2020年05月22日

4~5月の自社株買いが急減

金融研究部 研究員 森下 千鶴

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■自社株買いが急減

日本の上場企業による自社株買いは、主にコーポレート・ガバナンス改革の影響から、ここ数年増加傾向にあった。昨年度は7兆円を超え2年連続で過去最高を更新した。特に3月期本決算企業の決算発表が集中する5月は、例年であれば自社株買いの設定が、年間で最も多い月である。昨年度は4~5月の設定額だけで3.6兆円と、年間設定額の約半分を占めていた。
図表1 例年5月は自社株買いの設定が多い
しかし、今年度の4~5月の自社株買いは、0.8兆円と昨年度比で約5分の1まで減少している。
図表2 4~5月の自社株買いが急減
コロナ禍で足元の企業業績は急速に悪化し、先行きの不透明感もいまだに強い状態が続いている。そのような状況の中、企業が雇用維持等を優先するために手元資金を温存し、自社株買いを手控えることはやむを得ない、むしろ正しい選択といえるかもしれない。たとえキャッシュが豊富な企業であっても、決算発表時に業績の見通しを未定としながら自社株買いを発表することは、ハードルが高くためらわれるであろう。今のところ株主からの自社株買い圧力も強くないようだ。また、日本企業は安定配当を重視する傾向が強いため、現状の株主還元策として、自社株買いよりもまずは安定的な配当政策を優先すると考えられる。
 

■日銀と自社株買いが需給を支える構図だったが

■日銀と自社株買いが需給を支える構図だったが

昨年度の投資主体別売買動向を見ると、日本の株式市場を需給面で支えてきたのは、ETF(上場投資信託)を年間6兆円ペースで買っていた日銀のほか、現物株市場では事業法人、すなわち自社株買いだったことがわかる。
 
自社株買いの本場ともいえる米国では、航空機大手のボーイング社が債務超過に陥るほど自社株買いを繰り返し、過度な自社株買いとの批判が強まり、大手金融機関8社も自社株買いの一時停止を決めた。
 
日本ではアメリカのような行き過ぎた自社株買いはほとんど見られないため、いずれ経済・業績が正常化に向かってくれば、自社株買いも復活するであろう。財務基盤がしっかりした企業のなかには、業績の見通しがつき次第、自社の株価が割安とのアナウンスメント効果をねらった自社株買いの設定も増えると考えられる。ただし、業績の見通しがある程度見通せて、自社株買いを再開するような動きは、早くても中間決算発表のタイミングと思われる。

株式市場にとっては、当面、自社株買いによる需給面での下支えが当分期待できないため、外国人の売買の影響がより強くなる点には注意が必要である。足元は経済活動再開やワクチン開発期待などで、株価は比較的堅調ではあるが、この先も不安定な相場が続くとみておいたほうが良さそうだ。
図表3 日銀と自社株買いが需給を支える構図だったが
 
 

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金融研究部   研究員

森下 千鶴 (もりした ちづる)

研究・専門分野
株式市場・資産運用

経歴
  • 【職歴】
     2006年 資産運用会社にトレーダーとして入社
     2015年 ニッセイ基礎研究所入社
     2020年4月より現職

    【加入団体等】
     ・日本証券アナリスト協会検定会員
     ・早稲田大学大学院経営管理研究科修了(MBA、ファイナンス専修)

(2020年05月22日「基礎研レター」)

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