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- どうする?2035年、年金積立金枯渇の衝撃(中国)【アジア・新興国】中国保険市場の最新動向(38)
2019年08月20日
3-年金積立金の運用収益の強化―高まる全国社会保障基金のプレゼンス
2016年以降、全国社会保障基金理事会への委託運用は本格導入され、2017年は、8地域から2732億元の委託運用を受けている。2018年は8地域から合計5277億元の委託運用を受けているが、この委託額は、同年の全国の基本年金基金の積立残高の合計額5兆901億元の10.4%にすぎない。
また、2017年の委託運用の収益は87.8億元、収益率は5.23%であった。2017年時点では、積立金増加へのインパクトは限定的であるが、収益率自体は各地域の自家運用と比較しても高い。今後、運用委託する地域や委託額が増加し、基本年金基金の積立額の増加を側面的に支えるものとして期待されている5。
また、一連の年金積立金枯渇問題を受けて、7月10日、国務院は政府が管理する国有企業の株式6600億元分(合計59社)を全国社会保障基金に移管すると決定している。国有企業の株式による収益は基本年金基金の状況をみながら、最終的には赤字補填に活用されることになっている。これは、2017年11月、政府が保有する国有企業の株式の10%を限度に、全国社会保障基金への移管を可能としており、それを実行した形だ。国有企業の株式が移管される背景には、1990年代の国有企業改革、それに伴う年金制度改革時の年金原資不足の問題が尾を引いている。政府は、基本年金基金の財源の多元化のためとしているが、国有企業改革に伴う過去から尾を引いている問題に、現在の国有企業の株式収益で補填するといった意味合いも見受けられる。
5 上掲の中国社会科学院の推計では、積立金運用の収益率を3%としている。これは、各地域における自家運用の収益率2~3%に基いたものである。
また、2017年の委託運用の収益は87.8億元、収益率は5.23%であった。2017年時点では、積立金増加へのインパクトは限定的であるが、収益率自体は各地域の自家運用と比較しても高い。今後、運用委託する地域や委託額が増加し、基本年金基金の積立額の増加を側面的に支えるものとして期待されている5。
また、一連の年金積立金枯渇問題を受けて、7月10日、国務院は政府が管理する国有企業の株式6600億元分(合計59社)を全国社会保障基金に移管すると決定している。国有企業の株式による収益は基本年金基金の状況をみながら、最終的には赤字補填に活用されることになっている。これは、2017年11月、政府が保有する国有企業の株式の10%を限度に、全国社会保障基金への移管を可能としており、それを実行した形だ。国有企業の株式が移管される背景には、1990年代の国有企業改革、それに伴う年金制度改革時の年金原資不足の問題が尾を引いている。政府は、基本年金基金の財源の多元化のためとしているが、国有企業改革に伴う過去から尾を引いている問題に、現在の国有企業の株式収益で補填するといった意味合いも見受けられる。
5 上掲の中国社会科学院の推計では、積立金運用の収益率を3%としている。これは、各地域における自家運用の収益率2~3%に基いたものである。
4-年金保険料の軽減としつつ、保険料をきちんと徴収するための楔を打つ。
そもそも中国の年金の企業負担割合は国際的にみても高く、企業の競争力を削ぐものの1つともされてきた。企業負担割合が高くなってしまった背景には上掲のような国有企業改革時の諸問題もあり、料率を高くせざるを得ないなどの歴史的な問題も内在している。これに対して、企業側も本来の正しい基準給与(基数)で年金保険料を算出していたのは全体の3割程度で、多くの企業が低い基数に基づいて保険料を少なく納付したため、保険料収入が正しく確保されていないという経緯もある6。
今般、社会保険料算出のための基数が見直され、多くの地域ではその基準が引き下げられている7。また、16%という保険料率は、企業が正しい基数に基づいて実質的に支払いが可能とされる料率でもある8。加えて、税務局による年金保険料の徴収が奨励され、徴収漏れに対する対策もとられ始めている。視点を少し変えると、表向きは景気下支えのための企業負担の軽減であるが、それにとどまらず、これまでの徴収体制を改め、基準、料率を引き下げることで、まず、給付に見合った正しい保険料をきちんと徴収できるよう徴収体制が強化されたとも考えられる。
中国の年金積立金の問題は、急速な少子高齢化、経済成長の鈍化といった外在的な問題のみならず、国有企業改革時の問題や、これまで放置されてきた保険料徴収に関する制度問題も内在しながら現在に至っている。年金制度全体としては2020年の皆保険を目指しており、急速な少子高齢化と並行して制度を導入・整備しながら、同時に国有企業改革時の過去の問題と、近い将来発生すると推計される積立金枯渇課題にも対策を講じるという、あらゆる問題について同時に対処している状態にある。いずれにしても国民の老後不安は社会不安を招きかねず、政府にとって重要課題であることに変わりはない。日本ほど踏み込んではいないかもしれないが、社会科学院による将来推計の発表は、中国の年金制度が抱える問題の緊急度を改めて国民に示したものといえよう。今後も、2035年の年金積立金枯渇を回避するために、これまで放置してきた問題に大きくメスを入れる必要がある。残された時間は極めて短く、基本年金基金の全国統合、受給開始年齢の引き上げ、年金支給基準の調整、年金額の伸びの調整といった更に一歩踏み込んだ改革を速やかに行っていく必要があろう。
6 拙著「きちんと社会保険料を納めている企業は3割?(中国)」、基礎研レター、2019年4月15日発行
7 注釈1参照
8 注釈6参照
今般、社会保険料算出のための基数が見直され、多くの地域ではその基準が引き下げられている7。また、16%という保険料率は、企業が正しい基数に基づいて実質的に支払いが可能とされる料率でもある8。加えて、税務局による年金保険料の徴収が奨励され、徴収漏れに対する対策もとられ始めている。視点を少し変えると、表向きは景気下支えのための企業負担の軽減であるが、それにとどまらず、これまでの徴収体制を改め、基準、料率を引き下げることで、まず、給付に見合った正しい保険料をきちんと徴収できるよう徴収体制が強化されたとも考えられる。
中国の年金積立金の問題は、急速な少子高齢化、経済成長の鈍化といった外在的な問題のみならず、国有企業改革時の問題や、これまで放置されてきた保険料徴収に関する制度問題も内在しながら現在に至っている。年金制度全体としては2020年の皆保険を目指しており、急速な少子高齢化と並行して制度を導入・整備しながら、同時に国有企業改革時の過去の問題と、近い将来発生すると推計される積立金枯渇課題にも対策を講じるという、あらゆる問題について同時に対処している状態にある。いずれにしても国民の老後不安は社会不安を招きかねず、政府にとって重要課題であることに変わりはない。日本ほど踏み込んではいないかもしれないが、社会科学院による将来推計の発表は、中国の年金制度が抱える問題の緊急度を改めて国民に示したものといえよう。今後も、2035年の年金積立金枯渇を回避するために、これまで放置してきた問題に大きくメスを入れる必要がある。残された時間は極めて短く、基本年金基金の全国統合、受給開始年齢の引き上げ、年金支給基準の調整、年金額の伸びの調整といった更に一歩踏み込んだ改革を速やかに行っていく必要があろう。
6 拙著「きちんと社会保険料を納めている企業は3割?(中国)」、基礎研レター、2019年4月15日発行
7 注釈1参照
8 注釈6参照
(2019年08月20日「保険・年金フォーカス」)
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経歴
- 【職歴】
2005年 ニッセイ基礎研究所(2022年7月より現職)
(2023年 東京外国語大学大学院総合国際学研究科博士後期課程修了) 【社外委員等】
・日本経済団体連合会21世紀政策研究所研究委員
(2019~2020年度・2023年度~)
・生命保険経営学会 編集委員・海外ニュース委員
・千葉大学客員教授(2024年度~)
・千葉大学客員准教授(2023年度) 【加入団体等】
日本保険学会、社会政策学会、他
博士(学術)
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