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新型コロナと日本の対策ー中国での新型コロナ対策は参考になるのか?
基礎研REPORT(冊子版)5月号[vol.278]

三尾 幸吉郎
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1―中国における新型コロナウイルス感染症(COVID-19)との戦い
新型コロナの発火点となったのは周知のとおり湖北省の武漢だった。その武漢では、新型コロナに感染した人やその疑いを持つ人が病院に押し寄せて、診察できない人が街にあふれ出したため、日本でも映像が放映されたように突貫工事で病棟を建てるとともに、人民解放軍の医療スタッフを投入して治療にあたったものの、死亡者は中国全体の8割弱にあたる2,553名*2に及んだ。いわゆる“医療崩壊”が起きたのである。この責任を問われて更迭された元書記(武漢市のトップ)の馬国強氏も「責任を感じる。少しでも早く厳格な措置を取っていれば、結果は今よりも良かった」と反省の弁を述べている。
ここで、武漢の“ 医療崩壊”を統計的に分析してみよう。武漢以外でも同様の事態が起きていないかを確認するためだ。まず、経済協力開発機構(OECD)が公表したデータによれば、中国の病床数は住民千人当たり4.34床(2017年)とされているため、武漢も同じという前提をおく。また、現存感染者のピークは2月18日の38,020名だったため、これを武漢の人口(常住)である1,108万人で割り算すると、ピーク時の現存感染者は住民千人当たり3.43名に達していたことになる。即ち、3.43÷4.34で79.1%の病床を新型コロナの現存感染者に割り当てなければならなくなったという計算だ[図表1]。
2―新型コロナ関連情報を世界に発信する中国
まず、中国疾病管理予防センター(中国CDC)が2月11日時点で集計した統計を公表したことが挙げられる。その内容を見ると、確認症例の年代別状況では、50歳代が22.4%、40歳代と60歳代が19.2%と多い一方、0歳代(0~9歳)は0.9%、10歳代は1.2%と少ない*3。また、70歳以上の高齢層は11.9%を占めている。
他方、致死率を見ると[図表3]、高齢になるほど高くなる傾向があり、80歳以上では14.8%に達する一方、50歳未満では0%台に留まる。なお、基礎疾患を持つ人の致死率が高いことが指摘されており、心血管疾患では10.5%、糖尿病では7.3%、高血圧では6.0%の致死率となっている。
3―日本にも参考になる中国の苦い経験とさまざまな取り組み
また、中国では新型コロナが長期に渡って繰り返し襲いかかる事態を想定すれば、テレワーク、オンライン医療、オンライン授業など“非接触型経済”が今後の経済発展のカギを握ると見て、新型インフラ建設を進めたり、新型コロナの再発懸念がくすぶる中で経済活動を再開するに当たっては通行許可証として健康コード*5を考案したりと、日本にも参考になる取り組みが多い。
ただし、監視社会化が進んだ中国では、毎日のように当局が個人のスマホにショートメッセージを入れて注意喚起したり、政府の外出制限令に従わない国民をドローンで追い回して外出を抑制したりしたが、自由主義の日本でには馴染まない取り組みもある。
4―中国並みの強権的手法を採用した欧米先進国と日本の選択
そして、いよいよ感染経路が追えなくなった日本でも、4月7日に緊急事態宣言を発出することとなった。その宣言に当たっては、新型コロナの「専門家の試算では人と人との接触機会を最低7割、極力8割削減すれば2週間後に感染者増を減少に転じさせられる」として、国民に“外出自粛”を求めることとなったものの、違反した場合に罰金や罰則を課すという強権的な手法を採用するには至らなかった。欧米先進国と比べて国民の自由をより多く残す道を選択したといえるだろう。
ただし、もし今回の“外出自粛”で「人と人との接触機会を最低7割、極力8割削減」することができず、“医療崩壊”に見舞われることになれば、日本政府は罰金や罰則を伴う“外出規制”に踏み切らざるを得なくなり、自由はさらに厳しく制限されるだろう。ここは“外出自粛”で新型コロナとの戦いに勝利することで、日本の選択の正しさを世界に証明するときだ。
*1 中国では確認症例に無症状感染者を含めないが、別途発表するようになっており、3月末時点では1,367名
*2 中国国家衛生健康委員会はウイルス検査などで感染が確認された人だけ集計しているとしており、中国の専門家の間では少なくとも100人以上は多いと指摘されている。
*3 若い世代の確認症例が少ないのは無症状が多かったためとの指摘がある
*4 経済協力開発機構(OECD)が公表したデータによれば、日本の病床数は住民千人当たり13.05床(2017年)、医師数は同じく2.43人(2016年)で、中国の病床数4.34床(2017年)、医師数2.01人(2017年)よりも充実している。
*5 アリペイなどが提供し始めたサービスで、自己申告した健康情報や行動履歴などからユーザーの健康状態を「緑」「黄」「赤」で判定し、地下鉄を利用する時やビル入館時などに提示することで健康証明書の機能を果たしている
(2020年05月12日「基礎研マンスリー」)
三尾 幸吉郎
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