2019年10月25日

今年はインフルエンザの流行が早い可能性

保険研究部 主任研究員・ヘルスケアリサーチセンター兼任 村松 容子

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1――地域によっては、例年より流行が早い可能性

季節性インフルエンザの流行開始は、指定された全国約5,000か所の医療機関から週ごとに報告される患者数(以下、「定点あたり報告数」とする。)が平均1.0を超える時を目安としている。例年、11月後半頃から流行が開始するのに対し、今シーズンは、9月の半ばに2週連続で1.0(全国平均)を超えた1(図表1)。ラグビーのワールドカップで、インフルエンザ流行中だった南半球から日本を訪れる人が増加したこともあり、2か月ほど早い全国的な流行が懸念されたが、現在(10/14~10/20)は0.72と、3週連続で1.0を切り、少し落ち着いている。それでも昨年の同時期は0.19だったので、今年はこの時期からかなり多い。

都道府県別にみると、沖縄県で8月頃から患者が増え続け、9月半ばにピークを迎えたのをはじめとして、宮崎県で9/2の週、熊本県を除くその他の九州地方と石川県で9/9の週、東京都で9/16の週に、それぞれ定点あたり報告数が1.0を超えた。現在(10/14~10/20)は、その多くの都道府県でおさまりつつあるが、新たに北海道、岩手県、新潟県等で1.0を超えた。

学級閉鎖も10/14~10/20の1週間で81施設(昨年の同時期20施設)、9月からの累計で675施設(昨年の同時期108施設)と報告されている。
図表1 インフルエンザ定点あたり患者数(全国)
 
1 9/9~9/15に全国で1.17、9/16~9/22に1.16だった。
 

2――ウイルスの種類と抗原性の変化

2――ウイルスの種類と抗原性の変化

厚生労働省によると、この5週間(第38~42週)のウイルス検出状況は、AH1pdm09が90%と多く、AH3亜型とB型がそれぞれ5%だった。
 
人がかかる季節性インフルエンザには、ウイルスに存在するたんぱく質の種類によって、A~C型の3種類の型に分けられている2。A型ウイルスとB型ウイルスは、感染が伝播し流行を引き起こすが、C型ウイルスは、ある程度の年齢になれば誰もが免疫をもっていると言われており、症状も軽くて済むため、気づかないことが多いと言われている。

A型、B型いずれのウイルスにも、2種類の抗原性糖たんぱく質(HAとNA3)がある。A型は、それぞれの糖たんぱく質がさらに複数種類(HAが16種類、NAが9種類)に分かれているため、その組み合わせによって最大144種類存在することになる。現在、人に流行しているのはH1N1亜型およびH3N2亜型で、それぞれスペインインフルエンザ(1918~19)、香港インフルエンザ(1968~69)の流行の際に現れたインフルエンザ・ウイルスが少しずつ姿を変えたものだ。

さらにA型は数年から数十年単位で、突然別の亜型に取って代わることがある。これがいわゆる「新型インフルエンザ」と呼ばれるものだ。
 
2 牛がかかるインフルエンザにD型ウイルスがあるが、厚生労働省検疫所(FORTH)によると、人に感染し病気を引き起こすことは知られていないとのことだ(https://www.forth.go.jp/moreinfo/topics/2018/01171258.html)。
3 ヘマグルチニン(HA)とノイラミニダーゼ(NA)。
 

3――ワクチンの供給量は2016年以降もっとも多い

3――ワクチンの供給量は2016年以降もっとも多い

インフルエンザ・ウイルスは変化しやすく、毎年抗原性を細かく変えるので、以前の免疫が今後も役立つとは限らない。また、通常ワクチンの効果は5か月程度しか持続しないため、毎年予防接種を受けることが推奨されている。

毎シーズン、WHOによるウイルス監視に基づき、南半球と北半球それぞれに予想されるウイルスに対応したワクチン株4の選定が行われる。日本では、WHOによる選定結果と国内での流行状況からワクチンの製造に適した株を決定する。流行するウイルスの予測はほとんど外れないが、選定された株によるワクチン生産効率が悪いことは起き得る5。そのため、厚生労働省では期待される有効性とワクチン供給可能量をふまえて株を選定している。

特にA型はB型と比べて変異をしやすいことから(詳細は後述のとおり)、昨シーズンと比較するとA型が2種類とも変わり、B型は2種類とも同じ株を使用している(図表2)。
図表2 2019/20のワクチン株
ワクチンは複数の製薬会社で製造しているが、いずれもワクチン株の種類や含有量は同じであり、効用の差はほぼないとされている6

今シーズンのワクチン製造予定量は、およそ2,933万本を見込んでおり、2016年以降でもっとも多い(図表3)。昨年、一昨年とワクチン不足が話題となったが、今シーズンについて厚生労働省は「適切に使用すれば、不足は生じない」との見通しを示し、13歳以上については医師が特に必要と認める場合を除いて1回接種にすることや、必要量に見合う量のワクチンを購入するよう医療機関等に通知をしている。
図表3 インフルエンザワクチンの供給量
インフルエンザの予防接種は、感染を防げるわけではないが、発症と、発症しても重症化を抑制する効果があるとされている。特に重症化抑制の効果が高い。相対的に子どもはうつりやすく、高齢者は重症化しやすいため、ワクチン接種が推奨されている。それ以外の人にとっても、感染を広げない効果が期待できる。適切にワクチン接種が進むことを期待したい。
 
4 株とは、検体から分離したウイルスを人工的に培養したものをいう。
5 2017年シーズンに予定していた株の生産効率が低かったことから、それとは異なる株でワクチンを製造しなおしたという経緯があった。また、製造工程で抗原変異がおきることもある。
6 添加物はそれぞれの会社で異なる可能性があるため、副反応には違いが出ることがある。
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保険研究部   主任研究員・ヘルスケアリサーチセンター兼任

村松 容子 (むらまつ ようこ)

研究・専門分野
健康・医療、生保市場調査

経歴
  • 【職歴】
     2003年 ニッセイ基礎研究所入社

(2019年10月25日「基礎研レター」)

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