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実効性が試されるプラットフォーマー規制
基礎研REPORT(冊子版)4月号[vol.277]

総合政策研究部 専務理事 エグゼクティブ・フェロー・経済研究部 兼任 矢嶋 康次
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1―GAFAに負けじと動く日本企業
2―規制とイノベーションのジレンマ
公正取引委員会(公取)が実施したアンケート調査*では、取引企業の不満も見て取れる。同調査では、オンラインモールに関して、プラットフォーマーに「一方的に規約を変更されたことがある」との回答は、楽天で93%、アマゾンで73%に上っている。これだけ不満が多いと何らかのルール整備は必要だろうが、この領域でイノベーションが起きる可能性も高い。踏み込んだ規制を導入すると、イノベーションを阻害してしまうのではないかとの懸念もある。
政府は、プラットフォーマーによる取引の透明性・公平性の確保や、独占・寡占の弊害などを防ぐため、「独占禁止法の見直し(消費者に対する優越的地位の濫用への対応、データの価値評価も含めた企業結合審査)」、「個人情報保護法の改正(外国事業者への域外適用の範囲拡大など)」、「特定デジタルプラットフォームの透明性及び公正性の向上に関する法律案」の3本柱で対応を進めている。
この通常国会に提出された新法案では、大規模なオンラインモールやスマートフォンなど向けのアプリストアを運営する事業者を対象に、契約条件の開示や運営状況の政府への報告を義務付け、透明性や公正性を高めることを目的としている。経済産業省はプラットフォーマーからの報告をチェックし、不正行為があれば公取に対応を要請する。その一方で、企業活動の萎縮を避けるため、不正行為を禁じる規定の導入は見送った。企業活動への影響や、中小企業も多いプラットフォーマーの取引先の保護など、バランスに腐心したことがうかがえる。
3―実効性をどう担保するか
巨大IT企業が更に力をつけると、取引先に対する優越的地位の濫用のリスクは高まる可能性がある。規制を厳しくすると、巨大IT企業だけでなく日本企業も大きく影響を受ける可能性がある。規制を緩くすれば、プラットフォーマーがイノベーションを牽引するだろうが、寡占が進んで新規参入や競争が減ると、逆にイノベーションが停滞してしまう。寡占が進めば、価格の上昇など、消費者が不利益を被ることもあり得るが、あらゆるサービスがワンストップで使える「スーパーアプリ」が登場すれば、消費者は安くて(もしくは無料で)一層便利なサービスが手に入る可能性もある。バランスのとり方、両立は簡単ではない。
規制の議論はいつもこのような難しい問題を抱える。今回、法案が通ったからといって、デジタル市場のルール作りの議論が終わるわけではない。この領域は変化が激しい。できるだけイノベーションは阻害したくないが、巨大IT企業の行き過ぎた行いはしっかり牽制したい。バランスも意識しながら、いかにルールの実効性を担保していくのか、規制当局の手腕に注目が集まっている。
* デジタル・プラットフォーマーの取引慣行等に関する実態調査について(中間報告)
https://www.jftc.go.jp/houdou/pressrelease/2019/apr/190417.html
(2020年04月07日「基礎研マンスリー」)
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03-3512-1837
- ・ 1992年 :日本生命保険相互会社
・ 1995年 :ニッセイ基礎研究所へ
・ 2021年から現職
・ 早稲田大学・政治経済学部(2004年度~2006年度・2008年度)、上智大学・経済学部(2006年度~2014年度)非常勤講師を兼務
・ 2015年 参議院予算委員会調査室 客員調査員
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