2020年04月07日

2019~2021年度経済見通し

基礎研REPORT(冊子版)4月号[vol.277]

経済研究部 経済調査部長 斎藤 太郎

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1―5四半期ぶりのマイナス成長

2019年10-12月期の実質GDPは、消費税率引き上げの影響で、民間消費(前期比▲2.8%)、住宅投資(同▲2.5%)、設備投資(同▲4.6%)の国内民間需要がいずれも大きく落ち込んだことから、前期比年率▲7.1%と5四半期ぶりのマイナス成長となった。消費増税前の7-9月期が前期比年率0.1%とほぼゼロ成長だった(前回増税前の2014年1-3月期は同4.0%)にもかかわらず、消費増税後の成長率のマイナス幅は前回増税時(2014年4-6月期の同▲7.4%)に匹敵する大きさとなった。景気の基調が前回の消費増税時よりも弱いことを表している。
 
消費税率引き上げ後の消費動向を確認すると、ポイント還元対象のコンビニエンスストア売上高は駆け込み需要と反動が生じておらず、消費税率引き上げ後も底堅い動きとなっている。一方、それ以外の業態では10月に駆け込み需要の反動と台風19号の影響が重なり急速に落ち込んだ後、11月以降は持ち直しているがそのペースは緩やかにとどまっている。

2―新型コロナウィルスの影響

2019年10-12月期は消費増税の影響を主因として大幅マイナス成長となったが、2020年1-3月期は新型コロナウィルスの感染拡大が日本経済を大きく下押しすることが見込まれる。
 
中国湖北省の武漢市で発生した新型コロナウィルスの感染者数、死者数は2002~2003年に流行したSARS(重症急性呼Weekly エコノミスト・レター吸器症候群)をすでに大きく上回っており、感染の中心は中国から中国以外の国に移りつつある。
 
新型コロナウィルスの感染拡大が日本経済に及ぼす影響としては、(1)訪日客の減少に伴うサービス輸出(旅行収支の受取額)の減少、(2)世界経済減速、サプライチェーン寸断に伴う財輸出の減少、(3)各種イベントの中止、外出の手控えなどに伴う国内消費の減少、の3つのルートが考えられる。
 
現時点では、経済指標のほとんどが2020年1月分までしか公表されていないが、2月以降の経済の動きはSARSよりも東日本大震災後に近いものとなりそうだ。2011年3月に発生した東日本大震災後には、生産設備の損壊、サプライチェーンの寸断、電力不足が重なったことにより、国内の生産活動、輸出が大きく落ち込んだ。また、各種イベントが相次いで中止されたことや、不要不急の消費を控える動きが広がったことから、個人消費も大幅に減少した。
 
現在、新型コロナウィルスの感染拡大を懸念して、マスク、トイレットペーパー、ティッシュなどの買い占めが発生しているが、東日本大震災時にもミネラルウォーター、トイレットペーパー、カップめん、電池などの消費量が非常時に備えた買いだめから急増した。しかし、自動車、旅行、外食などの選択的支出が大きく落ち込んだため、2011年3月の消費支出は全体では大幅な減少となった。
 
ほとんどの経済指標は東日本大震災が発生した2011年3月に急速に落ち込んだ後、4月以降は徐々に持ち直したが、福島の原子力発電所事故に伴う放射能汚染の問題から訪日外国人数が震災前の水準に戻るまでには1年以上の時間を要した[図表1]。
東日本大震災時の経済動向
現時点では、新型コロナウィルスの終息時期は不明だが、今回の経済見通しでは2020年4-6月期に終息することを前提とした。東日本大震災発生時の訪日客、個人消費などの動きを参考に、新型コロナウィルスの感染拡大による影響を試算すると、下押し幅は2020年1-3月期が▲2.0兆円( 実質GDP比▲1.4%、内訳はサービス輸出が▲4,500億円(うち中国が▲2,800億円)、財の輸出が▲5,400億円(うち中国が▲2,900億円)、家計消費支出が▲10,200億円)、4-6月期が▲1.1兆円(実質GDP比▲0.8%、内訳はサービス輸出▲1,900億円、財輸出▲1,600億円、家計消費支出▲7,600億円)となった。実質GDP成長率への影響は2020年1-3月期が前期比年率▲5.7%、4-6月期が同2.6%、7-9月期が同3.1%となる[図表2]。
 
実質GDPへの影響

3―景気は2018年秋以降、後退局面入り

消費増税後の景気悪化を反映し、それ以前から低下傾向となっていた景気動向指数のCI一致指数は一段と落ち込んでいる[図表3]。
景気動向指数、CI一致指数
景気の山谷は主として一致指数の各採用系列から作られるヒストリカルDIに基づき決定される。当研究所が簡便的にヒストリカルDIを作成すると、2018年11月から50%を下回り、足もとでは0%(9系列の全てがピークアウト)となっている。2020年1月のCI一致指数は景気の山となる可能性がある2018年10月と比べて▲9.0%低く、低下幅は前回の景気後退期(2012年3月~11月)の▲6.1%を大きく上回っている。
 
景気基準日付は、景気動向指数研究会での議論を踏まえて、経済社会総合研究所長が設定するが、その際には、景気動向指数に加え、実質GDP、日銀短観の景況感などを参考指標として確認することになる。実質GDPは2018年10-12月期から4四半期連続のプラス成長となっていたが、2019年10-12月期、2020年1-3月期と2四半期連続のマイナスが確実である。また、日銀短観の業況判断DIも直近のピークからの低下幅は前回の景気後退期や2014年4月の消費増税後の停滞期を大きく上回っている。景気は2018年秋頃をピークに後退局面入りしていたと事後的に認定される公算が大きい。

4―実質GDP成長率の見通し

実質GDPは消費税率引き上げに伴う国内需要の急速な落ち込みを主因として前期比年率▲7.1%の大幅マイナス成長となった。2020年1-3月期は駆け込み需要の反動が和らぐことが成長率を押し上げるものの、新型コロナウィルスの感染拡大の影響がそれを大きく上回ることにより、前期比年率▲4.2%と2四半期連続のマイナス成長になると予想する。
 
現時点では、新型コロナウィルスによる経済への悪影響は一時的と考えている。東日本大震災時のような生産設備の毀損、原子力発電所事故に伴う電力不足といった供給制約はないため、感染が終息すればV字回復も期待できる。東日本大震災発生時の実質GDPの動きを振り返ると、2011年1-3月期に前期比年率▲5.5%、4-6月期に同▲2.6%と2四半期連続のマイナス成長となった後、7-9月期は電力不足による供給制約が残る中でも同10.3%と急回復した。
 
今回の見通しで新型コロナウィルスの終息時期と想定している2020年4-6月期は一時的な押し下げ要因の剥落、挽回生産などから前期比年率4.6%の高成長となった後、7-9月期も同2.9%と潜在成長率を明確に上回る成長が続くだろう。ただし、新型コロナウィルスの感染拡大が長期化すれば、景気の底打ち時期は後ずれする。また、2020年度後半はポイント還元制度などの消費増税対策の効果一巡が景気を下押しするリスクがある。
 
実質GDP成長率は2019 年度が▲0.1%、2020年度が0.1%、2021年度が1.0%と予想する[図表4]。
実質GDP成長率の推移
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経済研究部   経済調査部長

斎藤 太郎 (さいとう たろう)

研究・専門分野
日本経済、雇用

経歴
  • ・ 1992年:日本生命保険相互会社
    ・ 1996年:ニッセイ基礎研究所へ
    ・ 2019年8月より現職

    ・ 2010年 拓殖大学非常勤講師(日本経済論)
    ・ 2012年~ 神奈川大学非常勤講師(日本経済論)
    ・ 2018年~ 統計委員会専門委員

(2020年04月07日「基礎研マンスリー」)

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