2020年03月06日

オフィス・物流市場は一段と改善、住宅市場は弱含みで推移-不動産クォータリー・レビュー2019年第4四半期

基礎研REPORT(冊子版)3月号[vol.276]

金融研究部 准主任研究員 渡邊 布味子

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19年10-12月期実質GDP成長率は国内民間需要の急速な落ち込みからマイナス成長となった。住宅市場は高値が続くなか、総じて弱含みで推移している。オフィス市場は空室率が過去最低となり、募集賃料は2008年の前回ピークに近い97%の水準まで回復した。物流施設市場(首都圏)では1.1%と過去最低水準に低下した。

1―経済動向と住宅市場

19年10-12月期実質GDP成長率(1次速報)は前期比年率▲6.3%の大幅なマイナス成長となった。また10-12月期の鉱工業生産指数は前期比▲4.0%と2四半期連続で低下し、悪化幅は前回の消費増税後の落ち込み(前期比▲2.9%)を上回った。先行きについては消費増税前の駆け込み需要の反動減が和らぎ、国内需要は徐々に回復するが、新型肺炎の感染拡大による中国工場の停止などが長期化すれば、持ち直しつつあった中国向け輸出が再び落ち込むことも考えられる[図表1]。
鉱工業生産
住宅市場は価格が高値圏で推移するなか、減速傾向が強まっている。2019年12月の新設住宅着工戸数は7.2万戸(前年比▲7.9%)となり6カ月連続で減少した。また、2019年全体でも前年比▲4.0%の約90.5万戸となり3年連続で減少した[図表2]。
新設住宅着工戸数
また2019年の首都圏のマンション新規発売戸数は3.1万戸(前年比▲15.9%)となり3年ぶりに減少した[図表3]。
 
マンション新規販売戸数
住宅市場は価格が高止まりするなか消費増税や個人の貸家業向け貸し出しの低迷が尾を引いており、総じて弱含みで推移している。
 

2―地価動向

地価は引き続き上昇している。国土交通省の「地価LOOKレポート( 令和元年第3四半期)」によると、全国100地区のうち「97」が上昇し、7期連続で上昇が9割を超えた[図表4]。
地価上昇・下落地区の推移

3―不動産サブセクターの動向

1│オフィス
 
三鬼商事によると12月の東京都心5区空室率は前月比▲0.01%低下の1.55%、平均募集賃料は前月比+0.6%上昇し72カ月連続でプラスとなった。空室率が過去最低で推移するなか、募集賃料は足もと年率6~7%のペースで上昇し前回ピーク(2008年8月)に対して97%の水準まで回復した。
 
三幸エステート公表の「オフィスレント・インデックス」によると、2019年第4四半期の東京都心部Aクラスビル賃料(月坪)は42,242円(前期比+6.6%)となった。空室率が1%を下回り需給が逼迫するなか、Aクラスビル賃料は4万円をはさんで緩やかな上昇傾向を示している[図表5]。
 
東京都心部Aクラスビル
今年、東京都心5区では20万坪を超える大規模ビルの大量供給が予定されているが、その9割以上のスペースでテナント誘致の目処が立つなど、オフィスのニーズは引き続き強い。ただし、今後予想される既存ビルからの移転に伴う2次空室の影響に留意したい。
 
2│賃貸マンション
 
東京23区のマンション賃料は上昇基調を維持している。2019年第3四半期は前年比でシングルタイプが4.2%、コンパクトタイプが5.4%、ファミリータイプが2.5%上昇した。また、高級賃貸マンションについても、2019年第4四半期の空室率が5.1%に低下し、賃料(月坪)は前年比+4.1%の17,882円となった[図表6]。
 
高級賃貸マンション
3│商業施設
 
商業動態統計などによると2019年の小売販売額(既存店、前年比)はコンビニエンスストア(+0.4%)がプラスとなる一方で、百貨店(▲1.4%)とスーパー(▲1.3%)はマイナスとなった。個人消費が低調に推移するなか、百貨店では地方を中心に店舗閉鎖、スーパー・ドラッグストアでは業界再編の動きもみられる。
 
4│ホテル
 
2019年の訪日外国人客数は前年比2.2%増加の約3,188万人となった[図表7]。
 
訪日外国人客数
日本との関係が悪化した韓国からの訪日外国人客数は8月以降50%を超える減少が続き、年間累計では前年比▲26%となった。一方で韓国以外からの訪日客は前年比11%増加した。2019年の外国人の延べ宿泊者数は前年比+4.4%増加した一方で、日本人宿泊者数は前年比▲0.9%となり全体ではほぼ横ばいであった。
 
また、全国61都市のホテル客室稼働率(2019年11月)は前年同月比▲1.8%の82.2%となった[図表8]。
 
ホテル客室稼働率
今年、政府目標である「訪日客4,000万人」の達成には25%の増加が必要となるが、新型肺炎の影響による訪日客の減少が懸念される。
 
5│物流施設
 
首都圏の大型マルチテナント型物流施設の空室率(2019年第4四半期)は前期比▲1.3%低下の1.1%と過去最低を更新した[図表9]。
 
大型マルチテナント
「東京ベイエリア」の空室率は3期連続で0%に、「圏央道エリア」の空室率は前年末の14.4%から1.2%に大幅に低下するなど全てのエリアで空室の消化が進んだ。また近畿圏の空室率も前期比▲1.6%の4.0%と改善した。
 
6│J-REIT(不動産投信)・不動産投資市場
 
2019年第4四半期の東証REIT指数(配当除き)は、米中貿易交渉に対する楽観的見通しなどを背景に「株高・金利上昇」が進行するなか、これまでJ-REIT市場に向かっていた資金フローが反転し9月末比▲1.5%下落した。
 
2019年のJ-REIT市場を振り返ると、東証REIT指数(配当除き)は20.9%上昇し株式市場の騰落率を2年連続で上回った[図表10]。
 
業績面では、オフィスを中心に賃貸市況が好調で不動産評価額も上昇し、需給面では、世界景気の減速懸念などを背景に各国中央銀行が金融緩和に転じるなか、J-REIT市場は株式や債券の代替投資先に選ばれて国内外から資金が流入した。一方で、業績の改善以上に価格が上昇したため、年初にみられた割安感はほぼ解消されている。
 
J-REIT市場
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金融研究部   准主任研究員

渡邊 布味子 (わたなべ ふみこ)

研究・専門分野
不動産市場、不動産投資

経歴
  • 【職歴】
     2000年 東海銀行(現三菱UFJ銀行)入行
     2006年 総合不動産会社に入社
     2018年5月より現職
    ・不動産鑑定士
    ・宅地建物取引士
    ・不動産証券化協会認定マスター
    ・日本証券アナリスト協会検定会員

    ・2022年、2023年 兵庫県都市計画審議会専門委員

(2020年03月06日「基礎研マンスリー」)

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