2020年02月13日

EUソルベンシーIIにおけるLTG措置等の適用状況とその影響(5)-EIOPAの2019年報告書の概要報告-

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3―LTG措置等の保険会社の投資への影響

1|調査概要
MA、VA、TRFR、TTPの保険及び再保険会社への投資に対する影響を評価するため、EIOPAはソルベンシーIIの下でNSAsに報告された会社の投資配分を調査分析した。

報告書のこの一般的なセクションにおいては、以下の3つの観点から会社の投資を検討している。

・投資配分
・国債と社債を別々に対象とした債券ポートフォリオの信用度
・国債と社債を別々に対象とした債券ポートフォリオのデュレーション

これらの検討については、EEA(欧州経済地域)市場全体について、MA、VA、TTP、TRFRを用いた会社又はいずれの措置も非適用(no measure)の会社について別々に検討され、また会社の種類も区別した。

国毎の投資配分の多様性を観察することができる。LTG措置及び株式リスク措置を適用する会社の投資を分析する場合、特にある措置の適用が全ての国で等しく一般的ではない場合は、これらの国の特性を考慮する必要がある。 
2|具体的な調査結果
(1)全体的な状況
以下の図表は、2018年末の保険及び再保険会社の投資配分を示している。
図表 国別の平均投資ポートフォリオ(ILやULを除いたベース)
会社の異なるグループ間の平均資産配分又は債券ポートフォリオの特性の違いは、ある程度、EEAに参加している国々の保険会社による資産投資の高度な多様性、そしてこの措置の適用が異なる市場に均等に広がっていないという事実に起因している。これは特に2つの国でのみ適用されているMAに関連している。国レベルでの詳細な分析からわかるように、これらの管轄区域における投資は、MAを適用する会社でも全く異なる可能性がある。従って、MAを適用する会社に関する全体的な観察結果は、MAの適用の有無ではなく、これらの国のいずれか又は両方における保険事業の特異性を単に反映しているのかもしれない。
(2) MA、VA、TRFR又はTTP措置を用いた会社の投資ポートフォリオ
以下の図表は、MA、VA、TRFR又はTTPを適用する、又はこれらの措置の1つも適用しない(no measure)会社の2018年末の投資配分を、全てのEEA会社の投資配分と比較して示している。これらの図表では、ユニットリンク(UL)/インデックスリンク(IL)契約に対する投資は除外されている。

最初の図表は、全ての会社の措置当たりの投資を示している。次の2つの図表は、生命保険会社と生損保兼営会社に対する措置当たりの投資を示している。

これらの図表は、投資配分にいくつかの違いがあることを示している。
図表 MA、VA、TRFR又はTTPを適用又はこれらの措置の1つも適用しない会社(no measure)の2018年末の投資配分(ILやULを除いたベース)
少なくとも1つのLTG措置を適用している会社と措置を適用していない会社との間の差異は、生命保険会社以外では殆ど見られない。技術的準備金の大部分を占める生命保険会社では、VAが最も広く適用されている措置であり、何らの措置も適用していない会社とVA適用会社間の差異は小さい。実質的な違いは、MA適用会社でのみ確認できるが、これは、MAが適用される2つの管轄区域における国別の資産配分によるものである。

LTG措置適用会社とLTG措置非適用会社の間のギャップは、生損保兼営会社においてより顕著であり、最大の違いはやはりMA適用会社に起因している。しかし、国別の影響の問題は別として、これらの数字の因果関係の問題を解決することは難しい。LTG措置が特定の投資配分の原因であるというよりも、特定の措置を適用することを選択した会社は、そもそも保険会社の完全な代表例ではないかもしれない。
(3) MA、VA、TRFR又はTTP措置を適用した会社の債券ポートフォリオ
(3-1)債券の信用度
以下の図表は、MA、VA、TRFR又はTTPを適用した会社の債券ポートフォリオの信用度を示している。信用度は、0から6まで変化する信用度ステップ(CQS)で測定される。0は最も高い信用度を示し、6は最も低い信用度を示す。「投資適格」とみなされる社債は、通常、0と3の間のCQSを有する。

・実質的に債券への全ての投資は投資適格(CQS0 ~CQS3)である。
・平均して、MA、VA、TRFR又はTTPの措置を適用する会社は、これらの措置のいずれも適用しない会社よりも信用度の低い債券を保有している。
・平均して、MAを適用する会社は他の会社よりも信用度の低い債券を保有している。
図表 国債と社債の信用度(措置適用有無別)(ILやULを除いたベース)
(3-2)債券のデュレーション
以下の図表は、国毎に、債券ポートフォリオの平均デュレーションを国債と社債で分けて示している。少なくとも1つの措置を適用した会社と、いずれの措置も適用していない会社を区別している。なお、デュレーションに関する図表には、ユニットリンク/インデックスリンク契約に対する投資は含まれていない。

これによると、少なくとも1つの措置を適用した会社は、債券の平均デュレーションが平均して長い。オランダ、ノルウェー、英国のように、その差が非常に大きい国も有れば、小さい国もある。なお、全体的な状況は2017年の報告書とは殆ど変わっていない。
図表 国債ポートフォリオの平均デュレーション(ILやULを除いたベース)
図表 社債ポートフォリオの平均デュレーション(ILやULを除いたベース)
(4)投資行動に関する監督上の観察
LTG措置及び株式リスクに対する措置が会社の投資行動に与える影響についての情報を収集するために、EIOPAはNSAsに対して、長期投資家としての会社の行動の傾向に関する観察、それらの動向に関連する要因及び措置と観察された傾向との間の関連についての見解を尋ねた。

全体として、NSAsからの反応は前年の観察と同様であった。殆どのNSAsは、監督する保険会社の投資行動に関連性のある重要な傾向を確認していない。確認された傾向の殆どは、低金利が続いている状況下での利回り追求行動に関連している。いずれの観察も、ともかく達成が困難な事実に基づく証拠に基づいたLTG措置の適用と明確に関連するものではなかった。

債券への投資を増やすことでの利回り追求は、7つのNSAsが指摘しており、そのうち2つは、国債から社債や住宅ローンへの移行に言及している。3つのNSAsは、より流動性の低い投資に向かう一般的な傾向に言及しており、いくつかのNSAsは、インフラ資産、現地の格付けされていない会社の債券、不動産市場投資ビークルについて明示的に言及している。あるNSAは、2018年の不安定な株式市場の結果として、株式と社債及びカバードボンドの間の切り替えに言及した。

5つのNSAsは、株式保有に関する具体的な動向について言及している。このうち、3つがやや上昇、1つがやや下落、1つが前述の投資ビークルへの移行を確認した。また、「資産の配分」の項目で示されたグラフを考慮すると、若干のわずかな動きを除けば、株式の総合的な保有行動は2017年から2018年まで変化していないと結論できる。

3つのNSAsは債券デュレーションの増加傾向を確認した。デュレーションが増加傾向を確認したNSAの1つは、これが利回り追求型の行動に直結していることを示している。

2つのNSAsは、投資の動向をLTG措置の適用と関連付けた。1つのNSAは、長期的に流動性の低い資産へと向かう一般的な傾向について述べた。他のNSAは、一般的に20年のLLPを超えて減少したヘッジとキャッシュフローのマッチングに加えて、VA参照ポートフォリオと整合しようとするVA適用会社におけるよりリスクの高い投資行動の観察を報告した。
 

4―まとめ

4―まとめ

以上、今回のレポートでは、EIOPAの報告書の第2のセクションに記載されているLTG措置や株式リスク措置が直接的に会社の財務状況に与える影響以外の項目のうち、保険契約者保護、保険会社の投資に与える影響について報告した。

次回の6回目のレポートでは、LTG措置や株式リスク措置が直接的に会社の財務状況に与える影響以外の項目のうち、消費者及び商品、EU保険市場における競争と公平な競争の場、金融安定性に与える影響について報告する。
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中村 亮一

研究・専門分野

(2020年02月13日「保険・年金フォーカス」)

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レポート紹介

【EUソルベンシーIIにおけるLTG措置等の適用状況とその影響(5)-EIOPAの2019年報告書の概要報告-】【シンクタンク】ニッセイ基礎研究所は、保険・年金・社会保障、経済・金融・不動産、暮らし・高齢社会、経営・ビジネスなどの各専門領域の研究員を抱え、様々な情報提供を行っています。

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