2019年10月15日

貸出・マネタリー統計(19年9月)~紙幣発行高の伸びが7年ぶりの低水準に

経済研究部 上席エコノミスト 上野 剛志

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1.貸出動向: 地銀の貸出伸び率が一旦下げ止まり

(貸出残高)
10月10日に発表された貸出・預金動向(速報)によると、9月の銀行貸出(平均残高)の伸び率は前年比2.19%と前月(同2.23%)から若干低下した(図表1)。(小数点第2位まで見た場合)伸び率の低下は2ヵ月連続となる。

業態別では、都銀等の伸び率が前年比2.05%(前月は2.14%)と2ヵ月連続で低下した(図表2)。M&Aに絡む資金需要などから伸び率の水準としては引き続き高めだが、一方で大口M&Aの影響で変動が大きくなっている。都銀等の伸び率の振れが銀行貸出全体に与える影響が近年は強まっている。

一方、地銀(第2地銀を含む)の伸び率は前年比2.31%(前月も2.31%)と前月から横ばいとなった(図表2)。一旦下げ止まった形だが、伸び率は約7年ぶりの低水準圏に留まっている。過熱が問題視されたアパートローンの他、中小企業向けや地公体向け貸出の低迷が、主な担い手となってきた地銀の貸出低迷に繋がっている可能性が高い(図表3)。
(図表1) 銀行貸出残高の増減率/(図表2) 業態別の貸出残高増減率/(図表3)貸出先別貸出金/(図表4)国内銀行の新規貸出平均金利
(貸出金利)
8月の新規貸出平均金利は、短期貸出(一年未満)が0.502%(前月は0.675%)と前月から低下する一方、長期貸出(1年以上)は0.792%(前月は0.768%)と上昇した。振れを均すために3カ月移動平均で見た場合(図表4)、6月以降は長・短期ともにやや持ち直している。

ただし、世界経済の下振れリスクや各国中銀による金融緩和へのシフトによって、国債利回り等の市場金利が低迷を続けているだけに、貸出金利へ波及するかどうかが引き続き注目される。

2.マネタリーベース: 紙幣発行高の伸びが7年ぶりの低水準に

10月2日に発表された9月のマネタリーベースによると、日銀による通貨供給量(日銀当座預金+市中に流通する紙幣・貨幣)を示すマネタリーベースの前年比伸び率は3.0%と、前月(同2.8%)をやや上回った(図表5)。伸び率の上昇は2ヵ月ぶりとなる。内訳の約8割を占める日銀当座預金の伸び率が前年比3.2%と前月(同2.9%)からやや上昇したことが寄与した。

一方、日銀券(紙幣)発行高の伸びは前年比2.4%(前月は同2.7%)と5ヵ月連続で低下した。伸び率の水準は、2012年9月以来7年ぶりの低水準にあたる。タンス預金の増勢一服、キャッシュレス化の進展、経済活動の停滞などの影響が考えられる。
(図表5) マネタリーベース伸び率(平残)/(図表6)マネタリーベース残高と前月比の推移
9月末のマネタリーベース残高は520兆円で前月末比4.4兆円の増加となった。季節性を除外した季節調整済み系列(平残)で見ても前月比1.9兆円増加している(図表6)。長期国債保有残高の増加ペースは前年比22兆円増(めどは80兆円増)と引き続き鈍化し、マネタリーベースの増勢鈍化要因になっているが、ETFの買入れが年6兆円増のペースで続けられていること、短期国債の残高減少が一服していることが下支え要因になっている(図表7)。

ただし、9月末に公表された10月の国債買入れ予定では、(金利の過度の低下を抑制するためとみられる)大幅な国債買入れ減額が示されているだけに、マネタリーベースへの影響が注目される(図表8)。
(図表7)日銀国債保有残高の前年比増減/(図表8)日銀国債月間買入予定額の推移

3.マネーストック: 投資信託の前年割れは解消せず

10月11日に発表された9月のマネーストック統計によると、金融部門から市中に供給された通貨総量の代表的指標であるM2(現金、国内銀行などの預金)平均残高の伸び率は前年比2.41%(前月は2.37%)、M3(M2にゆうちょ銀など全預金取扱金融機関の預貯金を含む)の伸び率は同2.03%(前月は2.00%)とともに2ヵ月連続で上昇した(図表9)。

M3の内訳では、現金通貨(前月2.4%→当月2.2%)の伸び率が低下し、定期預金などの準通貨(前月▲1.9%→当月▲2.0%)もマイナス幅をやや拡大したものの、普通預金等の預金通貨(前月5.5%→当月5.6%)の伸び率が上昇し、CD(譲渡性預金:前月▲3.5%→当月▲3.1%)のマイナス幅が縮小したことで吸収された(図表10)。
(図表9) M2、M3、広義流動性の伸び率/(図表10) 現金・預金の伸び率
(図表11)投資信託・金銭の信託・準通貨の伸び率 なお、広義流動性(M3に投信や外債といったリスク性資産等を加算した概念)の伸び率も前年比1.81%(前月は1.76%)と2ヵ月ぶりに上昇した(図表9)。

内訳では、既述の通り、M3の伸び率がやや上昇したほか、残高が大きい金銭の信託(前月2.1%→当月2.4%)の伸び率が上昇し、広義流動性の伸び率上昇に寄与した(図表11)。

一方で、投資信託(元本ベース・前月▲1.4%→当月▲1.7%)や外債(前月▲1.8%→当月▲2.1%)の伸び率はマイナス幅を拡大している。投資信託のマイナス幅は年初以来縮小傾向にあったが、足元では一服している。
 
 

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経済研究部   上席エコノミスト

上野 剛志 (うえの つよし)

研究・専門分野
金融・為替、日本経済

経歴
  • ・ 1998年 日本生命保険相互会社入社
    ・ 2007年 日本経済研究センター派遣
    ・ 2008年 米シンクタンクThe Conference Board派遣
    ・ 2009年 ニッセイ基礎研究所

    ・ 順天堂大学・国際教養学部非常勤講師を兼務(2015~16年度)

(2019年10月15日「経済・金融フラッシュ」)

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