2019年09月27日

ドイツの生命保険監督を巡る動向(4)-BaFinの2018年Annual Reportより(保険会社の監督及び生命保険会社の状況)-

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6―ソルベンシーIIによるSCR比率等の結果数値の概要

2018年12月18日、EIOPAは、Omnibus II指令でソルベンシーIIに認められた長期保証(LTG)措置及び株式リスクの措置に関する報告書を公表した。

報告書は、保険者がどのように参照された措置を適用しているかを説明している。保険会社のソルベンシー状況に対する措置の効果に加えて、保険契約に基づく受益者の利益の保護、保険商品の利用可能性、保険会社の投資行動及び金融市場の安定性等について取り扱っている。

さらに、この報告書には、個々の措置が異なる市場で使用されている程度に関するデータが含まれている。保険会社がソルベンシー及び財務状況報告書(SFCR)において公表したLTG及び株式リスク措置の適用に関する情報の分析も、報告書の一部を構成している。

これらの具体的な内容については、「EUソルベンシーIIにおけるLTG措置等の適用状況とその影響(1)-EIOPAの2018年報告書の概要報告-」(2019.1.25)、「EUソルベンシーIIにおけるLTG措置等の適用状況とその影響(2)-EIOPAの2018年報告書の概要報告-」(2019.1.30)、「EUソルベンシーIIにおけるLTG措置等の適用状況とその影響(3)-EIOPAの2018年報告書の概要報告-」(2019.2.4)、「EUソルベンシーIIにおけるLTG措置等の適用状況とその影響(4)-EIOPAの2018年報告書の概要報告-」(2019.2.8)及び「EUソルベンシーIIにおけるLTG措置等の適用状況とその影響(5)-EIOPAの2018年報告書の概要報告-」(2019.2.14)、「EUソルベンシーIIにおけるLTG措置等の適用状況とその影響(6)-EIOPAの2018年報告書の概要報告-」(2019.2.19)、「EUソルベンシーIIにおけるLTG措置等の適用状況とその影響(7)-EIOPAの2018年報告書の概要報告-」(2019.2.27)及び「EUソルベンシーIIにおけるLTG措置等の適用状況とその影響(8)-EIOPAの2018年報告書の概要報告-」(2019.3.4)で報告しているので、これらのレポートを参照していただきたい。

以下では、ドイツの生命保険会社の状況を報告する。
1|内部モデル及び各種措置の適用状況
2018年末のソルベンシー資本要件(SCR)を計算する目的で、BaFinの監督下にある84の生命保険会社のうち、73社が標準式を採用し、11社は(部分)内部モデルを使用した。いずれの生命保険会社も会社固有のパラメータを使用しなかった。この数値は2017年末から変わっていない。なお、2016年末のSCR計算においては、84社のうち77社が標準式を使用し、7社が(部分)内部モデルを使用していたので、2017年末に向けては、(部分)内部モデル使用会社が4社増加していた。

84の生命保険会社のうち、44社が保険監督法第82条に従いボラティリティ調整を適用し、かつ保険監督法第352条に基づく技術的準備金の移行措置を適用した。この数値は2017年末の45社に比べて1社減少している。10の生命保険会社は、技術的準備金の移行措置のみを適用し、10社は、唯一の措置としてボラティリティ調整を使用した(2017年末は、それぞれ14社、9社であった)。1つの会社は、保険監督法第351条に従って、リスクフリー金利の移行措置、即ち移行割引曲線を、ボラティリティ調整との組み合わせで適用した。

結果として、55の生命保険会社がボラティリティ調整を適用し、54の生命保険会社が技術的準備金の移行措置を、1つの生命保険会社が移行割引曲線を使用した。
2|SCR比率の状況
全ての生命保険会社は、2018年12月31日現在の適切なSCRカバレッジを報告することができた。保険監督法第45条に基づく中間(四半期)報告の要素が免除されていない会社のSCR比率(セクターのSCRに対するセクターの適格自己資本)は、前年の382.1%に対して448.3%となった。

以下の図表は、期間にわたる中間報告義務の対象となる生命保険会社のSCR比率の進展を示している。
期間にわたる中間報告義務の対象となる生命保険会社のSCR比率の進展
3|SCRの構成
2018年12月31日現在、中間報告の対象となる生命保険会社のSCRは、前年末の317億ユーロに対し、269億ユーロに減少した。総基本SCRで測定したところ、前年に標準式を適用した会社の資本要件の平均73%は、市場リスクに起因していた(分散効果を除く)。さらに、保険引受に関連するSCRの重要な部分は、生命(34%)及び健康(21%)保険の引受けリスクであった。対照的に、カウンターパーティデフォルトリスク(2%)は一般的にそれほど重要ではなかった。総基本SCRを下げる分散化効果がまだ含まれていないため、引用したパーセンテージは100%を上回る。分散効果は30%に達した。

カバーすることが要求されるSCRは、その他の変数を考慮して、総基本SCRに基づいて計算される。これに関連して、技術的準備金(71%)及び繰延税金の損失吸収効果(8%)が減少し、オペレーショナル・リスク(3%)はわずかに増加した。

4|自己資本の構成
中間報告の対象となる生命保険会社のSCR適格自己資本は、2018年12月31日現在で1,205億ユーロに達した。前年末において、自己資本の98%が基本自己資本により計上され、補助自己資金によるものは2%だった。適格自己資本の96%は、最も高いクラスの自己資本(Tier 1)に帰属し、残りの大部分は2番目に高いクラス(Tier 2)に帰属していた。平均して、調整準備金は業界の自己資本の66%を占め、剰余金は27%を占めた。報告日のその他の注目すべき要素は、発行プレミアム(4%)及び劣後債務(3%)を含む株式資本だった。

5|改善措置
移行措置を適用し、その措置なしではSCRを十分にカバーできない会社は、保険監督法第353条(2)に従って改善計画を提出しなければならない。計画では、十分な自己資本を生み出し、リスクプロファイルを減らすために計画された措置の段階的な導入を説明しなければならず、遅くとも2031年12月31日の移行期間の終了時までに、移行措置を用いることなくソルベンシー資本要件の遵守が保証されるように、会社は十分な自己資本を生成するか、リスクプロファイルを削減するために計画された措置の段階的な導入を設定する必要がある。

報告日において、26の生命保険会社が、移行措置なしでは適切なSCRのカバレッジを保証することができなかったため、改善計画を提出する必要があった。BaFinは、SCRが遅くとも移行期間の終了後に、長期的に遵守されることを確実にするために、これらの会社に密接に関与している。関連する会社は、移行措置を適用しないで適切なSCRカバレッジが回復したとしても、年次進捗報告書における措置の進展段階についてコメントする必要がある。

なお、2017年末においては、該当会社数は27社であったので、2018年末の該当会社数は1社減少している。
 

7―保険会社の投資の状況

7―保険会社の投資の状況

損害保険会社や再保険会社を含むドイツの保険会社全体の投資を巡る状況については、以下の通りとなっている。

1|概要
(1)前年との比較
2018年12月31日現在、BaFinの監督下でドイツの元受保険会社が管理する投資総額の帳簿価額は1兆5,560億ユーロ(前年:1兆5,170億ユーロ)で、前年比2.5%(+390億ユーロ)増加した。保険種類毎の内訳では、損害保険会社(+ 5.9%)及び健康保険会社(+ 3.6%)が大きく増加したのに対して、葬儀費用基金のみが、前年と比較して投資が減少した。

(2)優先エリア
過去数年と同様に、投資は引き続き確定利付証券及び約束手形ローンに重点を置いている。固定金利投資には小さな変化があった。例えば、当年の直接上場債券のシェアは7.3%増加して2,880億ユーロとなったが、信用機関への投資のシェアは前年比で減少した。

投資ファンドを通じて保険会社が保有する間接投資は、2018年に平均を上回る成長(+ 3.0%)を記録し、前年と同様に、全ての主要保険会社の総投資額の3分の1以上を占める5,580億ユーロとなった。過去数年と同様、投資ファンドを介して取得した資産の殆どは上場証券で構成されている。不動産への総直接投資は、前年比2.2%増加して360億ユーロとなった。
2|利回り追求
持続的な低金利環境を考慮すると、資産の新規投資及び再投資は、保険監督の特に興味深い関心の対象である。これにより、リスクに対応した反応を推定することができ、投資動向の進展が明らかになる。

BaFinは、保険会社の18回の現地調査において、新規投資と再投資を調査した。これらの会社は、投資ポートフォリオの平均12%を占める新規投資を行った。会社の殆どがファンドのポートフォリオに追加され、社債と国債が優勢になった。さらに、検査対象の各会社は、小規模会社向けのプライベートエクイティやプライベートデットなど、特定のオールタナティブタイプの投資に関する独自の専門知識の進展を試みていた。一方、インフラ投資は、投資会社のごく一部に過ぎないが、大会社にとっては特に魅力的なものだった。

高利回りの投資は全体のわずかな割合しか占めておらず、BaFinは、ほんの数社でリスクのある投資の増加を観察した。

定義(2017年 Annual Reportより)
利回り追求
保険会社の利回りの追求を調査するBaFinの目的は、会社がこの目的のためによりリスクの高い投資戦略を採用しているかどうかを調べることである。これは特に低金利時に想定される。追加の利回りを生み出す利点は、債務者の信用力の低下、新しい投資商品の経験不足、流動性の低下、満期の長期化などにより、より頻繁な債務不履行を含む投資リスクにつながる。監督上の観点から、会社がリスクの増大を適切に管理できないことが判明した場合、利回り追求は問題となる。

3|保険セクターにおける持続可能な投資活動
(1)概要
保険商品の提供者として、保険会社は、洪水、暴風雨、熱波といった自然災害のような気候変動の直接的な影響による即時かつ絶えず増大する影響を受けている。しかし、気候変動の問題は、投資の観点からも保険会社にとってより重要になりつつある。元受保険会社は、結局のところ、ドイツ最大の機関投資家である。

2018年5月の欧州委員会の立法案は、保険会社が投資活動の持続可能性の問題に対処する必要があることを示している。これは、この提案に、現在保険会社に適用されている規定を超える持続可能性に関する規制要件が含まれているためである。

(2)業界調査
BaFinは、当年度中に保険セクターの投資活動に関する業界調査を実施した。その目的は、調査を使用して、ドイツの保険業界による持続可能な投資の性質と範囲を確立することだった。

現在の投資の報告システムは、保険会社の持続可能な投資活動に関する情報を提供していない。したがって、調査は、投資を行う際に保険セクターがESG(環境、社会、ガバナンス)基準をどのように、どの程度遵守しているかを判断するために必要だった。

調査には、葬儀費用を除く全ての主要な保険会社と再保険会社、及びBaFinの監督の対象となる職業退職制度のための機関が含まれている。提出された数値の基礎は、2017年12月31日時点の貸借対照表である。

(3)調査結果
調査では、関連する保険会社自身が、調査の対象となる投資の約73%を持続可能なものと分類していることがわかった。

調査結果は、投資を選択する際に会社の57%が環境への配慮を考慮していることを示している。56%が社会的基準を重視し、55%近くがガバナンスの問題を重視している。会社の16%弱が、責任投資の原則に署名しているか、持続可能な保険の原則に準拠している。両方の原則は、国連によって開始された。

業界調査に参加している保険会社のほぼ41%が、ESG投資を拡大する意向を示している。

(4)ワークショップ
BaFinは、「保険部門における持続可能な投資活動-ESG基準のリスク管理への統合」というトピックに関する2つのワークショップで、保険会社と職業退職制度のための機関との議論を開催した。主な問題は、リスク管理システムへの持続可能な投資のための規制要件をどのように実施するか、及びどのような特定の課題が課されるか、だった。
 

8―まとめ

8―まとめ

以上、今回のレポートでは、BaFinの2018年Annual Reportの「保険会社及び年金基金の監督」の章のうちの「2.実際の監督(Supervision in practice)」に基づいて、ドイツの保険会社の監督及び生命保険会社の状況について報告してきた。

ドイツの生命保険会社は、引き続く低金利環境の中で、これまでZZRの積立や新契約の保証利率の引き下げ、さらには保障性商品や固定保証利率を有さない商品へのシフトを進めることにより、健全性維持のために着実な対応を進めてきている。ただし、マイナス金利のさらなる進展等で、生命保険業界を巡る状況は、引き続き楽観視できないものとなっており、今後とも注意深く監視していく必要がある状況にある。

こうした状況下で、グローバルベースでの資本規制や会計基準等の見直しの動きに対して、BaFinは自国ドイツの状況を踏まえた上で、原則的な考え方には同意しつつも、適宜適切な措置が取られることが必要なことを主張すること等に努めてきているようである。

超低金利環境の継続をはじめとして、日本と類似した環境下にあるドイツの生命保険会社を巡る状況に関しては、日本の生命保険業界関係者にとっても極めて関心の高い事項であることから、その監督を巡る動向については、今後とも引き続き注視していくこととしたい。
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中村 亮一

研究・専門分野

(2019年09月27日「保険・年金フォーカス」)

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