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インド経済の見通し~成長率は20年1-3月に底打ちするも、低空飛行が続く見通し(2019年度+5.1%、2020年度+5.7%)

経済研究部 准主任研究員 斉藤 誠
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経済概況:輸出・投資の低迷で3期連続の景気減速

経済見通し:景気底打ち後、緩慢な回復ペースが続く見通し
足元の経済指標をみる限り、1-3月期に成長率が底打ちする確度は高まってきている。製造業PMIと非製造業PMIは昨年末に急上昇して景気拡大・縮小の節目である50を大きく上回っているほか、主要8業種の生産指数も直近2カ月で底打ちの動きがみられる(図表5)。また昨年の南西モンスーン(降雨量は例年の+10%)後も良好な雨量が得られたことから、貯水池の水位レベルは過去10年平均を約50%も上回り、土壌水分は良好な状態にある。このため、ここ数年で伸び悩んでいた農業生産は上向く可能性が高い。民間気象予報会社のスカイメットは、3月から始まる乾季作の穀物生産量が前年比+4.5%と推定している。農業生産の回復は、農村所得の改善と足元の食品インフレの沈静化に繋がり、当面の消費の下支えとなりそうだ。
しかし、20年度の景気回復ペースは緩慢なものとなるだろう。その理由としては、まず投資の回復には時間を要することがあげられる。製造業の設備稼働率は昨年7-9月時点で69.1%まで低下している。これは2008年度に同統計が開示されて以来、最も低い水準である。また1月の工作機械輸入は前年比16.0%減と、8ヵ月連続のマイナス成長を続けている。企業が生産能力増強のための設備投資に踏み切るには、足元の生産の回復傾向が持続的なものとなる必要がある。もっとも昨年の段階的な金融緩和によって政策金利が低水準にあることは、今後の投資の拡大をサポートしよう。
新型肺炎の世界的な感染拡大もインド経済の重しとなるだろう。インド国内の症例は5件、うち3件は回復済みであるなど、現在のところ市中感染が広がる可能性は低い。しかし、中国の工場の生産停止に伴うサプライチェーンの乱れによって自動車部品や太陽光パネル、電子機器、化学製品などの部材の輸入が滞り、短期的に国内の生産活動に悪影響が及ぶとみられる。また新型肺炎の感染拡大による世界経済に与える影響は日に日に拡大しているほか、インドが米政権による一般特恵関税制度(GSP)対象国除外1される予定であることを踏まえると、輸出の低迷は当面続きそうだ。
自動車販売は、前月比で見ると昨年8月を底に増加傾向にあり、来年度は前年比プラスに転じると予想する。4月には排ガス基準「バーラト・ステージ(BS)6」の導入を控えているため、3月には現行車両に対する駆け込み需要から大幅に自動車販売が伸びるが、その後は車両価格の値上げを受けてインド自動車市場は小幅の増加に止まると予想される。
金融機関の貸し渋りは来年度も続くだろう。現在高止まりしている国営銀行の不良債権残高は足元の企業業績の悪化を通じて短期的には増加する恐れがある。しかし、金融緩和による利子負担の軽減と今後の緩やかな景気回復によって企業の債務返済能力が改善に向かうとみられ、不良債権問題の一段の深刻化は回避されるだろう。
景気回復の遅れに対し、政府は引き続き支出拡大を通じて下支えを図る公算だ。今年2月に公表された20年度の連邦政府予算を見ると、歳出の伸びは2年連続で二桁増の前年度比13%増となる見込みである。内訳を見ると、農業向けが同28%増、インフラ向けが同7%増と配分されており、20年度の景気の下支え役となるだろう。また昨年、他のアジア諸国並みに税率を引き下げた法人減税(19年9月)は中期的な投資促進に寄与するだろう。
1 5月31日、米トランプ大統領がインドを一般特恵関税制度(GSP)の対象から除外することを発表した。GSPは途上国の経済発展を促すことを目的に米国への輸入にかかる関税を一部免除する制度である。GSP除外により、インドから輸出される自動車部品や化学薬品、食器類に最大7%の関税が課されることになる。
(為替の動向)ルピー弱含みが続く


(物価の動向)春頃から農業生産が回復して食品インフレは静化

先行きのインフレ率は当面、食品価格の高止まりが続くものの、豊作が見込まれる乾季作物の収穫が3月に始まると食品インフレが和らぎ、中央銀行のインフレ目標圏内まで後退、20年秋以降は足元の食品インフレの反動減により物価目標の中央値を下回るまで低下するだろう。しかし、21年初には緩やかな景気回復による需給改善が上昇要因となってインフレ率が底入れ、その後は上昇傾向で推移しよう。CPI上昇率は19年度の+3.7%から20年度が+5.0%に上昇、21年度が+4.3%と予想する。
(金融政策の動向)インフレ沈静化を機に追加利下げ実施へ

先行きについては、当面は緩和的な政策スタンスを継続するだろう。RBIの金融政策スタンスは昨年6月に採用した「緩和的」を維持しており、追加的な利下げに含みを残している。これまでの積極的な利下げにもかかわらず、景気減速に歯止めがかかっていないこと、厳しい外部環境から輸出停滞が当面続くと見込まれることから、RBIは年前半に農業生産の回復でインフレ率が目標圏内(4±2%)まで低下したタイミングで0.15%の追加利下げを実施すると予想する。その後は、景気回復の遅れから、政策金利を低水準に据え置くだろう。
(お願い)本誌記載のデータは各種の情報源から入手・加工したものであり、その正確性と安全性を保証するものではありません。また、本誌は情報提供が目的であり、記載の意見や予測は、いかなる契約の締結や解約を勧誘するものではありません。
(2020年03月04日「基礎研レター」)

03-3512-1780
- 【職歴】
2008年 日本生命保険相互会社入社
2012年 ニッセイ基礎研究所へ
2014年 アジア新興国の経済調査を担当
2018年8月より現職
斉藤 誠のレポート
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