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- 中国REIT市場の現状と見通し~2019年は公募REIT元年になるか~
2019年09月13日
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世界の不動産投資信託(REIT)市場の資産規模をみると、米国は約9,071億ドル(約98兆円)、日本は1,340億ドル(約15兆円)、豪州は約943億ドル(約10兆円)、その他市場の合計で約3,758億ドル(約41兆円)1という状況にあるが、最近注目されているのは、約12兆元(約188兆円)2とも言われる潜在的な市場規模を有する中国REIT市場3である。特に、新たな法制度を整備し、現在の私募ベースではなく、公募によるREITを創設しようという動きは特筆に値するもので、2019年は「中国公募REIT4元年」となる可能性が高まっている。本稿では、このような中国のREIT市場の現状及び公募REIT創設の動きについて報告する。
1 S&P Dow Jones Indicesのデータより。いずれも2019年6月末の時価総額であり、2019年7月12日の為替データを基に円換算。
2 北京大学光華管理学院REITs研究チーム(2017)「中国不動産投資信託基金市場規模研究」より。同報告では、主要国におけるREIT市場規模のGDP比率及び株式市場規模比率等に基づき、中国のREIT市場規模を大まかに試算している。ただし、この試算には、進行中のPPPインフラ事業や都市化の進展による投資適格賃貸住宅の潜在市場規模が考慮されていない。また、2016年中国の固定資本形成が米国の約1.6倍に達していることを考慮すると、中国の潜在的なREIT市場は米国の規模を大きく上回るものと考えられる。
3 本稿の中国REIT市場とは中国本土におけるREIT市場である。
4 中国では、後述する米豪日各国のようなREIT商品を「標準REIT」と呼ぶのに対し、本稿では現在議論されている既存の私募ベースのREIT商品を「標準REIT」のように一般投資家を対象に公募化する動きを着目し、こうしたREITを「公募REIT」と呼ぶ。
1 S&P Dow Jones Indicesのデータより。いずれも2019年6月末の時価総額であり、2019年7月12日の為替データを基に円換算。
2 北京大学光華管理学院REITs研究チーム(2017)「中国不動産投資信託基金市場規模研究」より。同報告では、主要国におけるREIT市場規模のGDP比率及び株式市場規模比率等に基づき、中国のREIT市場規模を大まかに試算している。ただし、この試算には、進行中のPPPインフラ事業や都市化の進展による投資適格賃貸住宅の潜在市場規模が考慮されていない。また、2016年中国の固定資本形成が米国の約1.6倍に達していることを考慮すると、中国の潜在的なREIT市場は米国の規模を大きく上回るものと考えられる。
3 本稿の中国REIT市場とは中国本土におけるREIT市場である。
4 中国では、後述する米豪日各国のようなREIT商品を「標準REIT」と呼ぶのに対し、本稿では現在議論されている既存の私募ベースのREIT商品を「標準REIT」のように一般投資家を対象に公募化する動きを着目し、こうしたREITを「公募REIT」と呼ぶ。
1――中国REITの特徴
1|「類REIT」と「標準REIT」商品の比較
REITとはReal Estate Investment Trustの略語であり、中国では「房地产投资信托基金(不動産投資信託基金)」と訳されている。しかし、不動産に係る信託制度や導管体に対する税制優遇などにおいて、米豪日各国のような国際投資家の投資基準を満たしたREIT(中国では「標準REIT」と呼ばれている。)は未だ整備されていない。現在の中国REITとは、「証券法」、「証券投資基金法」等によって中国証券監督管理委員会(証監会)の「証券会社及び基金管理会社子会社資産証券化業務管理規定」(以下「管理規定」)等、基金業協会及び上海・深圳証券取引所の資産証券化業務に関する一連のガイドラインに基づく不動産関連資産を対象とした私募ベースの証券化金融商品5であり、総じて「類REIT」と呼ばれている。
「類REIT」は、「REITに類似する」を意味し、「標準REIT」に要求される基準を満たしているわけではなく、募集の仕方や流動性、商品属性など、いくつかの点で異なる。現在、中国の類REIT商品の約96.2%は私募商品6で公募商品が少ないため、個人投資家の参入は難しい。一方、米国の公募REITは全体の6割超、日本では8割超を占め7、いずれも個人投資家が証券取引所を通じて株式と同様に取引できるため流動性が確保されている。その他、現時点における類REIT商品の大きな特徴は、投資期間が短期に固定されていること及び販売時に分配率が確定されているものが多い点である8。
REITとはReal Estate Investment Trustの略語であり、中国では「房地产投资信托基金(不動産投資信託基金)」と訳されている。しかし、不動産に係る信託制度や導管体に対する税制優遇などにおいて、米豪日各国のような国際投資家の投資基準を満たしたREIT(中国では「標準REIT」と呼ばれている。)は未だ整備されていない。現在の中国REITとは、「証券法」、「証券投資基金法」等によって中国証券監督管理委員会(証監会)の「証券会社及び基金管理会社子会社資産証券化業務管理規定」(以下「管理規定」)等、基金業協会及び上海・深圳証券取引所の資産証券化業務に関する一連のガイドラインに基づく不動産関連資産を対象とした私募ベースの証券化金融商品5であり、総じて「類REIT」と呼ばれている。
「類REIT」は、「REITに類似する」を意味し、「標準REIT」に要求される基準を満たしているわけではなく、募集の仕方や流動性、商品属性など、いくつかの点で異なる。現在、中国の類REIT商品の約96.2%は私募商品6で公募商品が少ないため、個人投資家の参入は難しい。一方、米国の公募REITは全体の6割超、日本では8割超を占め7、いずれも個人投資家が証券取引所を通じて株式と同様に取引できるため流動性が確保されている。その他、現時点における類REIT商品の大きな特徴は、投資期間が短期に固定されていること及び販売時に分配率が確定されているものが多い点である8。
5 現在の中国の類REIT商品は、2005年から発行されている資産担保証券(Asset Backed Security: ABS)のうち、不動産を所有するSPV(特別目的事業体)の株式やSPVが発行する債券、不動産融資債権などの不動産関連資産を対象とし、後述する資産支持専項計画にしたものとも言える。類REITは実物不動産を直接保有できない。中国におけるABS市場の動向について本稿では割愛する。
6 興業証券経済と金融研究院のデータより。
7 NAREIT 及びARES J-REIT Databookより。
8 商業や賃貸住宅関連担保融資等に基づく不動産担保証券などの確定利付債券投資(Fixed Income Investment)が行われているためと考えられる。
9 林氏は中国資産証券化研究院院長等を歴任した研究者である。
10 北京大学光華管理学院REITs研究チーム(2018)「不動産信託投資基金税制問題研究」より。
2――中国REIT市場の動向
11 「中信啓航」は中信証券(CITIC)が進めていた「中信啓航専項資産管理計画」の略称である。同商品は発行額52.1億元(約819億円)のエクイティ型類REIT商品であり、北京中信証券ビルと深圳中信証券ビルを対象資産として、これら2物件の賃料が収益源となっている。しかし、同商品の投資家数は50名に留まっている。農業銀行(2014)「房地産信託投資基金(REIT)の最新進展」より。
2|セクター別の動向
中国REITのサブセクターは、安定的な賃料収入が得られるショッピングセンター(27%)と小売(18%)による商業セクターが占める割合が45%と大きく、オフィス(26%)、賃貸住宅(11%)、ホテル(10%)、物流センター(4%)、書店(2%)、コミュニティビジネス(2%)などが続く。これに対し、J-REITは、オフィス(37%)、物流(29%)と続き、ホテル、商業、住宅がそれぞれ12%、11%、10%、ヘルスケア及びその他は1%という構成になっている12。中国REIT市場では、サブセクターの構成からみると、商業全体が占める割合が大きいが、オフィス、物流分野ではまだ成長の余地があり、ヘルスケアなど新しい分野への進出も期待できる。
中国REITのサブセクターは、安定的な賃料収入が得られるショッピングセンター(27%)と小売(18%)による商業セクターが占める割合が45%と大きく、オフィス(26%)、賃貸住宅(11%)、ホテル(10%)、物流センター(4%)、書店(2%)、コミュニティビジネス(2%)などが続く。これに対し、J-REITは、オフィス(37%)、物流(29%)と続き、ホテル、商業、住宅がそれぞれ12%、11%、10%、ヘルスケア及びその他は1%という構成になっている12。中国REIT市場では、サブセクターの構成からみると、商業全体が占める割合が大きいが、オフィス、物流分野ではまだ成長の余地があり、ヘルスケアなど新しい分野への進出も期待できる。
12 ARES J-REIT Databookより、2018年年末時点。
13 図表1で示したとおり、中国の類REIT商品は信用リスクによって、発行規模のうち各自で決めた割合で「優先級(A/B/C)」、「次級」などに分類され、本稿がまとめたのは確定分配率型商品である優先級A級の類REIT商品の発行時に確定された分配率である。
(2019年09月13日「基礎研レポート」)
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経歴
- 【職歴】
2018年 早稲田大学 アジア太平洋研究科 博士(学術)
2018年 ニッセイ基礎研究所 入社
【資格】
環境プランナー、国際環境リーダー
【加入団体等】
日本NPO学会、Nonprofit Management & Leadership(米)
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