コラム
2019年06月07日

消えた「爆買い」~中国、背景にある体験型消費への変化~

社会研究部 研究員   胡 笳

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数年前まで「爆買い」が日本中で話題となったが、最近は電気炊飯器や温水洗浄便座を大量購入する中国観光客の姿をあまり見かけなくなった。その代わりに、浅草寺や京都の街に着物姿で写真撮影を楽しみ、人気アニメや漫画に登場する街や場所を訪れ、日本文化を重視する観光客が増え、体験型旅行が主流となりつつある1
中国観光客による日本滞在中の費目別支出~増加する「コト消費」
その背景には、所得の安定と共に、中国国内で生じている、商品を所有する「モノ消費」から、サービスの購入を通じた体験型の「コト消費」へのシフトがある。

例えば、日本の銭湯が進化してきたように、中国の銭湯も時代が進むにつれて変わってきた。中国には温泉と一体化し、広い湯船やサウナはもちろん、飲食コーナー、シアタールーム、ゲームセンターを完備し、プールやアトラクションが充実した総合入浴施設が増えている。

中国商業部2の報告によると、2012年から2015年までに中国の総合入浴施設数と利用者数が共に増え、一人あたりの消費額は年平均1.2%と着実に増加している3。2億人以上のユーザーを持つライフスタイルサービスMEITUAN(美団)の統計データによると、中国全土の入浴施設のうち、延床面積が5,000㎡以上の大規模総合入浴施設は約10%を占め、消費者の半数以上が20代から30代の若年層である。彼らが最も重視する要素は「価格」よりも十分に楽しめるアメニティとしての「施設環境」である4。中国の銭湯は年齢を問わず楽しめる場所となり、従来の身体をきれいにすること以外に、友人・家族と交流し、新鮮なアメニティを体験することが利用の目的となっている。

このような中国の人々の「コト消費」、体験型消費への変化は、実は日本の観光市場に強い影響を与え、地方創生事業などにおける地域おこしのきっかけになっていると考える。しかし、急激な変化は、一部報道されたように、一般住宅地での無許可撮影や江ノ電「鎌倉高校前」駅で踏切の写真を撮る際の地元住民生活への妨害など、新しいトラブルも引き起こしている。

こうしたトラブルを回避するため、中国駐日本国大使館は、毎年訪日観光客が激増する連休前に「訪日注意事項」を提示し、そこには日本の法律を遵守することや、立ち入り禁止や撮影禁止場所の確認などが挙げられている5。中国駐日本国大使館は公式SNSアカウントも使い、注意事項が多くの中国観光客に広まるように努力している。他方で、誰でも簡単に動画をアップロードできる時代であるため、観光客による不適切な行為が投稿されると批判や抗議が殺到し、その結果、中国観光客のマナーが向上しつつあるとの報道もある。最近では2019年5月25日に、一般財団法人「奈良の鹿愛護会」が公式ツイッターで「子鹿には絶対に触らないで!」と呼びかけたことが中国でも話題になり、中国最大のSNSであるWeibo(微博)のネットユーザーから「マナーと子鹿を守ろう」などの声が寄せられている。

訪日外国人旅行消費額の約4割を占める中国人観光客6は、日中関係の改善を背景に、今後、「モノ消費」から「コト消費」、体験型消費への更なるシフトを通じて、豊かな自然や文化資源を持つ日本の地方における観光ビジネスチャンスを広げ、地方創生に大きく貢献するだろう。
 
1 国土交通省観光庁「訪日外国人消費動向調査」より。http://www.mlit.go.jp/kankocho/siryou/toukei/syouhityousa.html
2 日本の経済産業省にあたる役所である。
3 中国商業部「中国沐浴行業発展報告」 より。http://fms.mofcom.gov.cn/article/lingzxz/fazhengzhinan/
ただし、2012年から中国で推進された「反腐敗運動」により、公費による高額消費が縮小し、総合入浴施設における一人あたりの消費額は2011年と比べ大幅に減少したことに要注意。
4 美団点評(2019)「2019美団点評洗浴行業報告」
5 中国駐日本国大使館のHPを参照。http://jp.chineseembassy.org/chn/lsfws/lstx/t1656739.htm
6 国土交通省観光庁(2019)「訪日外国人消費動向調査」http://www.mlit.go.jp/common/001285986.pdf
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社会研究部   研究員

胡 笳 (こ か)

研究・専門分野
環境政策、NPO、住宅政策、地域活性化

(2019年06月07日「研究員の眼」)

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