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- 新型コロナでオンライン診療急増、保険適用加速化(中国)
2020年03月19日
中国では、新型コロナウイルスによって、オンライン診療の認知度が向上し、そのプレゼンスが大きく変わっている。また、オンライン診療の保険適用についても、新型コロナによる二次感染の防止を契機に、急速に拡大する様相を呈している。オンライン診療については、日本でも同じく新型コロナ対応策としてより柔軟な運用を認めるなどの動きがあるが、中国ではどのように変化しているのであろうか1。
中国では新型コロナによる肺炎患者の急増時に、病院に不安にかられた患者が殺到して供給体制が追いつかなくなり、医療の現場に混乱が生じた。政府はこれを緩和するために、医師や看護師といった医療従事者など計4万人の湖北省全域への派遣、武漢市における新型コロナ専用の病院の建設、体育館などを活用した臨時の簡易施設の設置も実施した2。武漢はさながら新型コロナとの戦いの最前線となり、メディアでは ‘抵抗’(戦う、抵抗する)、‘抗击’(反撃する)や、‘打赢’(勝利する)といった言葉が飛び交っていた。
人民解放軍による医療従事者派遣、突貫工事による病院建設といった対策の裏で、政府が期待を寄せたものの1つにオンライン診療がある。政府は、武漢の医師の負担を軽減するために、中国医師協会にオンライン診療による後方支援を求めている。中国医師協会は、新型コロナ専用の雷神山病院をサポートするために、呼吸器系など各専門分野の医師1,000名以上を募り、専門チームを編成した。これに、清華大学や、華為(Huawei)、聯通(China Unicom)などの民間企業も参画し、高精緻な医療画像など大容量のデータを高速で送ることができる5G(第5世代移動通信システム)やAI(人工知能)による画像診断などIT面での支援を行っている。武漢市の医療現場の混乱緩和には、現場の奮闘のみならず、その後方に控える全国の医師や、業界を跨いだ連携に負うところもあるのだ。
また、国務院は、武漢向けに改めて規制を緩和し、オンライン診療が可能な公立病院による診断サポート、AIを活用した問い合わせや相談対応、慢性疾患の患者の再診・処方薬の配送などを奨励した3。オンライン診療の強みは、武漢から遠く離れていても様々なサポートが可能で、全国にある医療資源やサービスを最適化することができる点にあろう。重症化の心配がある慢性疾患の患者に加えて医師など医療従事者の二次感染を防ぐこともできる。2003年のSARSの時との大きな違いは、社会のデジタル化が進み、このようなオフラインとオンラインを融合した医療体制をとることができた点だ。
新華社によると、民間ではアリババ・グループ傘下の「阿里健康」、平安保険グループ傘下の「平安グッドドクター」、健康アプリを提供する「春雨医生」など10社が新型コロナ専用のサービスを立ち上げている。加えて、200の公立病院がオンラインで無料の診察や相談を受け付けている。各社が提供する新型コロナ向けの専用サービスに多くの医師が登録・参加し、オンライン診療への信頼度が向上したことや、病院での二次感染が深刻化していたことから、オンライン診療へのユーザー登録や利用が一気に進んだ。
例えば、「阿里健康」は、1月24日、緊急措置として、湖北省の住民向けにオンラインの問診が無料で受けられるようにした。運営側によると、およそ2週間で訪問したユーザーは1,000万人、オンラインの問診を利用したユーザーは93万人に達したとした。感染者急増時には、医師1人あたり平均100人以上を問診し、呼吸専門医の中には200名を超えるケースもあったという。また、定期的に病院に通うことが難しくなった湖北省の慢性疾患の患者向けに専用のオンライン問診サービスを開始し、普段服用している薬の安定供給と価格維持、配送の確保に努めている。
一方、「平安グッドドクター」も新型コロナ専門チームを設置。武漢市、福建省、北京市など56の省・市と協力し、オンラインによる無料の問診、相談の受け付け、感染防止の指導を行っている4。運営側によると、2019年末までで登録ユーザー数は3.2億人と国内では最多となっており、新型コロナ発生以降の訪問ユーザー数はのべ11.1億人、アプリの新規登録者は例年の10倍の勢いで増加し、新規登録者による問診件数は通常の9倍に達したという。
公立病院ではアプリを通じた無料の問診と同時に、日常生活でよく見られる軽い症状、慢性病疾患の患者の再診については、オンライン診療の保険適用が急速に進められている。例えば北京市では、2月26日、慢性病疾患などの患者の二次感染、院内感染を防止するために、オンライン診療を保険適用することを発表している。北京市の場合、給付対象となる医療機関は予め申請をし、許可を得る必要がある。被保険者は医療機関が準備をしたアプリをダウンロードし、必要な情報を入力すれば利用が可能となる。自己負担割合は通常の通院治療と同様に設定している。対象となる医療サービスは、診察の予約、問診、オンラインでの診察、薬の処方、ネット決済、処方薬の配送までで、自宅にいながら一連のサービスを受けることができる。
そもそもオンライン診療の保険適用については、国務院が2018年4月に発出した「インターネット+医療健康」において検討を指示している5。翌年の2019年8月には、公的医療保険制度を主管する国家医療保障局が保険適用とすることを決定しており、当初は各地方政府が適用に向けた準備を順次行っていた6。しかし、今般の新型コロナの発生により、国家医療保障局は、各地方政府に二次感染の防止を念頭に早急な対応を求めた7。各地方政府も保険適用に乗り出しており、中国におけるオンライン診療の保険適用は、新型コロナによる二次感染の防止を契機に、急速に拡大する様相を呈している。
1 厚生労働省は2020年2月28日、「新型コロナウイルス感染症患者の増加に際しての電話や情報通信機器を用いた診療や処方箋の取扱いについて(その1)」、「新型コロナウイルス感染症に係る診療報酬上の臨時的な取扱いについて(その2)」を発出。例えば、診療計画の事前作成がない場合でも、慢性疾患の定期受診患者は、医師が電話や情報通信機器を用いて診療した場合でも、処方を可能とした。
2 武漢市内に新型コロナ専用の火神山病院(1,000床)、雷神山病院(1,600床)を建設、また、軽症者向けに市内の体育館や大学など14カ所を臨時の施設に改装している。
3 国務院応対新冠肺炎疫情聯防聯控機制綜合組印発 「関于開展線上服務進一歩加強湖北疫情防控工作的通知」、2020年2月26日公布
4 平安グッドドクターは全国3,000の医療機関、5,400名の医師、9.4万店の薬局と提携している。
5 国務院弁公庁関于促進“互聯網+医療健康”発展的意見、2018年4月28日公布
6 国家医療保障局関于完善“互聯網+”医療服務価格和医保支付政策的指導意見、2019年8月17日公布
7 国家衛生健康委員会弁公庁関于疫情防控中作好互聯網診療諮問服務工作的通知、2020年2月7日公布
国家医療保障局、国家衛生健康委員会関于推進新冠肺炎疫情防控期間開展“互聯網+”医保服務的指導意見、2020年2月28日公布
中国では新型コロナによる肺炎患者の急増時に、病院に不安にかられた患者が殺到して供給体制が追いつかなくなり、医療の現場に混乱が生じた。政府はこれを緩和するために、医師や看護師といった医療従事者など計4万人の湖北省全域への派遣、武漢市における新型コロナ専用の病院の建設、体育館などを活用した臨時の簡易施設の設置も実施した2。武漢はさながら新型コロナとの戦いの最前線となり、メディアでは ‘抵抗’(戦う、抵抗する)、‘抗击’(反撃する)や、‘打赢’(勝利する)といった言葉が飛び交っていた。
人民解放軍による医療従事者派遣、突貫工事による病院建設といった対策の裏で、政府が期待を寄せたものの1つにオンライン診療がある。政府は、武漢の医師の負担を軽減するために、中国医師協会にオンライン診療による後方支援を求めている。中国医師協会は、新型コロナ専用の雷神山病院をサポートするために、呼吸器系など各専門分野の医師1,000名以上を募り、専門チームを編成した。これに、清華大学や、華為(Huawei)、聯通(China Unicom)などの民間企業も参画し、高精緻な医療画像など大容量のデータを高速で送ることができる5G(第5世代移動通信システム)やAI(人工知能)による画像診断などIT面での支援を行っている。武漢市の医療現場の混乱緩和には、現場の奮闘のみならず、その後方に控える全国の医師や、業界を跨いだ連携に負うところもあるのだ。
また、国務院は、武漢向けに改めて規制を緩和し、オンライン診療が可能な公立病院による診断サポート、AIを活用した問い合わせや相談対応、慢性疾患の患者の再診・処方薬の配送などを奨励した3。オンライン診療の強みは、武漢から遠く離れていても様々なサポートが可能で、全国にある医療資源やサービスを最適化することができる点にあろう。重症化の心配がある慢性疾患の患者に加えて医師など医療従事者の二次感染を防ぐこともできる。2003年のSARSの時との大きな違いは、社会のデジタル化が進み、このようなオフラインとオンラインを融合した医療体制をとることができた点だ。
新華社によると、民間ではアリババ・グループ傘下の「阿里健康」、平安保険グループ傘下の「平安グッドドクター」、健康アプリを提供する「春雨医生」など10社が新型コロナ専用のサービスを立ち上げている。加えて、200の公立病院がオンラインで無料の診察や相談を受け付けている。各社が提供する新型コロナ向けの専用サービスに多くの医師が登録・参加し、オンライン診療への信頼度が向上したことや、病院での二次感染が深刻化していたことから、オンライン診療へのユーザー登録や利用が一気に進んだ。
例えば、「阿里健康」は、1月24日、緊急措置として、湖北省の住民向けにオンラインの問診が無料で受けられるようにした。運営側によると、およそ2週間で訪問したユーザーは1,000万人、オンラインの問診を利用したユーザーは93万人に達したとした。感染者急増時には、医師1人あたり平均100人以上を問診し、呼吸専門医の中には200名を超えるケースもあったという。また、定期的に病院に通うことが難しくなった湖北省の慢性疾患の患者向けに専用のオンライン問診サービスを開始し、普段服用している薬の安定供給と価格維持、配送の確保に努めている。
一方、「平安グッドドクター」も新型コロナ専門チームを設置。武漢市、福建省、北京市など56の省・市と協力し、オンラインによる無料の問診、相談の受け付け、感染防止の指導を行っている4。運営側によると、2019年末までで登録ユーザー数は3.2億人と国内では最多となっており、新型コロナ発生以降の訪問ユーザー数はのべ11.1億人、アプリの新規登録者は例年の10倍の勢いで増加し、新規登録者による問診件数は通常の9倍に達したという。
公立病院ではアプリを通じた無料の問診と同時に、日常生活でよく見られる軽い症状、慢性病疾患の患者の再診については、オンライン診療の保険適用が急速に進められている。例えば北京市では、2月26日、慢性病疾患などの患者の二次感染、院内感染を防止するために、オンライン診療を保険適用することを発表している。北京市の場合、給付対象となる医療機関は予め申請をし、許可を得る必要がある。被保険者は医療機関が準備をしたアプリをダウンロードし、必要な情報を入力すれば利用が可能となる。自己負担割合は通常の通院治療と同様に設定している。対象となる医療サービスは、診察の予約、問診、オンラインでの診察、薬の処方、ネット決済、処方薬の配送までで、自宅にいながら一連のサービスを受けることができる。
そもそもオンライン診療の保険適用については、国務院が2018年4月に発出した「インターネット+医療健康」において検討を指示している5。翌年の2019年8月には、公的医療保険制度を主管する国家医療保障局が保険適用とすることを決定しており、当初は各地方政府が適用に向けた準備を順次行っていた6。しかし、今般の新型コロナの発生により、国家医療保障局は、各地方政府に二次感染の防止を念頭に早急な対応を求めた7。各地方政府も保険適用に乗り出しており、中国におけるオンライン診療の保険適用は、新型コロナによる二次感染の防止を契機に、急速に拡大する様相を呈している。
1 厚生労働省は2020年2月28日、「新型コロナウイルス感染症患者の増加に際しての電話や情報通信機器を用いた診療や処方箋の取扱いについて(その1)」、「新型コロナウイルス感染症に係る診療報酬上の臨時的な取扱いについて(その2)」を発出。例えば、診療計画の事前作成がない場合でも、慢性疾患の定期受診患者は、医師が電話や情報通信機器を用いて診療した場合でも、処方を可能とした。
2 武漢市内に新型コロナ専用の火神山病院(1,000床)、雷神山病院(1,600床)を建設、また、軽症者向けに市内の体育館や大学など14カ所を臨時の施設に改装している。
3 国務院応対新冠肺炎疫情聯防聯控機制綜合組印発 「関于開展線上服務進一歩加強湖北疫情防控工作的通知」、2020年2月26日公布
4 平安グッドドクターは全国3,000の医療機関、5,400名の医師、9.4万店の薬局と提携している。
5 国務院弁公庁関于促進“互聯網+医療健康”発展的意見、2018年4月28日公布
6 国家医療保障局関于完善“互聯網+”医療服務価格和医保支付政策的指導意見、2019年8月17日公布
7 国家衛生健康委員会弁公庁関于疫情防控中作好互聯網診療諮問服務工作的通知、2020年2月7日公布
国家医療保障局、国家衛生健康委員会関于推進新冠肺炎疫情防控期間開展“互聯網+”医保服務的指導意見、2020年2月28日公布
(2020年03月19日「基礎研レター」)
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経歴
- 【職歴】
2005年 ニッセイ基礎研究所(2022年7月より現職)
(2023年 東京外国語大学大学院総合国際学研究科博士後期課程修了) 【社外委員等】
・日本経済団体連合会21世紀政策研究所研究委員
(2019~2020年度・2023年度~)
・生命保険経営学会 編集委員・海外ニュース委員
・千葉大学客員教授(2024年度~)
・千葉大学客員准教授(2023年度) 【加入団体等】
日本保険学会、社会政策学会、他
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