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EUソルベンシーIIにおけるLTG措置等の適用状況とその影響(1)-EIOPAの2019年報告書の概要報告-
中村 亮一
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5―全体的な状況(各種措置の適用会社数等)
以下の図表及び図表の数値は 、特に断りが無い限り、EIOPAの「長期保証措置と株式リスク措置に関する報告書2019」からの抜粋によるものであり、必要に応じて、筆者による分析数値を加えたり、表の項目の順番を変更する等の修正を行っている。
4 以下の図表等において、会社数と述べるとき、1つの会社が異なる事業で各措置を適用している場合等もあり、必ずしも「会社数」を表しているとは限らないが、報告書の概要の結果が示すものに影響を与えないと考えられるため、「会社数」という表現を使用している(次回以降のレポートでも同様)。
次の表は、ソルベンシーIIの対象となる全ての保険及び再保険会社の技術的準備金及び総収入保険料額の概要を示している。技術的準備金では9割以上が生命保険事業となっている。
ソルベンシーII対象の2,797社のうち、25.0%にあたる699 社が、MA、VA、TRFR、TTP、DBERのいずれかの措置を適用している。これらの会社は22カ国にわたっており、9カ国(エストニア、クロアチア、アイスランド、リトアニア、ラトビア、マルタ、ポーランド、ルーマニア、スロベニア)からの会社は、いずれの措置も適用していない。なお、いずれかの措置を適用している会社の割合については、生命保険会社で51.2%、生損保兼営会社で46.8%であり、損害保険会社の13.3%、再保険会社の8.0%に比較して、相対的に高くなっている。なお、前回の報告書との比較では、この割合は、生命保険会社と再保険会社では上昇しているが、生損保兼営会社と損害保険会社では低下している。
また、これを技術的準備金の比率で見ると、全体の8,898十億ユーロのうち、6,666十億ユーロ、74.9%(生命保険だけでみれば78.3%)の会社がいずれかの措置を適用している。
MA、VA、TRFR、TTP、DBERの措置別の適用状況は、以下の図表の通りとなっている。
(1)単体ベース
・VAが最も多く660社(技術的準備金でのシェア67%、以下同様)が適用
・TTPは、次に多く159社(25%)が適用
・MAは、34社(15%)が適用(英国とスペインの会社が適用)
・TRFRは、6社(0%)が適用
・DBERを適用したのは、1社(0%)のみ
・どの措置も、生命保険会社に比べて、損害保険会社の適用は限定的
なお、MAは、英国やスペインの保険会社で適用されているため、会社数の割に、技術的準備金のシェアは大きくなっている。
6―全体的な状況(各種措置のSCR比率や技術的準備金等への影響)
1|前提
EIOPAは、今回の報告書を作成するにあたり、必要なデータを収集するために、2つのアプローチを使用している。
EIOPAは、2019年にNSAsに送付された専用の定量的報告テンプレートを通じて、2018年12月31日のMA、VA、TRFR及びTTPの影響に関する情報を収集した。収集された情報は、これら4つの措置の影響の一貫した分析を可能にする。影響が会社から直接報告されていないSAについては、定量的報告テンプレートから抽出されたデータに基づいて分析が行われている。
補外に関しては、情報は情報要求を通じて収集された。要求の範囲は、キャッシュフローの臨界値を超える生命保険及び生損保兼営会社に限定されていた。したがって、会社の財務状況への補外の影響についてEIOPAが入手できる情報は限られているが、ソルベンシーの状況が措置によって著しく影響を受ける会社の代表として考えられている。
DBERに関しては、2018年12月31日現在、1つの保険会社のみがこの措置を使用していた。このため、このセクションの残りの部分では、補外、MA、VA、TRFR、及びTTPについてのみ説明されている。提示された結果は2018年12月31日の基準日に関連している。なお、ERPは、定義により、会社の財務状況に直接的な影響を及ぼさない。
これらの措置を非適用とした場合の影響については、以下の通りとなる。
(1) 技術的準備金
MA、VA及びTRFRを非適用とすると、通常、技術的準備金の計算に使用される関連するリスクフリー・レートが低下し、その結果、殆どのケースで、より高い割引効果によって技術的準備金が増加する。措置の割引効果とは別に、例えば有配当保険の任意給付(将来配当)の金額について、技術的準備金において設定されるいくつかの前提に影響を与えるかもしれない。
TTPは直接、技術的準備金の金額に影響を与える。それを非適用とすると、通常、技術的準備金の金額が増える。
(2) 技術的準備金以外の資産・負債項目
措置の非適用によって技術的準備金が増加する場合、負債におけるこの増加はしばしば正味繰延税金負債の減少を伴う可能性がある。
(3) SCR及びMCR
措置の非適用は、SCRとMCR(Minimum Capital Requirement:最低資本要件)の計算の一部に異なる方向で影響を与える可能性がある。一部は、措置の適用によって全く影響を受けない場合もあるが、他の部分に対しては、資本要件の増加又は減少が起こる。措置を非適用とした後の資本要件の増加は、特に、技術的準備金が資本要件を捕捉することを目的としているリスクの規模の尺度として使用されている場合に起こる。資本要件は、措置の非適用が技術的準備金の将来任意給付の金額を減少させる場合に、技術的準備金の高い損失吸収能力を通じて増加するかもしれない。同様の効果は、繰延税金が措置の非適用で減少する場合に、繰延税金のより高い損失吸収能力を通じて資本要件が増加する場合もある。
通常、措置を非適用とするとSCRとMCRが増加する。
(4) 自己資本
技術的準備金の増加は自己資本の減少につながる。技術的準備金のわずかな相対的増加は、特に生命保険会社において、自己資本の大幅な相対的減少につながる可能性がある。通常の生命保険会社の場合、自己資本と技術的準備金の比率は1/10である。したがって、技術的準備金の1%の増加は、10%の自己資本の減少をもたらす。この比較は、技術的準備金の変化が自己資本の金額に直接影響を与える場合にのみ基づいている。この影響は、繰延税金負債の減少による間接的な影響によって軽減される可能性がある。
したがって、措置の非適用によって引き起こされるSCRとMCRの変化は、資本要件に依存するこれらの自己資本に対する制限があることから、これらの資本要件をカバーする適格自己資本に影響を与える。
通常、措置を非適用とすると、自己資本の金額は減少する。
(5) まとめ
結局、財務状況の様々な項目に対する典型的な影響を要約すると、下記の図表の通りとなる。措置が非適用になった場合に関係する項目が増加(又は減少)する可能性が高い場合、矢印は上(又は下)になる。
MA、VA、TRFR及びTTPの措置がEEA市場全体に与える絶対的な影響については、全ての単体会社及びグループについて、それぞれ以下の図表に示されている。
市場全体(グループ及び単体)において、これらの措置を非適用とすると、技術的準備金の額が2,110億ユーロ増加する。SCRをカバーするための適格自己資本は、1,590億ユーロ減少する。 SCRは840億ユーロ増加する。
前回の報告書と比較して、措置を非適用とすることの影響は増加している。これは主としてVAによるものであり、2018年12月31日のVAは24 bpsであったのに対し、2017年12月31日のVAは4bpsだったことによる。
なお、グループ会社だけで見た場合には、措置を非適用とすると、技術的準備金の額が1,910億ユーロ増加する。SCRをカバーするための適格自己資本は、1,350億ユーロ減少する。SCRは840億ユーロ増加する。
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