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- 積み立て方式は世代格差の解消につながるのか
とはいえ、負担と受益の世代間格差を解消する切り札として2004年の制度改正以降、財政検証の度に聞かれたのが年金財政を賦課方式から積立方式に転換すべきという主張であり、現在でも、メディアや政界の一部などには根強い関心があるようだ。そこで以下では世代間の負担と受益に関する簡単な数値例を使って、その主張が妥当かどうか考えてみよう。
いま20年を1期間とし、1期間ごとに公的年金の加入者(現役)世代が受給者世代に移り、さらに1期間経過すると受給者世代が死亡するモデルを考える。また、各世代の人口は等しく、物価も一定とする。ここで受給者への年金支給額を年150万円、1人あたりの支給総額を3,000万円(=150万円×20年)とすると、賦課方式の財政なら現役世代も1年に150万円、合計3,000万円の保険料を支払う(以下図表のケース(1))。一方、積立方式の場合には積み立てた保険料に運用収益が加わる。もしも運用収益を含め積立金が20年間で1.5倍になる(20年の利率(収益率)が50%)とすると、保険料は年100万円、計2,000万円に減り(以下図表のケース(2))、少子化があっても増減しない。これが積立方式への移行が主張される大きな理由であった。
ところが移行時の負担を考慮すると状況は変わる。現在の受給者(第1世代)には年金のための積立金が全くない。そのため後世代は自らのための年金積立金に加えて第1世代の給付(1人あたり3,000万円)を負担する(二重の負担)。もしも全額3,000万円を現在の現役世代(第2世代)が払うと負担は合計5,000万円になる。第3世代以降は積立金2,000万円だけを負担して年金を受け取るため、第2世代以降に新たな世代間格差が生じる(以下図表のケース(3))。
第1世代への年金給付の負担を第2世代以降の各世代が公平に分担するには、期間永久の国債3,000万円を発行し、その利払いだけを各世代が負担すればよい。利率は20年で50%なので利息は1,500万円(=3,000万円×50%)である。第2世代以降の各世代は現役時代に1,000万円を積み立てて、50%の運用収益との合計1,500万円(=1,000万円×(1+50%))を20年後に国債の利払いに充てることになる(以下図表のケース(4))1。すなわち、第2世代以降の全世代は現役時代に自らの年金原資の2,000万円と国債利払いのための1,000万円、計3,000万円を負担する。これは賦課方式(ケース(1))の際の負担に等しい。
1 第2世代以降の全世代が1,000万円ずつ支払った場合、割引率を50%としたその現在価値の合計は3,000万円(国債元本)に等しい。
とはいえ、積立方式の方が負担が軽いとは言い切れない。第1に1割の人口減少が続くと、国債利払いのための負担は1世代ごとに1.11倍になり続ける(第3世代が1,234万円、第4世代は1,371万円)。これに対し、賦課方式の保険料は一定(3,333万円)である。第2に人口が減少すると経済成長が鈍化し、資産の運用利回りが低下する可能性がある。このように、賦課方式から積立方式への転換だけでは世代間格差の解消は難しい上、人口減少の影響を逃れるとも言えない。積立方式化の主張に以前ほどの勢いがなくなってきた理由の一つであろう2。
2 マクロ経済からみると、積立方式への移行によって国全体の貯蓄が増加しうる。ただ、現在の日本経済が貯蓄超過状態にあるとすれば成長を促進する効果は望みにくいだろう。
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(2019年11月06日「ニッセイ年金ストラテジー」)
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