2019年10月25日

低金利が住宅市場の追い風に-住宅ローン金利の低下が住宅需要を押上げ。ただし、住宅供給制約が回復の重石に

経済研究部 主任研究員 窪谷 浩

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(住宅取得能力):住宅ローン金利低下が追い風
中古住宅を取得する際の住宅ローン返済額と所得を比べた住宅取得能力指数は、19年8月が160.4と、所得水準が住宅ローン返済額を6割程度上回っているほか、18年6月の137.9からは大幅な改善がみられる(図表11)。
(図表11)住宅取得能力指数 この間の住宅価格と住宅ローン金利の推移をみると、住宅価格の上昇基調が持続している一方、住宅ローン金利には昨年末以降に大幅な低下がみられる。このため、住宅価格は引き続き住宅ローン返済額を増加させているとみられるものの、住宅ローン金利の低下が住宅ローン返済額を減少させることで、住宅取得能力指数を押上げていることが考えられる。

中古住宅価格は需給逼迫を反映して今後も上昇基調が持続する可能性が高い一方、住宅ローン金利が上昇に転じる場合には、住宅ローン返済額の増加を通じて再び住宅取得能力指数の増加が住宅市場の回復に水を差す可能性があるため、今後の住宅ローン金利の動向が注目される。
 

3.住宅市場見通し

3.住宅市場見通し

(住宅需要):住宅ローン金利の低下を背景に住宅需要は旺盛
連邦住宅抵当公庫(ファニーメイ)が公表している住宅購入センチメント指数は、18年12月の83.5を底に上昇に転じ、19年9月は91.5と11年の統計開始以来最高となった8月(93.8)からは低下したものの、依然として史上最高に近い水準を維持している(図表12)。
(図表12)住宅購入センチメント指数 これを、同指数を構成する6項目の寄与度でみると、12月から9月まで+8.0ポイント上昇したうち、「金利低下」が+5.5ポイント上昇しており、もっとも大きくなっている。このため、住宅ローン金利の低下が19年以降の住宅需要の改善に貢献しているとみられる。また、他の項目では「買い時」が+2.8ポイントと「金利低下」に次いでいるほか、「価格上昇」が▲0.3ポイントとなっていることから、住宅価格の伸びが鈍化していることも購買意欲を高めているとみられる。一方、「失業懸念の後退」は、水準としては6項目のうちで最も高くなっているものの、12月からの寄与度では▲1.7ポイント押下げとなった。これは19年に入って雇用の伸びが鈍化していることが影響している可能性がある。
(住宅供給):建材価格上昇に伴う建設コスト上昇は一服も、労働力不足が住宅供給のネックに
生産者物価のうち、住宅建設で用いられる木材の価格は18年6月が前年同月比+23.4%となるなど、17年以降は概ね2桁の上昇となっていた(図表13)。また、住宅建設の投入価格(財)も18年8月に同+8.8%となるなど、昨年夏場までは建設資材価格の上昇に伴う建設コストの増加が顕著となっていた。

しかしながら、18年夏場以降は建設資材価格の上昇が頭打ちとなり、木材価格は18年10月から、住宅建設の投入価格も19年6月以降はマイナスに転じており、建設資材価格の上昇は一服している。建設業界では、17年から18年にかけて建設資材の価格上昇に伴う建設コストの上昇が住宅供給に影響すると指摘されてきたが、足元で建設資材価格の上昇による住宅供給制約は改善していることが見込まれる。

一方、建設資材価格の上昇と同様に住宅供給への影響が懸念されてきた建設業界での熟練労働力の不足問題は足元でさらに深刻化している。全米住宅建設業協会(NAHB)が19年7月に公表した建設業者対象の労働力不足に関する特別調査では、熟練労働力が不足しているとの回答割合が69%となった(図表14)。これは12年以降で最も高い水準である。

住宅着工件数は、足元で年率130万件弱のペースと、過去のピークであった06年の230万件弱からは4割近い減少となっているが、当時でさえ労働不足の回答割合は4割台前半に過ぎず、住宅着工件数との対比で足元の労働力不足が如何に深刻か分かる。
(図表13)建設関連の生産者物価(前年同月比)/(図表14)住宅着工件数および労働力不足感
(まとめ):住宅市場は目先回復も、住宅供給制約が回復の重石に
これまでみたように、住宅市場は足元で回復の兆しがみられており、GDPにおける住宅投資も19年7-9月期に漸く7期ぶりにプラス成長に転じる可能性が高くなっている。住宅市場の回復には、昨年後半以降に住宅ローン金利が低下していることが大きく影響している。

住宅ローン金利の低下に加え、住宅価格の伸び鈍化、雇用不安の後退、と引き続き住宅需要は堅調が見込まれる一方、住宅在庫の不足が中古住宅を中心に住宅販売回復の重石となっている。また、建設業界における熟練労働力の不足により、住宅供給は制約されているため、住宅在庫水準の大幅な改善は見込み辛い状況となっている。このため、旺盛な住宅需要の改善を背景に住宅市場の回復が見込まれるものの、住宅供給制約は回復の重石となることが見込まれる。
 
 

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経済研究部   主任研究員

窪谷 浩 (くぼたに ひろし)

研究・専門分野
米国経済

経歴
  • 【職歴】
     1991年 日本生命保険相互会社入社
     1999年 NLI International Inc.(米国)
     2004年 ニッセイアセットマネジメント株式会社
     2008年 公益財団法人 国際金融情報センター
     2014年10月より現職

    【加入団体等】
     ・日本証券アナリスト協会 検定会員

(2019年10月25日「Weekly エコノミスト・レター」)

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