2019年11月13日

米国の保険監督構造 -州による監督と連邦保険局(FIO)-

松岡 博司

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2―― FIOの活動状況  -2019年提出年次報告書から-


本項では、FIOがこの程提出した年次報告書から抜粋する形で、FIOの活動状況を確認する。

1|FIOの職責に関する記述
国内の保険に関する主要な問題および国際的な保険会社の健全性に関する政策問題について、財務長官に助言し、金融安定監督評議会の非投票メンバーとしてFIO ディレクターが出席することに加え、FIO は、以下のような権限を有すると記述している。 
  • 保険業界や米国の金融システム全体のシステミックリスクに寄与する可能性のある保険会社の規制問題やギャップ特定など、保険業界のあらゆる側面を監視する。
  • 伝統的に十分なサービスを受けてこなかった地域社会、消費者、マイノリティ、低・中所得者が、健康保険を除くすべての保険に関して、手頃な価格の保険商品にアクセスできる程度を監視する。
  • 連邦準備制度理事会(FRB)が監督すべきノンバンク金融会社として、保険会社(当該保険会社の関連会社を含む)を規制対象企業として指定することをFRBに勧告する。
  • テロリスク保険プログラム(TRIP)の管理において財務長官を支援する。
  • IAISにおいて米国を代表すること、保険・再保険の健全性措置に関する
    協定の交渉において財務長官を支援することを含め、国際的な保険の健全性規制等に関する連邦政府の取り組みを調整し、政策を策定する。
  • 米国内の重要な保険問題と国際的に重要な健全性規制問題について、州当局と協議する。

2|FIOの具体的な活動状況
当年時報告書対象期間内におけるFIOの活動として、各種の活動が挙げられている。いくつか特徴的なものを挙げると、以下の通り。
  • 財務省が公表したレポート「A Financial System That Creates Economic Opportunities:Nonbank Financials,Fintech,and Innovation(経済的機会を生み出す金融システム:ノンバンク金融機関、フィンテック、およびイノベーション)」策定に貢献した。この報告書では、ノンバンク金融機関(保険を含む)の状況を改善し、金融テクノロジーを取り入れ、イノベーションを促進するための規制環境の改善が特定された。また報告書はFIOに対し、インシュアテックに関して、州の保険監督機関、NAIC、他の連邦政府機関と緊密に協力することを求めた。
  • 連邦緊急事態管理庁(FEMA)が再保険プログラムを拡大して、5億ドルの洪水リスクを移転した動きを支援した。
  •  財務省が大手保険会社と行った、サイバーセキュリティに関する机上演習に関与した。また財務省とNAICの合同サイバーセキュリティ演習にも参加した。
  • 米英金融規制対話に参加し、英国の欧州連合からの脱退に関連する問題等、保険規制問題について議論した。
  • EU-米国保険プロジェクトを通じた協力の一環としてルクセンブルクで公開イベントを開催した。
  • ​​​​​​​財務省とFRBが発表したIAISの運営に関する共同報告書(透明性レポート)の作成に関与した。これは、2018年5月に署名された「経済成長、規制緩和及び消費者保護法」が、財務長官及びFRB議長に、世界的な保険規制または監督フォーラムに関する取組みについての年次報告書を議会に提出するよう指示したこと、およびIAISの会合における透明性を高めるための努力について議会に報告することを求めたことに対応したものである。同法はさらに、保険資本に関する最終的な国際基準の採択を支持または同意する前に、財務長官、FRB議長およびFIOディレクターは、そのような基準が消費者および米国市場に及ぼす影響に関する調査を完了し、議会に報告書を提出しなければならないと定めている。
  • ​​​​​​​財務省と通商代表部(USTR)による「保険及び再保険に関する健全性措置に関する米国と英国の二国間協定(米英カバードアグリーメント)」の成立に貢献した。
  • 財務省とUSTRによる「保険及び再保険に関連する健全性措置に関する米国と欧州連合間の協定(米・EUカバードアグリーメント)」締結に向けた第二回合同委員会を開催した。
  • IAISの米国メンバーであるFIO 、NAIC、FRBの関係を「チームUSA」として良好に保つため、継続的なコミットメントを確保する一環として、財務省において「チームUSA」によるIAISに関するステークホルダー・セッションを開催した。
  • またFIOは、米国の利害関係者が「チームUSA」のすべてと定期的に会合し、協働する機会を確保した。
  • 米印金融規制対話に参加し、FIOとインド保険監督庁(IRDAI)は覚書に署名した。
  • ​​​​​​​連邦政府機関間の介護保険タスクフォース(LTCI)に参加した。
  • ​​​​​​​様々な問題(例えば、インシュアテック)について、ステークホルダーと定期的に対話した。
  • ​​​​​​​ IAIS等において、健全性に関する国際保険措置について米国を代表するという法定の役割を果たした。IAIS年次総会において、FIOはIAISの執行委員会の常任リーダーシップを承認された。またIAISにおける国際基準の開発に積極的に関与し、様々な問題についてのワーキンググループやタスクフォースで指導的役割を果たした。
  • ​​​​​​​経済協力開発機構(OECD)の保険・民間年金委員会(IPPC)にも持続的に関与した。

さいごに

さいごに

以上、見てきたように、米国では州による保険監督を中心としつつ、EUの台頭等でおろそかにできなくなった国際基準の策定等では連邦として参画をせざるを得ない状況の中で、州と連邦の切っても切れない関係が構築されつつあるように見られる。

この動きが今後どのような展開を見せるかに注目していきたい。
 
【参考】
米国の連邦と州の関係をわが国の国と地域の関係として考え、州では体制面で無理があると考える向きもあるかも知れない。しかしながら、米国の州はまさに連邦の構成員として、1つ1つが巨大で、中には国家に相当するような規模を持つものもある(表2参照)。

たとえばカリフォルニア州のGDPは英国を上回っており、テキサス州のGDPはカナダを上回り、ニューヨーク州のGDP はロシア、韓国を上回っている。
 

さいごに

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松岡 博司

研究・専門分野

(2019年11月13日「保険・年金フォーカス」)

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