新築に対する価格面での割安感から需要が高まっていたが、消費増税による景況悪化などから昨年10月以降、頭打ち感がみられる。
 

2―地価動向

地価は引き続き上昇している。国土交通省の「地価LOOKレポート(2019年第4四半期)」によると、全国100地区のうち上昇が「97」、横ばいが「3」、下落が「0」となり、8期連続で上昇地区が9割以上となった[図表3]。
 
地価推移
なお、新型コロナウイルスの影響は、今後の同レポートや「基準地価(7月1日時点)」などで確認することになるが、不動産ファンダメンタルズの変動に対して先行して動くJリート市場は、既に不動産価格の下落を示唆している。また、地価への影響が大きい金融機関の不動産向け融資姿勢についても注視する必要がある。

3―不動産サブセクターの動向

1│オフィス
 
三鬼商事によると、3月の都心5区空室率は1.50%(前月比+0.01%)と極めて低い水準で推移している。平均募集賃料は75カ月連続でプラスとなり賃料の上昇ペースは年率6~7%を維持している。他の主要都市でも空室率は低下傾向にあり[図表4]、賃料の上昇率も拡大している。
オフィス空室率
成約賃料データに基づく「オフィスレント・インデックス(第1四半期)」によると、東京都心部Aクラスビル賃料は38,739円と前年比で横ばいとなった。Aクラスビルの空室率が6期連続で1%を下回りハイスペックなビルへの需要が強まる一方で、借り手側の賃料負担力に上限も見られ、4万円前後で天井感が広がりつつある[図表5]。
Aクラスビル
このように、現時点においてオフィス指標に悪化は見られない。しかしながら、今後は企業業績の悪化などを背景にオフィスの新規開設の抑制や解約の増加も予想され、空室率が上昇に転じる可能性が強まっている。
 
2│賃貸マンション
 
東京23区のマンション賃料は上昇基調にある。2019年第4四半期は前年比でシングルタイプが4.2%、コンパクトタイプが4.5%、ファミリータイプが6.0%上昇した[図表6]。
マンション賃料
3│商業施設・ホテル・物流施設
 
商業・ホテルセクターでは、既に新型コロナウイルスの感染拡大が深刻なダメージをもたらしている。商業動態統計などによると、2020年1-3月の小売販売額(既存店、前年同期比)は百貨店が▲15.3%、スーパーが+1.6%、コンビニが▲1.1%となった。スーパーが飲食料品の売上が好調であったのに対して、外出自粛を受けて百貨店の売上が大幅に悪化した。2020年1-3月の訪日外国人客数は前年同期比▲51.1%と急減した。また、宿泊旅行統計調査によると、2020年1-3月の延べ宿泊者数は前年同期比▲17.3%減少し、このうち外国人が▲36.6%、日本人が▲12.6%となった[図表7]。
 
延べ宿泊者数の推移
CBREの調査によると、首都圏の大型物流施設の空室率(3月末)は前期末比▲0.6%低下の0.5%となり過去最低水準を更新した[図表8]。
大型マルチテナント
Eコマース市場の拡大などを背景に先進的物流施設への需要は強い。近畿圏の空室率も前期比▲0.3%低下の3.7%となった。

4―J -REIT(不動産投信)市場

新型コロナウイルスの世界的な感染拡大はJリート市場にも多大な影響を及ぼしている。第1四半期の東証REIT指数は▲25.6%下落し、四半期ベースでは過去最大の下落率を記録した[図表9]。
東証REIT指数の推移
この結果、3月末時点のバリュエーションは、P/NAV倍率が0.9倍、分配金利回りが4.8%となった。
 
東証REIT指数は2月第4週以降急落し、直近高値からの下落率は一時▲49%に達した(3/19時点)。その後は反発に転じたものの、2015年9月以来の水準まで落ち込んでいる。
 
いずれにしても、不動産市場の先行きは、新型コロナウイルスの終息時期や各国の金融・財政対応、今後の景気回復状況によるところが大きい。感染拡大に終わりがみえず厳しい状況が続くが、この危機を克服し社会に日常が戻るよう、国際社会のさらなる連帯を願いたい。
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金融研究部   不動産調査室長

岩佐 浩人 (いわさ ひろと)

研究・専門分野
不動産市場・投資分析

(2020年06月05日「基礎研マンスリー」)

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