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- 「東日本大震災による被害・生活環境・復興に関するアンケート」2019年調査結果概要-福島県双葉町民を対象とした第5回調査
2020年02月07日
1――基本情報
アンケート調査の項目には、年齢や性別等の基本的な属性の他、人とのつながり(ソーシャル・キャピタル)や健康状態に関する項目が含まれ(調査項目は、本稿末の資料参照)、アンケート調査用紙は、双葉町の広報が配布されているすべての世帯(2,950件)に配布させて頂いた。また、これまでの調査で住所・氏名をご記入頂いていた方534名へは、これまでの調査と重複した質問を省略した簡易版のアンケート用紙を配布させて頂いた。回答は、全国に避難されている双葉町民707名より頂いた(広報双葉同封分からのご回答365件、簡易版からのご回答342件、回答率約24%)。
本調査は世帯主の方を対象としており、年齢、性別の分布については図1、図2の通りである。このように、国勢調査の年齢・性別分布に比べると、回答者の年齢分布は60代後半以上の方が多く、性別の分布は男性の回答者が多いという偏った分布である。加えて、震災という大変な状況が起こった後にご協力いただいた調査なので、回答者の傾向が一般的なアンケート調査とは大きく異なっている可能性も考えられる。そのため、本調査の結果が、必ずしも双葉町民全体の傾向を示すものではないことにご留意頂きたい。
本調査は世帯主の方を対象としており、年齢、性別の分布については図1、図2の通りである。このように、国勢調査の年齢・性別分布に比べると、回答者の年齢分布は60代後半以上の方が多く、性別の分布は男性の回答者が多いという偏った分布である。加えて、震災という大変な状況が起こった後にご協力いただいた調査なので、回答者の傾向が一般的なアンケート調査とは大きく異なっている可能性も考えられる。そのため、本調査の結果が、必ずしも双葉町民全体の傾向を示すものではないことにご留意頂きたい。
1 本研究は、以下の研究助成によって実施されてきた。記して深謝する。
科研費(15J09313、26220502、LZ003)、日本経済研究センター研究奨励金
また、この調査は東京大学倫理委員会の承認(19-73)のもと実施された調査である。
2――健康状態について
健康状態について、図3にみられるように、震災前の健康状態については、多くの方が「良い」、または「大変良い」と自己評価をされていたが、震災後の健康状態については、多くの方が「悪い」、「大変悪い」、または、「どちらともいえない」と自己評価されている。2016年の調査結果と比べると、今回の調査では、「良い」と回答された方の割合が増え「悪い」と回答された方の割合が少し減少し、全体的に少しずつ改善傾向があることが分かる。一方で、図4にみられるように、震災前と比較した健康状態の変化についての質問では、多くの方が震災前と比較すると健康状態が悪くなっていると自己評価されており、その分布は2013年からほとんど変化が見られていないことがわかる。
しかしながら、この調査結果が必ずしもすべての双葉町の皆さまに当てはまるわけではなく、K6の値が高いからといって精神的な疾患があると断定されるものではない。あくまで、政策的な示唆を行政などに与えるための調査であることを申し添える。
3――社会関係資本の変化について
社会関係資本とは、信頼関係やネットワークなどを指し、「きずな」ということばであらわされることもある。この社会関係資本は震災復興の鍵概念として注目されている概念で、本調査でも重点的に分析を行ってきた。これまで実施させていただいたアンケート調査の分析からは、社会関係資本は震災後のこころの健康状態を保つために重要な役割がある可能性がある一方、双葉町では社会関係資本が震災によって弱められている可能性があることが示されてきた。
社会関係資本を図る指標として一般的に使われている指標はいくつかあるが、ここでは3つの項目に注目する。まず、「一般的な人への信頼感」については、2013年から2016年にかけて減少傾向だったが、2017年の調査からは「たいていは信用できる」という回答が増加し、震災から8年以上が経ち、全体的には日本全体の分布とほとんど変わらないレベルまで回復してきていることが分かる (図7参照)。一方で、震災前の双葉町の高いレベルまでの回復にはまだまた時間がかかる可能性がある。
また、「近所の人との助け合いの頻度」の指標についても緩やかに回復傾向が見られる。さらに、「近所の人への信頼感」についても、2016年以降は少しずつ回復傾向が見られるが、どちらも非常に緩やかな傾向である。社会関係資本の回復には非常に長い時間がかかり、今後もその変化を長期的に注視してゆくことが重要であると考えている。
社会関係資本を図る指標として一般的に使われている指標はいくつかあるが、ここでは3つの項目に注目する。まず、「一般的な人への信頼感」については、2013年から2016年にかけて減少傾向だったが、2017年の調査からは「たいていは信用できる」という回答が増加し、震災から8年以上が経ち、全体的には日本全体の分布とほとんど変わらないレベルまで回復してきていることが分かる (図7参照)。一方で、震災前の双葉町の高いレベルまでの回復にはまだまた時間がかかる可能性がある。
また、「近所の人との助け合いの頻度」の指標についても緩やかに回復傾向が見られる。さらに、「近所の人への信頼感」についても、2016年以降は少しずつ回復傾向が見られるが、どちらも非常に緩やかな傾向である。社会関係資本の回復には非常に長い時間がかかり、今後もその変化を長期的に注視してゆくことが重要であると考えている。
4――避難先の住民の方との関係構築について
長期化する避難生活の中で、避難先の地区の政策や避難先の住民の理解が様々に異なる中での、避難先の住民との新たな関係構築が課題であるというお話を様々な双葉町民の方からお聞かせいただいた。そこで2016年の調査から、避難先の住民の方との関係に関する質問を追加した。図10に示されているように、避難先の住民と交流する機会や、避難先の地区で行われている行事へ参加する人の割合は少しずつ増加傾向が見られる。また、双葉町民であることを隠した方が良いと現在も感じている方や、ゴミ出しについて気が引ける思いをされている方、双葉町民であるために悪口を言われたり、いたずらをされたりされている方の割合も減少傾向が見られる。しかし、現在も約40%の方が双葉町民であることを隠した方が良いと感じていたり、避難先の住民と交流する機会を持てていなかったりすることが確認され、避難先の住民との関係構築は、現在も重要な課題であることが分かる。
5――被災とこころの健康のつながりについて
被災によってこころの健康状態が下向きになるというつながりの背後に、被災によって、現在バイアスが増大するメカニズムがある可能性が示された(図11参照)。現在バイアスとは、個々人の「物事を先送りする傾向」のことで、肥満や喫煙、過度の飲酒など健康状態の悪化に関わる可能性のある行動と親密に関係していることが知られている。被災地域では、定期的な昼食会や、ラジオ体操等のイベント、無料のランニングマシンの設置、住民同士の交流を促すような復興公営住宅の設計等の活動や政策が行われてきた。こうした活動や政策は、先送り傾向によってもたらされるこころの健康の悪化を防ぐものと考えられ、これまでの調査の分析はそうした活動や政策の有効性を支持する結果であると捉えることができる。しかしながら、被災したからといってすべての方の現在バイアスが増大したり、こころの健康が下向きになったりするわけではない。あくまで、政策的な示唆を与えるための調査であることを申し添える。
6――これまでの5回の調査分析で示唆されたことのまとめ
(1) 双葉町民のこころの健康状態は他の被災地での調査と比較してもより深刻な状態にある可能性がある。震災から8年以上が経ち、少しずつ改善傾向が見られているが、回復にはより長い時間がかかる可能性がある。
(2) 中でも、仮設住宅に長期にお住まいの方のこころの健康状態が深刻な状態に置かれていた可能性があったが、仮設住宅にお住まいの方が少なくなった現在も、復興公営住宅の住民の方のこころの健康状態は深刻な可能性があり、継続的なサポートが重要と考えられる。
(3) 震災による健康状態や所得の変化について、悪化・減少幅が大きいほど幸福感も悪化している傾向があり、震災前の幸福感の状態に回復するには十分な補償が必要であると考えられる。
(4) 震災で双葉町民の社会関係資本が減少させられ、その回復にはとても長い時間がかかる可能性がある。
(5)震災前からのつながりを保つこと、震災後、趣味の会やボランティア活動などに参加することによってこころの健康状態を良好に保つ助けになる可能性がある。
(6) 避難先の地域の住民との関係構築は少しずつ進んでいる傾向が見られるが、その傾向は非常に緩やかで、現在も重要な課題であると考えられる。
(7) 被災による現在バイアス(先送り傾向)の増大が、こころの健康の悪化につながる可能性があるが、住民同士の交流や規則的な健康行動を促す政策がそうした健康悪化を防ぐ可能性がある。
これらの結果は国内外の学会で発表し、また国際的な学術誌で発表をしてきている。今後も分析を進め具体的な提案につなげていく所存である。
(2) 中でも、仮設住宅に長期にお住まいの方のこころの健康状態が深刻な状態に置かれていた可能性があったが、仮設住宅にお住まいの方が少なくなった現在も、復興公営住宅の住民の方のこころの健康状態は深刻な可能性があり、継続的なサポートが重要と考えられる。
(3) 震災による健康状態や所得の変化について、悪化・減少幅が大きいほど幸福感も悪化している傾向があり、震災前の幸福感の状態に回復するには十分な補償が必要であると考えられる。
(4) 震災で双葉町民の社会関係資本が減少させられ、その回復にはとても長い時間がかかる可能性がある。
(5)震災前からのつながりを保つこと、震災後、趣味の会やボランティア活動などに参加することによってこころの健康状態を良好に保つ助けになる可能性がある。
(6) 避難先の地域の住民との関係構築は少しずつ進んでいる傾向が見られるが、その傾向は非常に緩やかで、現在も重要な課題であると考えられる。
(7) 被災による現在バイアス(先送り傾向)の増大が、こころの健康の悪化につながる可能性があるが、住民同士の交流や規則的な健康行動を促す政策がそうした健康悪化を防ぐ可能性がある。
これらの結果は国内外の学会で発表し、また国際的な学術誌で発表をしてきている。今後も分析を進め具体的な提案につなげていく所存である。
本調査結果は、調査にご協力頂いた約24%の双葉町の世帯の方のご回答のみを集計・分析した結果であり、この結果が双葉町民の方全員の傾向を表すものではございません。震災という大変な状況が起こったあとにご協力いただいた調査であるため、回答者の内訳は一般的なアンケート調査とは大きく異なっている可能性もございます。その為、健康状態の自己評価についての集計や、こころの健康状態についての集計においても、過大評価がされている可能性がございます。結果の解釈には十分な注意が必要であり、この調査結果のみによる断定的な判断は避ける必要がありますことにご留意いただれば幸いです。
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経歴
- 【職歴】
2010年 株式会社 三井住友銀行
2015年 独立行政法人日本学術振興会 特別研究員
2018年 ニッセイ基礎研究所 研究員
2021年7月より現職
【加入団体等】
日本経済学会、行動経済学会、人間の安全保障学会
博士(国際貢献、東京大学)
2022年 東北学院大学非常勤講師
2020年 茨城大学非常勤講師
公式SNSアカウント
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