コラム
2020年05月01日

緊急事態宣言の延長-短期決戦型から長期戦へ、生活支援継続が必要

総合政策研究部 常務理事 チーフエコノミスト・経済研究部 兼任 矢嶋 康次

総合政策研究部 准主任研究員 鈴木 智也

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政府は、全都道府県を対象とする『緊急事態宣言』を、5月末まで延長する方向で最終判断をする見込みである。当初、緊急事態宣言による自粛は5月6日までの短期決戦とする方針であったが、感染拡大のペースが、解除決定に十分な水準まで達していなかったことから、長期戦に入る覚悟を決めた模様である。

新型コロナウイルスとの戦いは、海外の事例を見ても長期化は避けられないと見られる。緊急事態宣言は、解除する場面においても慎重にならざるを得ず、経済の再開も段階的にしか進まないだろう。

事態の長期化が明確になった今、短期的な支援からコロナの戦いが続く限りにおいて家計や企業の支援を継続するという強い姿勢と、それを実現するための長期戦の支援が必要になったと言える。

1――短期戦から長期戦への戦略シフトが必要

1延長1ヵ月で家計最終消費支出の12.5兆円が消失
全都道府県を対象とする1ヵ月間の自粛が継続するとした場合、家計最終消費支出の約5割を占める不要不急の支出(「外食・宿泊」「娯楽・レジャー・文化」「交通」など)が抑制されることにより、日本全体では▲12.5兆円(国民経済計算2018年度ベース)の消費が減少し、名目GDPは▲2.3%低下する計算となる。
2需要減少でGDPギャップはマイナス方向に拡大
足元では、民間エコノミストの経済成長率平均予測値(ESPフォーキャスト)をもとに算出したGDPギャップは、マイナス方向に急拡大している[図表1]。現時点において、マイナス幅が最も大きくなると予想される2020年4-6月期のGDPギャップは、3月調査に基づく推計では▲2.1%であったが、4月調査に基づく推計では▲5.8%まで拡大する見込みだ。この推計における4月時点の調査では、緊急事態宣言の全都道府県への拡大(4月16日決定)の影響は織り込まれておらず、さらに5月末まで自粛期間が延長されるとすれば、2020年4―6月期のGDPギャップは、リーマンショック時の▲6.9%を超えて悪化していく可能性が高い。
[図表1]GDPギャップの推移
3感染拡大防止が最優先。そのためにも自粛が続く限り約束された継続的な支援が必要
経済の停滞は深刻であるが、だからといって感染収束の取り組みを緩め、経済活動を再開させるわけにはいかない。感染拡大を可能な限り短い期間で、何としても阻止すべきだ。ただし、新型コロナウイルスへの対応は、短期戦から長期戦へと切り替わる。自粛措置の対象や内容、支援の規模や期間など、戦い方を変えて行く必要がある。

政府は4月30日、事業者に最大200万円を給付する「持続化給付金」や国民に一律10万円を支給する「特別定額給付」などを盛り込んだ補正予算を可決・成立させた。既に決まった支援は、できるだけ早く家計や企業の手元に届けるべきであるが、緊急事態宣言が延長されることを踏まえ、柔軟に支援の在り方を変えて行くべきだろう。

筆者は、(1)医療強化策と(2)特措法(新型インフルエンザ対策特別措置法)の改正を行い、休業要請に従わなかった事業者への罰則などを可能とする、より強力な措置を用意する必要があると考える。(3)そうなれば、今以上に民間活動を縛ることになるため、本来であれば所得収入の補償といった手段が適当であると考えるが、少なくとも「特別定額給付」や「持続化給付金」などの支援策は、コロナとの戦いが続く限りにおいて定期的に実施すべき政策だ。早急に第二次補正などで対応すべきだろう。

2――長期戦を戦うための固定費削減 「家賃問題」

さらに、長期戦への突入に備えて早急に動く必要があるのが、固定費の中でも人件費と並んで大きな家賃への対応だ。3月から4月にかけて売上が蒸発した企業には、固定費が重くのしかかる。

財務省の法人企業統計を用いて、日本の全業種平均の固定費を規模別に見てみると、資本金1,000万円未満の零細企業では、人件費が1ヵ月当たり147万円、家賃などを含むその他固定費が50万円ほど発生していることが分かる[図表2]。企業は、持続化給付金や雇用調整助成金といった給付措置を利用することはできるものの、それだけで固定費の全てをカバーできるのは一部の企業だけだ。大部分は、事業縮小や資産売却、政府日銀の資金繰り支援策を活用するなどして、不足分を自助努力で補って行くほかない。長期戦となれば止血は続き、倒産増加は避けられない事態となるだろう。

自民党は、2020年度補正予算案に盛り込まれた無利子・無担保融資を活用して事業者を支援し、融資の返済には助成金などで国が責任を持つ案を検討中だ。これに対し、野党は2割以上の減収となった事業者を対象に政府系金融機関が賃料を肩代わりし、1年間を念頭に支払いを猶予するのが柱となっており、貸主が賃料を減額した場合には、国が一部を補助する措置も盛り込んでいる。今後、一般化に向けた協議がされる見込みであるが、事業者の倒産を防ぐためには、スピードを何よりも優先していくべきだろう。
[図表2]規模別・全業種の1ヵ月あたり固定費の内訳

3――自粛の中でも経済活動を行うアイデアを

企業は、これまでの経営スタイルでは立ち行かなくなる中、生き残りをかけて様々なアイデアを生み出している。例えば、地方自治体と共同で、ふるさと納税やプレミアム商品券などのスキームを動かしているとのニュースも、多く見られるようになって来た。また、クラウドファンディングで資金を集め、ネットを通じてサービスの前売り券を販売するなどの事例も出て来ている。

自分がよく行く店にはつぶれてほしくない。将来の需要を前売り券として販売し、企業は当座の運転資金として現金を手に入れる。非常時だからこそ支え合うことが大切だ。一律10万円の支給が実際に始まれば、それを購入しようと考える人も多いだろう。

過去の不況期には、民間企業がコスト削減などの努力を重ね、良いものをより安く提供することで需要を掘り起こしてきた。しかし、今回の新型コロナウイルスの感染拡大では、民間企業は感染収束までの間、できるだけ活動を自粛するように求められる。その中で企業は、自らの生き残りをかけて前例にない、異例の取り組みを始めている。従来であれば、前例のない取り組みは規制の対象にされやすかったが、今回の取り組みは危機の中で企業が見出してきた活路であり、政府や国には、柔軟な判断と可能な限りの支援を期待したい。そのような取り組みは、目の前に迫る企業倒産       [図表3]や事業継続を断念する経営者を減じるだけでなく、コロナ収束後の世界で、新たな成長の芽として芽吹く可能性もあり、むしろ積極的に取り入れていく姿勢が求められるだろう。
[図表3]新型コロナウイルス関連倒産
 
 

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総合政策研究部

矢嶋 康次 (やじま やすひで)

総合政策研究部

鈴木 智也 (すずき ともや)

(2020年05月01日「研究員の眼」)

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