2020年04月27日

EIOPAのソルベンシーIIの2020年レビューに関するCPに対する反応-欧州保険業界団体等からの意見-

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1―はじめに

ソルベンシーIIに関しては、レビューの第2段階として、ソルベンシーIIの枠組みの見直しが2021年までに行われる予定となっており、その検討が既にスタートしている。欧州委員会は、EIOPA(欧州保険年金監督局)に対して、2019年2月11日に指令2009/138/EC2(ソルベンシーII)のレビューに関する助言要請1を行った。これを受けて、EIOPAが検討を進めていたが、2019年10月15日に、ソルベンシーIIの2020年レビューにおける技術的助言に関するコンサルテーション・ペーパー(以下、「今回のCP」という)を公表2した。

これまで16回のレポートで、今回のCPの具体的内容について報告してきた。

今回のCPに対しての関係者からのフィードバックの締切りは2020年1月15日となっていたが、欧州の保険業界団体であるInsurance Europe(保険ヨーロッパ)はこれに関連して、欧州委員会に意見提出を行い、さらには、欧州保険会社のCFO及びCROの集まりであるCFO Forum及びCRO Forumと共同で、1月15日に今回のCPに対する意見を提出3している。

今回のレポートでは、これらの概要について報告する。  

2―Insurance Europeによる欧州委員会に対する意見公表の内容

2―Insurance Europeによる欧州委員会に対する意見公表の内容

まずはここでは、ソルベンシーIIレビューの助言草案に対する意見公表に関連して、Insurance Europe(保険ヨーロッパ)が1月16日に行った欧州委員会への政策提案等に関する意見公表4の内容を報告する。

この「EIOPAソルベンシーIIレビューの助言草案は、欧州に対するECの野心を助けるのではなく、妨げる」とのタイトルで公表された資料の中で、Insurance Europeは「欧州への野望」として、新しい欧州委員会の主要な目的のいくつかを反映する以下の4つのトピックに関する政策提案を提示している(これらの4つのトピックに関するペーパーが公表されているが、ここでは触れない)。

・より環境に優しく、より持続可能な欧州を作る。
・高齢化社会の課題に対応する。
・持続可能なEU経済成長のために資金調達する。
・グローバルに競争力のあるEU(再)保険業界を維持する。

これとの関連で、「2020年のソルベンシーIIのレビュー(保険会社を管理する規制の枠組み)は、保険会社が欧州委員会の多くの政策目標をさらに支えることを可能にする重要な改善を行う機会を提供する。」として、「ソルベンシーIIは、世界で最も洗練された保険規制制度である。欧州の保険会社は、そのリスクベースの性質、高いガバナンス基準、リスク管理、報告、及びその保証する消費者保護を高く評価している。ただし、あらゆる大規模な規制項目と同様に、2020年のレビューの結果として、焦点を絞った変更を通じて対処する必要があるいくつかの重要な問題がある。」としている。

これを受けて、以下の意見を述べている。

・例えば、ソルベンシーIIは現在、保険会社の長期的なビジネスモデルによってもたらされるメリットを適切に測定していない。これにより、負債、投資リスク、ボラティリティが過大評価され、その結果、すでに全体的な資本要件が過剰になっている。

・ただし、EIOPAは、2020年のレビューに関する助言草案に関する協議において、非常に多くのアイデアや提案を盛り込んでおり、その一部は実際には欧州委員会の目的に反するものだった。

・例えば、EIOPAの協議には、長期契約の必要資本を減らすのではなく増やすことになる提案が含まれているため、EUの最大の機関投資家である保険業界が長期投資を行うことはさらに高価で困難になる。

・これは、保証された年金と貯蓄商品に悪影響を及ぼす。また、欧州が必要とする持続可能な変革と成長への資金提供を支援する保険会社の能力を不必要に抑制し、欧州がグローバル市場で競争力を維持することをより困難にする。

・したがって、欧州委員会がその政策目標を達成するのを支援する保険会社の能力を実際に制限するものを含め、大幅な変更を行う代わりに、ソルベンシーIIに焦点を当てた改善を行い、不要な負担と障壁を減らす必要がある。これにより、保険会社は顧客を保護し、欧州経済の安定と成長に貢献するという役割を維持し、成長させることができる。  

3―Insurance Europe、CFO Forum及びCRO Forumの意見の全体概要

3―Insurance Europe、CFO Forum及びCRO Forumの意見の全体概要

ここでは、Insurance Europe、CFO Forum及びCRO Forumの3者の共同意見の全体概要について報告する。
1|全体的な評価
全体的な評価として、以下の通り述べている。

「業界は、ソルベンシーII2020レビューのためのEIOPAの提案草案に失望している。EIOPAは、非常に多くの変更を伴う枠組みの大幅な見直しを提案している。120を超える改革案(そして新ガイドラインのための関連提案)は、進化というよりは革命に近いものであり、全体として、資本要件、保険会社の業務負担、監督当局の新たな権限の大幅な増加をもたらす。これらの変更が、重要かつ効果的な慎重なベネフィットをもたらすという強力な証拠はない。このような結果は、実際には、枠組みの改善よりむしろ悪化を反映している。」

また、

「近年の適用は、ソルベンシーIIがその全体的な目的を達成し、多くの点で十分に機能していることを示しているが、焦点を絞った変更の限定されたセットを必要とする。したがって、見直しは、対処すべき既知の重要な問題がある、①長期契約の取扱い、②比例性と報告、の分野に焦点を当てるべきである。」

と述べている。
2|適当な結果に焦点を絞ったレビューの必要性
具体的に、以下の意見を述べている。

・EIOPAは、テクニカルアドバイザーとしての能力において客観的である必要があり、資本の解放につながる可能性のあるオプションを含め、正当な場合にはこれらを推奨する必要がある。例えば、リスクマージンのレベルとボラティリティの低下、VA(ボラティリティ調整)の改善、動的VAの標準式ユーザーへの拡張、株式リスク、スプレッドリスク、資産リスク、解約リスクなど、標準式の他の要素が含まれる。

・EIOPAは主に解決策を提供し、マクロプルーデンス監督の分野におけるLLP(最終流動性点)や独自の提案の多様なオプションではなく、安定したLLPの基準など、ECから明示的に要求された領域に必要な努力を払う必要がある。さらに作業が必要なもう1つの例は、EIOPA自体に欠陥があり、改善が必要であると認識されている標準式での非比例再保険の取扱いと、新しい長期株式カテゴリの改善である。

・EIOPAは実用的なアプローチを採用し、実際にはまったく機能しないか、それらを実装する負担が正当化されない、純粋に理論的な懸念に基づく提案を避ける必要がある。1つの明確な例は、グループ監督の領域である。32の提案された変更は、主に理論的な懸念に基づいて、明確なグローバルな目標なしに提案され、実際には重大な課題や追加コストを生み出す可能性がある(業界は、詳細な対応におけるそのような課題のいくつかの例を提供している)。

・同様に、EIOPAは新しいNSA(各国監督当局)の権限の構築について、これが必要であるという明確な証拠や、既存の権限が十分でないという理由なしには、回避する必要がある。また、EIOPAは、枠組みの主要な要素を無視する孤立した計算に基づいて「シャドー」ソルベンシーII制度を構築すべきでない。明確な例は、例えば、VAやMA(マッチング調整)が存在せず、UFR(終局フォワードレート)が100bps削減され、ユーロのLLPは50年という、理論上の仮定に基づく「シャドー」SCRの作成である。ソルベンシーIIは、間に介入のラダーを備えた早期介入ポイントを作成するために、最低資本要件(MCR)とそれよりも非常に保守的なSCRで設計された。SCRが破られる前に新しい介入権限を導入すると、すでに99.5パーセンタイルに設定されているSCRの主要な役割が損なわれる。このような変更は、顧客と保険会社の投資家としての役割に対してコストと結果をもたらすことで、ソルベンシーII制度の負担をさらに増大させ、欧州の保険会社の国際競争力にさらに挑戦することになる。

・EIOPAは、報告の簡素化と比例性の強化という独自の目標を達成するために、報告と比例性に関するその提案においてより野心的であるべきである。残念ながら、提案草案は意図した目的を達成するのに程遠いものであり、EIOPAの提案を報告する分野では、業界への負担を軽減するのではなく、増加させるように思われる。
 

4―Insurance Europe、CFO Forum及びCRO Forumの意見の具体的な項目毎の概要

4―Insurance Europe、CFO Forum及びCRO Forumの意見の具体的な項目毎の概要

ここでは、Insurance Europe、CFO Forum及びCRO Forumの3者の共同意見の具体的な項目毎の概要について報告する。
1|LTG措置及び株式リスク措置
(1)UFR
リスクフリーレート曲線を導出するために使用される補外の方法論又はパラメータに対してEIOPAが提案するいかなる変更も支持しない。また、50年のLLP補外法に基づいて資本配分を制限する権限をNSAsに与えるという提案に強く反対している。リスクフリーレート曲線は、商品設計、商品価格設定、資産負債管理、投資戦略、ヘッジ戦略において中心的な役割を果たすことができる。保険会社は潜在的な市場の動きとそのリスクフリーレートへの影響を考慮に入れることができるが、基礎となる方法論と固定パラメータの変更は非常に重大な問題を引き起こす可能性がある。EIOPAの分析によると、市場流動性は、20年を超えるLLPを正当化するような形では変化しておらず、むしろ15年のLLPを示している。また、EIOPAが提案しているユーロやその他の通貨の補外方法の変更を正当化するに足る十分な証拠もない。さらに、LLPの延長はプロシクリカル効果も有している。業界は、リスクフリーカーブ手法の安定性を求めている。

(2)MA(マッチング調整)
EIOPAの意図された改善を支持している。

(3)VA(ボラティリティ調整)
業界ではVAが広く使用されており、重点的な改善を強く支持している。ただし、これらは、1) 保険会社がリスクフリーレート以上のリターンを得る能力を適切に反映するために、VAの全般的な水準を高めること、2) 人為的なバランスシートのボラティリティを回避すること、に焦点を当てるべきである。

デフォルトの予想コストを反映するという主要な目的から離れ、VAの有効性を低下させ、景気循環を増幅させることから、リスク修正の変更提案を支持しない。また、流動性はソルベンシーIIの第2の柱及び第3の柱の要件を既に満たしていることを考慮すると、このオプションの導入は過度に保守的であることから、流動性ペナルティの導入を支持していない。

(4)動的VA
自己資本の動きを適切に反映させるために不可欠かつ機能的なアプローチであることから、内部モデルに残すべきである。このため、ソルベンシーIIでの会社スプレッドの変動の影響についての不適切な取扱いを解消するため、標準式に拡張する必要がある。

(5)シャドーSCR5
超保守的なシャドーSCRに基づいて資本分配を制限する権限をNSAsに与えるというEIOPAの提案は、合意されたソルベンシーIIの信頼水準を大幅に超える要件を生み出しており、深くなく流動的でない市場からの信頼できない情報に基づいていることから、断固として拒絶されるべきだ。VAとMAを伴わないソルベンシー・ポジションの公表義務は、会社の実際のソルベンシー・ポジションに関する混乱を避けるために撤廃されるべきである。同様の理由から、UFRが100bps低下した場合のソルベンシーのポジションを公表する義務はない。
 
5 シャドーSCRとは、保険会社に、VA、MA、移行措置を用いずに、50年のLLPとUFRの1%削減のストレスをかけた補外パラメータでソルベンシーをテストすることを求めることを意味する。

(6)株式リスク措置
長期商品や関連する株式投資を行う保険会社が直面するリスクの低さを正しく捉え、実体経済への投資に対する障壁を低減するために、新しい長期株式カテゴリが実際に機能することを確実にしていく必要がある。ソルベンシーIIにおける株式リスクについては、近年様々な検討が行われている(例:インフラ株式、非上場株式、長期株式、特定の集合投資の株式)が、これらが意図した目標、すなわち過度に高い資本要件を適用することによって投資の障壁を取り除くという目標を最終的に達成するかどうかについて、明確な分析はなされていない。業界は、現行の移行措置の変更や適用に関する新たな制限を支持していない。
2|技術的準備金
(1)最良推計
保険会社が個々の契約のレベルで評価を行うことは「義務」ではなく「権利」であるというEIOPAの明確化、将来の経営行動の定義及び費用に関する明確化を支持する。

しかし、EPIFP(将来保険料からの期待利益)の算定に関連して提案された変更に同意しておらず、又はファンドのサービス提供及び運用から生じる将来の総期待損益の定義を導入することの付加価値を認識していない。

契約の範囲に関しては、新しい要件を導入するというEIOPAの提案に反対している。

(2)リスクマージン
EIOPAの現状維持の決定に失望している。EIOPAは、リスクマージンに関する問題には対応しておらず、その欠陥も修正していない。りすくマージンは、特に長期契約において過度に高く、金利に対する過度の感応度も人為的なボラティリティの原因となっている。これらの問題は、特に長期商品において問題となる。リスクマージンの大幅な削減を支持する一連の技術的議論があることを強調する。EIOPAはCfA(助言要請)で規定されているように、この分野に一層の努力を払うべきである。
3|自己資本
保険業界と銀行業界の違いをEIOPAが認識していること及び階層構造を銀行規制に合わせないようにするために対応するアドバイスを歓迎する。

「ダブルレバレッジ」の概念に関するEIOPAの分析に同意せず、ソルベンシーIIは既に適格自己資本の2重使用と自己資本の内部創設をグループのソルベンシーにおいて排除することを規定していることに留意すべきである。

EPIFPの取扱いを変更しないというEIOPAの勧告案に同意するが、さらなる作業が必要であるということには同意しない。EPIFPは、ゴーイング・コンサーンの原則に関して、経済的現実の反映を可能にするソルベンシーIIの枠組みの重要な部分である。このように、これらは特に長期保証の提供を奨励するために有用な要素である。EIOPAはEPIFPのポジティブな価値を制限すべきネガティブな価値とみなしているようであり、これは保守的なアプローチであり、ゴーイング・コンサーンのソルベンシーIIの原則に反する。EIOPAは、適格性を制限したり階層化を格下げしたりして、EPIFPを弱体化させてはならない。
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中村 亮一

研究・専門分野

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【EIOPAのソルベンシーIIの2020年レビューに関するCPに対する反応-欧州保険業界団体等からの意見-】【シンクタンク】ニッセイ基礎研究所は、保険・年金・社会保障、経済・金融・不動産、暮らし・高齢社会、経営・ビジネスなどの各専門領域の研究員を抱え、様々な情報提供を行っています。

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