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- 中国REIT 市場の現状と見通しー2019年は公募REIT元年になるかー
2019年11月08日
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世界の不動産投資信託(REIT)市場の資産規模をみると、米国は約9,071億ドル(約98兆円)、日本は1,340億ドル(約15兆円)、その他市場の合計で約4,701億ドル(約51兆円)という状況にあるが、最近注目されているのは、約12兆元(約188兆円)とも言われる潜在的な市場規模を有する中国REIT市場である。特に、新たな法制度を整備し、現在の私募ベースではなく、公募によるREITを創設しようという動きは特筆に値するもので、2019年は「中国公募REIT元年」となる可能性が高まっている。本稿では、このような中国のREIT市場の現状及び公募REIT創設の動きについて報告する。
1―中国REITの特徴
1|「類REIT」の現状と標準REIT商品との比較
REITとはReal Estate Investment Trustの略語であり、中国では「房地产投资信托基金(不動産投資信託基金)」と訳されている。しかし、不動産に係る信託制度や導管体に対する税制優遇などにおいて、米豪日各国のような国際投資家の投資基準を満たしたREIT(中国では「標準REIT」と呼ばれている。)は未だ整備されていない。現在の中国REITとは、「証券法」、「証券投資基金法」等によって中国証券監督管理委員会(証監会)の「証券会社及び基金管理会社子会社資産証券化業務管理規定」(以下「管理規定」)等、基金業協会及び上海・深圳証券取引所の資産証券化業務に関する一連のガイドラインに基づく不動産関連資産を対象とした私募ベースの証券化金融商品であり、総じて「類REIT」と呼ばれている。
「類REIT」は、「REITに類似する」を意味し、「標準REIT」に要求される基準を満たしているわけではなく、募集の仕方や流動性、商品属性など、いくつかの点で異なる。現在、中国の類REIT商品の約96.2%は私募商品で公募商品が少ないため、個人投資家の参入は難しい。現時点における類REIT商品の大きな特徴は、投資期間が短期に固定されていること及び販売時に分配率が確定されているものが多い点である。
REITとはReal Estate Investment Trustの略語であり、中国では「房地产投资信托基金(不動産投資信託基金)」と訳されている。しかし、不動産に係る信託制度や導管体に対する税制優遇などにおいて、米豪日各国のような国際投資家の投資基準を満たしたREIT(中国では「標準REIT」と呼ばれている。)は未だ整備されていない。現在の中国REITとは、「証券法」、「証券投資基金法」等によって中国証券監督管理委員会(証監会)の「証券会社及び基金管理会社子会社資産証券化業務管理規定」(以下「管理規定」)等、基金業協会及び上海・深圳証券取引所の資産証券化業務に関する一連のガイドラインに基づく不動産関連資産を対象とした私募ベースの証券化金融商品であり、総じて「類REIT」と呼ばれている。
「類REIT」は、「REITに類似する」を意味し、「標準REIT」に要求される基準を満たしているわけではなく、募集の仕方や流動性、商品属性など、いくつかの点で異なる。現在、中国の類REIT商品の約96.2%は私募商品で公募商品が少ないため、個人投資家の参入は難しい。現時点における類REIT商品の大きな特徴は、投資期間が短期に固定されていること及び販売時に分配率が確定されているものが多い点である。
3|税制の課題
中国の類REITにはSPVに対する税制優遇がないため、「企業所得税」として25%の税率が課せられる。オリジネーターが不動産開発企業の場合、税率30~60%の土地増値税も払う必要がある。
中国の類REITにはSPVに対する税制優遇がないため、「企業所得税」として25%の税率が課せられる。オリジネーターが不動産開発企業の場合、税率30~60%の土地増値税も払う必要がある。
2―中国REIT市場の動向
1│市場規模
中国初の類REIT商品「中信啓航」が2014年4月に発行されて以来2018年12月までに中国の類REIT商品の銘柄数は合計44件となり、発行済み総額は915.31億元(約1.4兆円)に達している。2019年上半期では計5銘柄、発行額は106.54億元(約1,600億円)の類REIT商品が発行され、前年同期比で発行額は8.93%増加した。
2│セクター別の動向
中国REITのサブセクターは、安定的な賃料収入が得られるショッピングセンター(27%)と小売(18%)による商業セクターが占める割合が45%と大きく、オフィス(26%)、賃貸住宅(11%)、ホテル(10%)、物流センター(4%)、書店(2%)、コミュニティビジネス(2%)などが続く。
3│確定分配率の動向
2014年中国初の類REIT商品「中信啓航」の発行時の確定分配率は7.0%であったが、2015年に中国人民銀行が預金準備率を引き下げるなどの金融緩和政策をとったため、類REIT商品の確定分配率は3.8%まで低下した。しかし、2017年以降は一時的例外を除き、6%を超える水準を維持している。
中国初の類REIT商品「中信啓航」が2014年4月に発行されて以来2018年12月までに中国の類REIT商品の銘柄数は合計44件となり、発行済み総額は915.31億元(約1.4兆円)に達している。2019年上半期では計5銘柄、発行額は106.54億元(約1,600億円)の類REIT商品が発行され、前年同期比で発行額は8.93%増加した。
2│セクター別の動向
中国REITのサブセクターは、安定的な賃料収入が得られるショッピングセンター(27%)と小売(18%)による商業セクターが占める割合が45%と大きく、オフィス(26%)、賃貸住宅(11%)、ホテル(10%)、物流センター(4%)、書店(2%)、コミュニティビジネス(2%)などが続く。
3│確定分配率の動向
2014年中国初の類REIT商品「中信啓航」の発行時の確定分配率は7.0%であったが、2015年に中国人民銀行が預金準備率を引き下げるなどの金融緩和政策をとったため、類REIT商品の確定分配率は3.8%まで低下した。しかし、2017年以降は一時的例外を除き、6%を超える水準を維持している。
3―中国REIT市場の今後の見通し
1|不動産市場の現状と課題
近年の経済成長に伴い、中国の不動産投資は大きく拡大しているが、住宅セクターへの投資が顕著で、一極化が進んでいる。中国の不動産販売価格は変動があるものの、住宅を含めて全体として上昇基調が続く。
2|REIT導入の経緯
中国では住宅及び商業不動産開発の不均衡を是正するとともに、健全な住宅投資を促す市場形成のために、REITに対する制度整備が必要ではないかという指摘や議論が10年以上前から続いてきた。2005年に商業部は「全国商業地産運行報告」で、「REIT融資を開放する」という方向性を提示し、2008年、中国国務院が不動産市場の発展を促進するため、「不動産信託投資基金を試験的に展開する」を提出し、中国でREITを導入する方針を明確化した経緯がある。こうして、2014年に中国では初の類REIT商品が発行された。しかし、現存の類REIT商品は私募ベースであるため、不動産市場への影響はかなり限定的と言える。
一方、投機需要を背景にした住宅の供給過剰を防ぐため、2015年12月から「不動産在庫の解消」が中国の重要なマクロ経済政策方針の1つとなっている。不動産価格の高騰に対し、2016年の中国中央経済工作会議では、「家は住むものであり、投機するものでない」という方針が掲げられた。透明性及び流動性のある公募REITの導入を通じた不動産市場整備は、中国の不動産市場に新たな投資機会を創出し、不動産ストックの再生・利活用、資産保有リスクの軽減及び市場機能を通じた需給の適正化などにつながるものと期待されている。
3|公募による標準REIT導入の動きと期待
中国における公募REITの導入に必要とされる制度設計については、民間による検討が先行している。近年、中央政府の不動産市場改革に関する議論の加速を受け、公募REITの「解禁」に対する期待が高まっている。2017年6月、北京大学光華学院REITs研究チームは、「中国公募REITs発展白書」を発表し、市場分析の結果、税制が中国公募REIT発展を抑制しているとの指摘を行った。
2018年から始まった米中貿易摩擦の激化を背景に、株価が大幅に変動し経済・金融市場の不安が増大した。こうした状況下、不動産市場における公募REITの導入は中国経済の「スタビライザー」としての役割も注目されている。
中国の公募REITが解禁されれば、初の商品は北京市の一部機能の移転先である河北省雄安新区の公共賃貸住宅セクターで発行される見込みである。「千年の大計、国家の大事」とされ、大量の人口流入が予想される雄安新区において、公共賃貸住宅の公募REITの導入が成功すれば、他の地域でも同様の事業が展開される可能性がある。
以上のように、公募REIT商品の発行に向けて、政府部門及び民間機関は共に前向きに取り組んでいる。中国のREIT市場は、まだ制度整備や税制緩和などの課題があるが、公募REIT商品が登場する日はそう遠くはないだろう。
* 不動産取得税にあたる。株式の譲渡に関る土地使用権・不動産の譲渡等は免税。
近年の経済成長に伴い、中国の不動産投資は大きく拡大しているが、住宅セクターへの投資が顕著で、一極化が進んでいる。中国の不動産販売価格は変動があるものの、住宅を含めて全体として上昇基調が続く。
2|REIT導入の経緯
中国では住宅及び商業不動産開発の不均衡を是正するとともに、健全な住宅投資を促す市場形成のために、REITに対する制度整備が必要ではないかという指摘や議論が10年以上前から続いてきた。2005年に商業部は「全国商業地産運行報告」で、「REIT融資を開放する」という方向性を提示し、2008年、中国国務院が不動産市場の発展を促進するため、「不動産信託投資基金を試験的に展開する」を提出し、中国でREITを導入する方針を明確化した経緯がある。こうして、2014年に中国では初の類REIT商品が発行された。しかし、現存の類REIT商品は私募ベースであるため、不動産市場への影響はかなり限定的と言える。
一方、投機需要を背景にした住宅の供給過剰を防ぐため、2015年12月から「不動産在庫の解消」が中国の重要なマクロ経済政策方針の1つとなっている。不動産価格の高騰に対し、2016年の中国中央経済工作会議では、「家は住むものであり、投機するものでない」という方針が掲げられた。透明性及び流動性のある公募REITの導入を通じた不動産市場整備は、中国の不動産市場に新たな投資機会を創出し、不動産ストックの再生・利活用、資産保有リスクの軽減及び市場機能を通じた需給の適正化などにつながるものと期待されている。
3|公募による標準REIT導入の動きと期待
中国における公募REITの導入に必要とされる制度設計については、民間による検討が先行している。近年、中央政府の不動産市場改革に関する議論の加速を受け、公募REITの「解禁」に対する期待が高まっている。2017年6月、北京大学光華学院REITs研究チームは、「中国公募REITs発展白書」を発表し、市場分析の結果、税制が中国公募REIT発展を抑制しているとの指摘を行った。
2018年から始まった米中貿易摩擦の激化を背景に、株価が大幅に変動し経済・金融市場の不安が増大した。こうした状況下、不動産市場における公募REITの導入は中国経済の「スタビライザー」としての役割も注目されている。
中国の公募REITが解禁されれば、初の商品は北京市の一部機能の移転先である河北省雄安新区の公共賃貸住宅セクターで発行される見込みである。「千年の大計、国家の大事」とされ、大量の人口流入が予想される雄安新区において、公共賃貸住宅の公募REITの導入が成功すれば、他の地域でも同様の事業が展開される可能性がある。
以上のように、公募REIT商品の発行に向けて、政府部門及び民間機関は共に前向きに取り組んでいる。中国のREIT市場は、まだ制度整備や税制緩和などの課題があるが、公募REIT商品が登場する日はそう遠くはないだろう。
* 不動産取得税にあたる。株式の譲渡に関る土地使用権・不動産の譲渡等は免税。
(2019年11月08日「基礎研マンスリー」)
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経歴
- 【職歴】
2018年 早稲田大学 アジア太平洋研究科 博士(学術)
2018年 ニッセイ基礎研究所 入社
【資格】
環境プランナー、国際環境リーダー
【加入団体等】
日本NPO学会、Nonprofit Management & Leadership(米)
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