2019年09月10日

日本でよくみられる症状と病気-自覚症状がなければ、まず様子をみる?

保険研究部 主席研究員 兼 気候変動リサーチセンター チーフ気候変動アナリスト 兼 ヘルスケアリサーチセンター 主席研究員 篠原 拓也

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1――はじめに

日本の人は、どんな症状に悩まされやすいのか。どんな病気にかかりやすいのか。そして、自覚症状がある場合などには、すぐに病院で受診しているのか。これらは、受療の一断面を映し出すものだ。

本稿では、日本でよくみられる症状と病気、受診までの時間などをみていくこととしたい。
 

2――有訴者率と通院者率の推移

2――有訴者率と通院者率の推移

まず、病気の前兆となる自覚症状の感知からみていこう。

1有訴者率は高齢層を中心に低下傾向
自覚症状とは、患者自身が感知する症状のことだ。自覚症状の有無は、医師等による診断ではなく、患者本人に対する調査を通じて明らかになる。「国民生活基礎調査」(厚生労働省)は、3年に1度行う大規模調査で、健康票を用いて健康状況の調査を実施している。そして、病気やけが等で自覚症状のある人の割合を、有訴者率としてまとめている。この有訴者率は、15歳以上では、男性よりも女性のほうが高い。近年(1998~2016年)の推移をみると、男女とも高齢層を中心に低下傾向にある。
図表1-1. 有訴者率 男性 (人口千人当たり)
図表1-2. 有訴者率 女性 (人口千人当たり)
2通院者率は、緩やかな上昇傾向にある
つぎに、傷病で通院している人の割合である、通院者率をみてみよう。通院者率は、全体では男性よりも女性のほうが高い。ただし、年齢層別にみると、男女の高低はまちまちとなっている。

また有訴者率とは異なり、通院者率は、25歳以上でおおむね緩やかな上昇傾向を示している。45歳以上では、男女とも通院者率が有訴者率を上回っている。こうした傾向の原因として、中高齢層を中心に、自覚症状はないが、健康診断などによって生活習慣病に罹患していることが判明して、通院するようなケースが増えていることが考えられる。
図表2-1. 通院者率 男性 (人口千人当たり)
図表2-2. 通院者率 女性 (人口千人当たり)

3――主な症状と疾病

3――主な症状と疾病

つづいて、有訴者率と通院者率の内訳をなす、主な症状と疾病についてみていこう。

1男性は腰痛、女性は肩こりが主な症状
症状をみると、男性は25歳から84歳にかけて「腰痛」が第1位となっている。「肩こり」や、「体がだるい」などがこれに続いている。また、高齢層では「頻尿(尿の出る回数が多い)」が目を引く。

女性は、15歳から64歳にかけて「肩こり」、65歳以上は「腰痛」が第1位となっている。若齢から中高齢にかけて「頭痛」が上位に含まれている点や、高齢層で「手足の関節が痛む」が上位にランクインしている点が特徴的といえる。
図表3-1. 上位5症状 男性 (人口千人当たり) [複数回答]
図表3-2. 上位5症状 女性 (人口千人当たり) [複数回答]
2男女とも高齢層の主な疾病は高血圧症
つぎに疾病をみると、男性は、45歳以上で「高血圧症」が第1位となっている。中高齢層では、「脂質異常症」や「糖尿病」が上位に入っている。また、高齢層の「前立腺肥大症」も目立っている。

女性は、55歳以上で「高血圧症」が第1位となっている。「脂質異常症」も、上位に入っている。また、高齢層で「骨粗しょう症」が上位に入っている点が注目される。

「高血圧症」、「脂質異常症」、「糖尿病」は、初期の段階では自覚症状が乏しいケースがある。このことが、前章でみた有訴者率と通院者率の傾向の違いにつながっているものとみられる。
図表4-1. 上位5疾病 男性 (人口千人当たり) [複数回答]
図表4-2. 上位5疾病 女性 (人口千人当たり) [複数回答]

4――受診までの時間

4――受診までの時間

前章までに、症状と疾病についてみていった。中高齢層では、生活習慣病などで自覚症状はないが通院している患者が増えている様子がみられた。それでは、症状を自覚したり、自覚はしないが健康診断で指摘を受けたりしてから、実際に受診するまでにどれくらいの時間がかかっているのだろうか。「受療行動調査」(厚生労働省)をもとにみていくこととしたい。
1自覚症状がない場合、6日以内での受診は約20%
最初の受診までの期間を自覚症状の有無ごとにみると、自覚症状があった場合は6日以内での受診が41.3%なのに対し、自覚症状がなかった場合には約半分の20.9%にとどまっている。自覚症状がない場合、すぐには受診しない傾向がうかがえる。
図表5. 最初の受診までの期間
2受診までに時間を要した理由のトップは、まず様子見
つづいて、最初の受診までの期間に1週間以上を要した理由をみてみよう。自覚症状があった人の理由のトップは、まず様子をみようと思ったことにある。自覚症状がなかった場合は、様子見とあわせて、時間の都合がつかない、予約が取れないなどの要因があげられている。
図表6. 最初の受診までの期間に1週間以上を要した理由(自覚症状の有無別) [複数回答]
3悪性新生物、心疾患、脳血管疾患でも、まず様子見
最初の受診までの期間に1週間以上を要したケースを、悪性新生物、心疾患、脳血管疾患の疾病別にみていく。いずれも、まず様子をみようと思ったことが理由のトップとなっている。悪性新生物の場合は、予約が取れないなど医療機関の都合も理由の上位にあげられている。これらの疾病は、時間とともに、病状が進行する可能性がある。このため、時間をおかずに受診して、早期に治療を開始する必要性が高いものと考えられる。
図表7. 最初の受診までの期間に1週間以上を要した理由(疾病別) [複数回答]

5――おわりに (私見)

5――おわりに (私見)

本稿では、自覚症状や疾病の様子を概観し、受診にいたるまでの時間をみていった。近年、自覚症状を有するケースは減少傾向にある。しかし、健康診断などによって生活習慣病に罹患していることが判明して、受診するケースは増加しているものとみられる。現状では、自覚症状がない場合、6日以内に受診するケースは低い水準にとどまっている。受診が遅れる理由の多くは、様子見である。

疾病によっては、様子見をしているうちに病状が進行してしまう可能性もある。早期の治療開始のためには、まず速やかに医療機関に受診する必要がある。

今後も引き続き、症状や疾病の様子と患者の受療行動等について、注視していくこととしたい。
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保険研究部   主席研究員 兼 気候変動リサーチセンター チーフ気候変動アナリスト 兼 ヘルスケアリサーチセンター 主席研究員

篠原 拓也 (しのはら たくや)

研究・専門分野
保険商品・計理、共済計理人・コンサルティング業務

経歴
  • 【職歴】
     1992年 日本生命保険相互会社入社
     2014年 ニッセイ基礎研究所へ

    【加入団体等】
     ・日本アクチュアリー会 正会員

(2019年09月10日「基礎研レター」)

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