2020年02月07日

2020年の消費について考えるー東京オリンピック・パラリンピックやデジタル化、暮らしの構造変化

基礎研REPORT(冊子版)2月号[vol.275]

生活研究部 主任研究員   久我 尚子

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1―今年の消費の3つのポイント

2020年が始まり1カ月余りが経過した。今年の消費について、(1)東京オリンピック・パラリンピック関連消費、(2)消費のデジタル化の更なる加速、(3)暮らしの構造変化の3つのポイントをあげて考えたい。
 

2―東京五輪関連消費

1|訪日消費もモノからコトへ
 
東京五輪関連消費は、訪日外国人需要と日本人需要に分けられるが、訪日客が増えれば、宿泊や飲食、交通、娯楽・サービス、買物などの旅行に関わる消費が、単純に底上げされることが期待される。
 
一方で実は、訪日客の消費行動も、日本人と同様に「モノからコト(サービス)へ」と移っている。1人当たりの消費内訳を見ると、2015年をピークに中国人の「爆買い」が沈静化したため、最近では「買い物代」が減り、「宿泊費」や「飲食費」等が増えている[図表1]。
 
一人当たりの消費
訪日客にとって、浴衣や日本酒などの日本ならではのモノも魅力的だろうが、訪日基礎研レポート客を魅了するようなサービス(コト)を用意することが、リピーターを増やす上では効果的だろう。
 
2|日本人のトキ消費とイエナカ消費
 
日本人需要は、観戦需要と開催時の混雑に伴う需要に大別できる。
 
観戦需要としては、家庭での観戦を充実させるためのテレビの買い替えなどがあるが、昨年の消費増税によって、すでに消費の先食いが生じている。また、増税後の消費者の節約志向が根強く残るならば、五輪という限定期間のために高額なモノを買う消費者は多くはないのかもしれない。
 
一方で、盛り上がりが期待されるのは「トキ消費」だ。トキ消費とは、ハロウィンや音楽フェス、アイドルの総選挙、W杯など、その時、その場でしか味わえない盛り上がりを共有することであり、より限定されたコト消費とも言える。SNSが消費行動に浸透することで、SNS映えしやすいイベントが好まれる傾向もあるようだ。
 
トキ消費の肝は、同じ趣味嗜好を持つ他者と感動を共有することにもある。今回のような自国開催の五輪では、「共に日本人選手を応援したい!」という熱い気持ちが特に高まるだろう。しかし、希望通りの観戦チケットを得られた消費者はわずかだ。よって、その受け皿として、例えば、スポーツカフェやイベントスペースなどにおけるパブリックビューイングといったトキ消費が期待できるのではないだろうか。
 
また、混雑に伴う需要については、「イエナカ消費」が期待できるだろう。猛暑の中、会場付近は交通機関の大混雑が予想される。混雑を避けて家の中にこもりたいと考える消費者も少なくないだろう。自宅での食事や娯楽を楽しむためのイエナカ消費もじわりと盛り上がる可能性がある。
 
なお、開催時は通勤も課題だ。個人というより企業需要だが、テレワーク用のノートPCやタブレットなどのモバイル端末需要が高まる可能性もある。
 

3―シニアでも消費のデジタル化

また、今年は、キャッシュレス決済サービスや月額定額料金で使い放題になるサブスクリプションサービスといった消費のデジタル化が更に加速するだろう。特にシニアでの広がりが期待できる。
 
昨年の消費増税時に、消費者の負担軽減策として「キャッシュレス・ポイント還元事業」が実施され、増税直後から、キャッシュレス決済サービス各社では利用者を伸ばしているようだ。また、最近は、QRコードを読み取るなどスマホを使ったキャッシュレス決済サービスが増えている。
 
実は、2018年から60歳代のスマホ保有率はガラケー保有率を上回るようになっている[図表2]。「キャッシュレス・ポイント還元事業」は、この流れをさらに後押しするのではないだろうか。
60歳代の保有するモバイル端末
シニアのスマホ利用が広がれば、幅広い年代で、消費そのもののデジタル化が進む可能性がある。現在、サブスクリプションサービスは、自動車や家具、家電製品、ファッション、本・雑誌・漫画、ゲーム、音楽、映画・ドラマ・TV番組、おもちゃなど多岐に渡って展開されている。

サブスクは無駄な消費を減らし、消費の合理化を図ることができる。現在のところ、スマホ使いに長けた若者の利用が主だ。しかし、実は、サブスクは年金や貯蓄に頼るシニアの消費生活とも相性が良いのではないだろうか。

4―暮らしの構造変化

今年に限らず今後も続く大きな流れだが、日本では、単身世帯や共働き世帯の増加によって、暮らしの構造変化が生じている。
 
単身世帯が増えることで、現在、商品やサービスが小型化している。箱入りのカレールーの売上高を1人用のレトルトパックが上回るようになり、カット野菜が売れている。単身世帯は2040年には全体の4割となる中で、今後も様々な領域で「消費のコンパクト化」は進むだろう。
 
また、カット野菜等が売れる背景には、共働き世帯が増え、時短化需要や代行需要が高まっている影響もある。
 
今、食洗機や洗濯乾燥機、ロボット掃除機、用途に合わせた使い捨ての掃除シートなど、様々な領域で時短化や代行を図れる商品・サービスが増えている。また、シェアリングエコノミーによって家事代行などの人手を得やすい環境も広がっている。
 
さらに、共働き世帯に向けた子どもの教育関連の代行サービスも増えている。例えば、習い事送迎のキッズタクシーや、習い事教室が併設された小学生の放課後学童クラブなどでは、予約を受けきれないほど人気の高いものもあるようだ。
 
女性の社会進出が進む若い世代の母親ほど、大学進学率が高く経済力も高まっており、少子化の中でも、子ども1人当たりの教育費は膨らむ可能性もある。むしろ少子化だからこそ、限られた子に向けて多くの教育費を費やすという見方もできる。今後も増え行く共働き世帯に向けた子どもの教育関連市場は、盛り上がりが期待できるだろう。
 

5―サスティナブルという流れも

昨年の「国連気候アクション・サミット2019」にて、スウェーデン人の16歳の少女グレタ・トゥーンベリさんが、環境問題への対応に消極的な政治家達を厳しく批判し、日本のマスメディアでも大きく取り上げられていた。
 
近年、マーケティングにおいても、「SDGs」、「サスティナブル」といったキーワードが目に付くようになった。欧州の若者を中心に、大量生産による大量廃棄をもたらすファストファッションをボイコットするような動きもある。
 
これまでは、企業においても消費者においても、環境問題への取り組みは経済的に余裕のある層で積極的に取り組まれてきた。しかし、近年、日本では、深刻な自然災害が相次いだことで、国民全体で環境問題に対する意識が高まっているのではないだろうか。
 
今年の消費を考える上で3つのポイントをあげたが、これらにも「サスティナブル」という共通点がある。
 
五輪は言うまでもなく世界最大規模のイベントであり、その影響力は世界に広く及ぶ。環境や経済、社会面など幅広い領域において、持続可能性に配慮した大会運営が求められる。
 
また、消費のデジタル化として見られるサブスクは、消費者の間で商品を循環させることで、無駄な廃棄を減らすことができ、持続可能な社会づくりにつながる。
 
さらに、単身世帯の増加による消費のコンパクト化は、無駄な消費を減らす合理化とも言える。そして、より若い世代の共働き世帯、あるいは子育て世帯では、環境問題に対する意識の高い層が増えている印象もある。
 
消費行動を捉えるには、目の前に起きていること、すぐ先の未来に控えていることだけではなく、その背景にある暮らし方や価値観の変化という大きな流れもあわせて捉える必要がある。
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生活研究部   主任研究員

久我 尚子 (くが なおこ)

研究・専門分野
消費者行動、心理統計、保険・金融マーケティング

(2020年02月07日「基礎研REPORT(冊子版)」)

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