2020年02月14日

河川法-よく見かけるあの川の看板、河川の種類~災害・防災、ときどき保険(9)

保険研究部 主任研究員 年金総合リサーチセンター・気候変動リサーチセンター兼任 安井 義浩

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2019年は、10月以降、台風による大雨やそれに伴う河川の氾濫が立て続けに起きた。そうした際の天気予報・注意報・警報などの種類や意味は、以前にもこのレポートでもお伝えしたことがある。また、避難に関する注意や指示に関しても述べたことがあるが、いくつかの災害を経るとそれも変わっていくことが常なので、いずれあらためて触れることにする。

今回は河川、特にその管理者による分類の話である。河川堤防の平常時の整備や緊急時の対策などは誰がやっているのか。それに関連して、川沿いの土手の道に、「一級河川 ○○川 国土交通省」などという看板を目にすることがある。川にも何らかのランク(?)があるようにみえる。そういった看板を何箇所もみていると、「一級河川」は大きな川で、「二級河川」は小さな川、のような気はする。しかし逆に、細々とした小川にしか見えないのに、「一級河川」とされている川もある。こうなると、果たして見た目の規模だけで、ランクが決められているのかどうか、怪しくなってくる。小さな川でも氾濫すれば、大きな被害がでているところもあることも関係するのか。川の級とは何か?そして「三級」以下もあるのだろうか。
 

1――河川法

1――河川法

1河川法の内容
こうした河川の管理は、日本では主に「河川法」に基づいている。河川法は、昭和39年(1964年)に、それまでにもあった旧河川法を全面的に改正してできた法律である。その主旨は
 
「河川について、洪水、津波、高潮等による災害の発生が防止され、河川が適正に利用され、流水の正常な機能が維持され、及び河川環境の整備と保全がされるようにこれを総合的に管理することにより、国土の保全と開発に寄与し、もって公共の安全を保持し、かつ、公共の福祉を増進することを目的とする。(河川法第1条)」
とされている。

ということで、河川一般の範囲や工事、河川の土地の利用、取水などに関する事項やダムに関する規則が定められている。もちろん災害発生時のことにも触れられているが、そうしたことはむしろ、以前述べた水防法などのほうに詳しいようである。ある行政資料で「ハード面は河川法、ソフト面は水防法」と解説しているものがあり、そういったイメージなのだろう。
 

2―日本における川の種類~一級河川、二級河川・・・

2―日本における川の種類~一級河川、二級河川・・・

河川法の中で河川は、行政における管理上、重要性に応じていくつかに分類される。そこに出てくるのは「一級河川」「二級河川」「準用河川」「普通河川」である。(実は、三級以下は、ないのであった。)
1一級河川
一級河川とは、「国土保全上又は国民経済上特に重要な水系で政令で指定したものに係る河川で国土交通大臣の指定したもの」(河川法第4条)である。

現在、全国で109の水系が指定されている(「河川法第四条第一項の水系を指定する政令」)。これを行政実務上、「一級水系」と呼んでいる(河川法中の用語ではないようだ。)。

「水系」と「河川」という言葉がでてくる。水系というのは、山地などの源流をでた小さな水の流れが合流を繰り返しながら次第に大きな流れとなって海にいたるその全体のことで、河川というのはその一部であり、本流あるいは支流それぞれに名前がついていることが多い。全国的に知られたような大きな川やその支流は、ほぼ全て一級河川であると思っていい。
2二級河川
二級河川とは、それ以外の水系で「公共の利害に重要な関係のあるものに係る河川で都道府県知事が指定したもの」(河川法第5条)である。

二級河川は、その地域の人以外には、例を挙げても通じないような中小の川であることが多い。東京の例を、全国的にはわからない人も多いのを恐れず挙げれば、渋谷川とか目黒川とかが二級河川である。2018年4月30日現在、全国には水系数で2,711、河川数で7,081ある1
 
1 河川管理統計(国土交通省)による。あとにでてくる準用河川の数についても同じ。
3一級河川、二級河川などのその他の例
この際、筆者が住んでいるからという理由だけで、東京の例をいくつか挙げると、神田川、石神井川は、荒川水系という一級水系の一級河川である。野川、仙川は多摩川水系の支流として一級河川である。

関西地方でいえば、寝屋川、猪名川などは淀川の支流として一級河川、武庫川は二級河川、などとなる。淀川水系には琵琶湖が含まれ、河川法上、琵琶湖は一級河川とみなされている。という事実はかなり有名かも知れないが、初めて聞くと不思議な印象をもつのではないだろうか。

一級河川と二級河川は、そもそも水系が異なるので、「ある一級河川の支流が二級河川」などということはありえない。そのため、比較的小さい川であっても、それが一級水系であれば、必要であれば一級河川として管理されることになる。したがって冒頭述べたように、小さな川なのに一級河川ということもありうるわけだ。

海に面していない県(いわゆる内陸県。栃木、群馬、埼玉、長野、岐阜、滋賀、奈良)には、例外はあるものの、二級河川はなく一級河川しかない。単独で海に注ぐ小さな川がなく、いずれ一級水系の大きな川に合流することが多いからである。例外は山梨県で、二級河川がある。それは西湖、本栖湖、精進湖とそれに注ぐ河川、という内陸の湖で終わる水系である。実は奈良県にも二級河川があるが、源流に近いわずかな部分のため、河川法に基づく例外的な取扱いに基づき、河口に近い和歌山県や三重県が管理している。
4準用河川、普通河川など、
次に、河川法そのものでは管理されないが、その規定を準用するものとして、「準用河川」がある。

「準用河川」とは「一級河川、二級河川以外の河川で市町村長が指定したもの(河川法第100条)」で二級河川の規定を準用するものである。これは、一級水系の中でも上流部の小さな支流がこれに当たることはある。これはもはや地元の人でも聞いたことがない川も多いようだ。試しに筆者も、東京あるいは土地勘のある地元岡山県の準用河川を探してみたが、聞いたことのないものばかりであった。

2018年4月30日現在、準用河川は全国には水系数で2,529、河川数で14,327ある。
 
最後に上記以外を「普通河川」という(河川法第100条の2)。河川法自体の定めにより、普通河川に河川法は適用されないが、市町村などが必要に応じて条例を定めて、管理することになっている。

無理に有名な例を探すと、京都府の高瀬川が淀川水系の普通河川である(高瀬川は、歌謡曲の歌詞や幕末あたりの歴史に登場するので、意外に知られている川かもしれない)。

また逆に、地元では「○○川」として有名であっても、実はそれは農業用水路であって、管轄するのは、例えば市の農林水産課など、という場合もある2。日頃はどうでもいいことかもしれないが、例えば災害時の対応を、どの行政機関がするのかということが、問題になることもありそうだ。
 
一級水系のうち、一級河川は基本的には国土交通省の管理となるが、特に指定された区間では都道府県になる(河川法第9条)。支流などの準用河川は、市町村の管理となり、普通河川は必要に応じて市町村などにより管理される。

二級水系は、二級河川部分が都道府県、準用河川以下は一級水系と同じく市町村などの管理となる。
 
河川法の中に記載されていることのうち、河川の種類ばかりに触れてきたが、そのほかの条文は、行政手続きや費用の分配などの規定であって、行政上は重要ではあろうが、外部から特段言うべきこともなさそうなので、ひとまず省略する。
 
2 筆者の地元岡山市でいえば、市街中心部を流れる「西川」は管理上は用水路。といっても岡山以外の人は誰もわからないか。
ちなみに、岡山県内の小規模でも有名(?)な川を挙げれば、観光地・倉敷美観地区の中心を流れる倉敷川は二級河川。桃太郎が流れてきた川のモデル?笹ヶ瀬川も二級河川。
 

3――都市部浸水被害への対応

3――都市部浸水被害への対応~特定都市河川浸水被害対策法

ところで、近年、都市部の河川流域で、ゲリラ豪雨と呼ばれるような降雨の際、中小河川や下水道の氾濫などの浸水被害が頻発している。市街地において、コンクリートなどに覆われた不浸透域が増加し、従来は地下に浸透していた水が短時間に河川に流入し、浸水被害を引き起こす、というメカニズムである。しかし、都市部では市街化のために、今さら河道を変更するとか、ダムを整備するなどの対策が困難である。

そこで2016年に施行されたのが「特定都市河川浸水被害対策法」である。この中では、まず対象河川を「特定都市河川」、その流域を「特定都市河川流域」と指定する。そのうえで、行政は災害対策計画の策定、雨水貯留浸透施設の整備などを行う。また住民や企業のほうも、雨水浸透を阻害しない目的で、土地の利用などに関して規制がなされるようになった。
 
こうして河川が分類され、それぞれ管理者が定められていることがわかった。これまで防災や災害時の対応については、災害対策基本法、消防法、水防法等々に触れ、それでもまだ紹介も途中であるのだが、その中では管理者あるいは災害への対応者が、災害の程度によりあるいは場所により、国、都道府県、市町村などの段階にある意味明確にされていた。

しかし、逆にこれだけ法律・規定があると、実際の災害のときの迅速な対応に支障がないのかどうかは気になってくる。また、それで不十分な場面が認識されれば、各地方自治体の連絡協議会などが設置できるよう、法的な整備は進むだろうが、それがますます対応が複雑になる場面も多々あるのではないか。「それは県の管理ではないので・・」とか「救助や物資を自衛隊に要請する前に、まず県に相談せよ・・」とか、緊急を要する場面で、面倒なことにならなければいいのだが。
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保険研究部   主任研究員 年金総合リサーチセンター・気候変動リサーチセンター兼任

安井 義浩 (やすい よしひろ)

研究・専門分野
保険会計・計理、共済計理人・コンサルティング業務

経歴
  • 【職歴】
     1987年 日本生命保険相互会社入社
     ・主計部、財務企画部、調査部、ニッセイ同和損害保険(現 あいおいニッセイ同和損害保険)(2007年‐2010年)を経て
     2012年 ニッセイ基礎研究所

    【加入団体等】
     ・日本アクチュアリー会 正会員
     ・日本証券アナリスト協会 検定会員

(2020年02月14日「基礎研レター」)

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