2020年04月15日

若者の現在と10年後の未来~消費行動編-消費のデジタル化、新型コロナで変化が加速

生活研究部 上席研究員 久我 尚子

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1――はじめに~消費のデジタル化、新型コロナによって加速か

近年、インターネット通販や動画配信サービス、キャッシュレス決済サービスといった消費のデジタル化が、スマートフォン使いに長けた若者を中心に進んでいる。さらに今、新型コロナウィルスによる外出自粛等の影響によって、幅広い消費者層において、その流れが加速している。

本稿では、ニッセイ基礎研究所が2020年3月に生活者約6千名を対象に実施した「暮らしに関する調査1」のデータを用いて、あらためて現在の若者の消費行動や価値観の実態を捉えるとともに、若者が予想する10年後、すなわち2030年の未来の消費行動についても見ていく。なお、本稿における「若者」とは20~34歳の未婚者とする。
 
1 ニッセイ基礎研究所「暮らしに関する調査」、調査時期は2020年3月、調査対象は全国に住む20~59 歳の男女、インターネット調査、株式会社マクロミルのモニターを利用、有効回答6,183、うち本稿の分析対象である35歳未満の若者は1,382(男性784、女性598)。
 

2――現在の消費行動

2――現在の消費行動~サブスク・シェアで「所有より利用」志向は若者、「モノよりコト」志向は女性で高い

調査では、消費行動について約40の項目をあげ、それぞれどの程度あてはまるか、「あてはまる」「ややあてはまる」「どちらともいえない」「あまりあてはまらない」「あてはまらない」の5段階でたずねている。

「あてはまる」「ややあてはまる」を合わせて「あてはまる割合」とし、まず、20~50歳代の生活者全体の状況を見ると、あてはまる割合が最も高いのは「できるだけ長く使えるものを買う」(74.8%)であり、次いで僅差で「何かを買う時は、ポイントサービスを積極的に利用したい」(73.6%)、「何かを買う時は、事前に情報収集を十分にする」(69.3%)、「キャッシュバックキャンペーンなどは上手く利用したい」(68.1%)、「価格が品質に見合っているかどうかをよく検討する」(67.4%)と続く(図表1)。
図表1 消費行動についての「あてはまる割合」の順位(順位は20~50歳代全体のもの)
若者でも全体と同様の順位だが、全体と比べて、「経済的に余裕があっても、自動車を買うよりレンタカーやカーシェアリングサービスを利用したい」(全体より+5.9%pt)や「ものを買って所有するよりも、できるだけレンタルや月額定額で使い放題になるサブスクリプションサービスなどを利用したい」(+5.7%pt)、「自分の時間を有効活用するために、家事代行やシッターサービスを積極的に利用したい」(+5.5%pt)で全体を5%pt以上上回る。

このほか、若者のうち男性では「価格が安くなったり、サービスの利便性が高まるなどのメリットがあれば、個人情報を登録することに抵抗はない」(+7.2%pt)や「買い物は、できるだけネット通販で済ませたい」(+6.3%pt)、「新しい商品は人より先に買いたい」(+6.1%pt)で全体を5%pt以上上回る(図表2)。
図表2 若者について性別に見た消費行動についての「あてはまる割合」(順位は20~50歳代全体のもの)
一方、女性では「フリマアプリやリサイクルショップで、不要品を積極的に売りたい」(+12.2%pt)や「買い物をする時は、詳しい人に説明してもらいたい」(+7.7%pt)、「欲しいと思えるものとの出会いを求めて、インターネットをよく見る」(+7.6%pt)、「ものを買う時は、無名なメーカーより有名なメーカーのものを買う」(+7.5%pt)、「ものを買うことよりも、旅行やコンサート、イベントなど体験することにお金を使いたい」(+7.2%pt)、「いつも予定より多く買い物をしてしまう」・「買ったものでも、すぐ飽きてしまう」(いずれも+6.1%pt)で全体を5%pt以上上回る。

なお、若者について性別に見た傾向のうち、男性で見られるものは若い男性特有のものだが、女性で見られる「フリマアプリやリサイクルショップで、不要品を積極的に売りたい」や「ものを買うことよりも、旅行やコンサート、イベントなど体験することにお金を使いたい」、「いつも予定より多く買い物をしてしまう」は20~50歳代の女性全体でも見られる傾向である。よって、若い女性特有の傾向としては「買い物をする時は、詳しい人に説明してもらいたい」や「欲しいと思えるものとの出会いを求めて、インターネットをよく見る」、「ものを買う時は、無名なメーカーより有名なメーカーのものを買う」、「買ったものでも、すぐ飽きてしまう」となる。
図表3 全体と比べて若者で消費行動についての「あてはまる割合」が高い項目
以上より、若者では消費行動において、消費者共通の土台として『長く使えるものを買う』『ポイントサービスの活用』『情報収集』『費用対効果の吟味』といった志向を持ちながらも、全体と比べると、『物を買って所有するよりも、サブスクやシェアを活用して、必要な時に必要な量だけ利用できれば良い』という『所有より利用』志向が高い。この所有から利用へという変化は、近年、消費者で見られている2ものだが、若者ほど強くあらわれている。

この背景には、若い世代ほど、(1)消費社会が成熟化し、モノがあふれる中で育ったためにモノの所有欲が弱いこと、(2)デジタルネイティブであり、サブスクやシェアなどのデジタルサービスの活用に長けていること、(3)経済不安が強いために無駄な消費を避けたいという意識が高いことがあげられる。

なお、若者では家事代行やシッターサービスの利用意向も高いが、これは若い世代ほど夫婦共働きがスタンダードになる中で、家事の外部化に対する抵抗が薄れている可能性がある。また、何事においても大量の情報を収集し、比較検討を行うデジタルネイティブならではの合理的な判断、すなわち、同じ時間で自分で家事をするよりも、自分にとってより有意義なことに時間を費やすという判断によるものとも考えられる。

ところで、モノを買うよりも、旅行やコンサートなどの体験消費を重視する『モノよりコト(サービス)』志向は、若者というよりも女性で強く見られる傾向と言える。
 
2 久我尚子「所有から利用へと変わる消費」、ニッセイ基礎研究所、基礎研レポート(2020/1/16)
 

3――現在の情報収集行動

3――現在の情報収集行動~若者は「SNS」志向が高いが、現在のところマスメディアの影響が大きい

同様に、情報収集等の行動について15項目をあげ、あてはまる割合を見ると、全体で最も高いのは「情報は自分で検索して手に入れたい」(67.0%)であり、次いで「SNSは自分で情報を発信するよりも、見て楽しみたい」(56.6%)、「何かを買う時は、使っている人の評判が気になる」(51.7%)、「知りたいことによって、情報源を使い分けている」(50.7%)、「結局、決まった情報源ばかり見てしまう」(46.5%)と続く(図表4)。
図表4 情報収集についての「あてはまる割合」の順位(順位は20~50歳代全体のもの)
若者でも全体と同様の順位だが、全体と比べて、「友達や好きな有名人、趣味のつながりなど、自分の選んだ人とつながっているSNSの情報が一番信用できると思う」(+9.1%pt)や「マスメディアよりも、個人が発信するSNSやブログなどの情報の方が信頼できる」(+9.0%pt)、「SNSでは、自分の選んだつながりの中だけで情報を積極的に発信したい」(+8.4%pt)、「SNSでは、不特定多数に向けて情報を積極的に発信したい」(+6.8%pt)、「有益な情報にはお金を払っても良い」(+5.8%pt)で全体を5%pt以上上回る。

このほか、若者のうち女性では、「何かを買う時は、使っている人の評判が気になる」(+14.9%pt)や「外出時にスマートフォンを自宅に忘れると不安で落ち着かなくなる」(+12.0%pt)、「SNSは自分で情報を発信するよりも、見て楽しみたい」(+10.5%pt)、「商品やサービスについての情報が多すぎるため、詳しい人に選んで欲しい」(+9.6%pt)、「結局、決まった情報源ばかり見てしまう」(+7.9%pt)で全体を5%pt以上上回るが、いずれも女性全体でも見られる傾向である。

つまり、若者では、消費者共通の土台として『情報は自分で検索』『SNSは発信より閲覧』『商品の評判を気にする』『情報源の使い分け』といった志向を持ちながらも、全体と比べると、『SNSのつながりを流れる情報を重視』するという『SNS』志向が高い。

とはいえ、現在のところ、SNSよりもマスメディアの影響を大きく受けているようだ。「SNSを使う人は多いが、結局、マスメディアの影響が最も大きいと思う」(41.4%)の選択割合は、「マスメディアよりも、個人が発信するSNSやブログなどの情報の方が信頼できる」(30.0%)や「友達や好きな有名人、趣味のつながりなど、自分の選んだ人とつながっているSNSの情報が一番信用できると思う」(29.5%)を10%pt以上上回る。

つまり、若者は『SNS』志向が高いものの、影響力としてはマスメディアが勝ると考えている。SNSでは誰もが気軽に発信できる一方で、マスメディアでは誰もが発信できるわけではない。また、自らがSNSで写真や動画、文字などを使って発信をする中で、その表現の難しさも感じることで、マスメディアのプロの技術や情報収集力、企画力等に価値を感じる若者も少なくないだろう。こういったSNSとマスメディアのメディアとしての性質の違いに、若者は一定の価値を認めている可能性もある。また、多くのテレビ番組でSNSアカウントを持つように、マスメディア発のSNS発信も一般的になる中では、情報発信に使うメディアが何かということよりも、情報発信している主体が誰かということに一層、主眼が置かれるようになっていることも指摘できる。
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生活研究部   上席研究員

久我 尚子 (くが なおこ)

研究・専門分野
消費者行動、心理統計、マーケティング

経歴
  • プロフィール
    【職歴】
     2001年 株式会社エヌ・ティ・ティ・ドコモ入社
     2007年 独立行政法人日本学術振興会特別研究員(統計科学)採用
     2010年 ニッセイ基礎研究所 生活研究部門
     2021年7月より現職

    ・神奈川県「神奈川なでしこブランドアドバイザリー委員会」委員(2013年~2019年)
    ・内閣府「統計委員会」専門委員(2013年~2015年)
    ・総務省「速報性のある包括的な消費関連指標の在り方に関する研究会」委員(2016~2017年)
    ・東京都「東京都監理団体経営目標評価制度に係る評価委員会」委員(2017年~2021年)
    ・東京都「東京都立図書館協議会」委員(2019年~2023年)
    ・総務省「統計委員会」臨時委員(2019年~2023年)
    ・経済産業省「産業構造審議会」臨時委員(2022年~)
    ・総務省「統計委員会」委員(2023年~)

    【加入団体等】
     日本マーケティング・サイエンス学会、日本消費者行動研究学会、
     生命保険経営学会、日本行動計量学会、Psychometric Society

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