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訪日外国人消費額の政府目標は達成できるのか~MICE関連のインバウンド拡大がカギ~
藤原 光汰
1――インバウンドの動向
政府は、2013年に発表した日本再興戦略において、2030年に訪日外国人数を3,000万人、訪日外国人消費額を4.7兆円に引き上げるという目標を掲げていた。2014年に、2020年の訪日外国人数を2,000万人にするとの目標を追記したが、2015年に訪日外国人数が1,974万人となり、2020年の目標の早期前倒し達成が確実となったことを受けて、2016年の日本再興戦略において2020年に4,000万人、2030年に6,000万人に目標が更新された。加えて、訪日外国人消費額は2020年に8兆円、2030年に15兆円と目標が引き上げられた。
2018年の実績をもとに、政府の目標数値に到達するためには年間で何%の増加が必要とされるのか試算した(図表1)。
訪日外国人消費額は「一人当たりの消費額×訪日外国人数」で表される。2020年、2030年の訪日外国人数が政府目標を実現したと仮定したとき、訪日外国人消費額の目標を達成するためには、一人当たりの消費額を2018年の15.3万円から2020年に20万円、2030年に25万円に引き上げる必要がある。
1 2018年の訪日外国人一人当たりの消費額は15.3万円である
2――消費額の大きいMICE
日本においてMICEの注目度が高まってからまだ歴史は浅いが、1970年代からMICEを率先して国の重要分野と捉え、現在では世界有数のMICE開催拠点として知られるシンガポール3を例にとると、シンガポールを訪れる外国人のうちMICEへの参加を目的とした外国人の割合は2015年から2017年の平均で5.7%となっている4。同じアジアの国として、日本でも積極的なMICEの誘致を行うことにより、シンガポールと同水準までMICE関連の訪日外国人の割合を引き上げることができるはずである。これが実現した場合、2016年の実績をもとにすると、MICEは訪日外国人消費額の1割弱を占める分野となる。
2 観光庁HPより引用
3 杉本興運「シンガポールにおける観光とMICEの発展」(2017年)
4 Singapore Tourism Board「Annual Report on Tourism Statistics」(2015~2017年)
3――今後のMICEへの期待
MICEの誘致強化に際し、地方部の役割が大きくなると考えられる。三大都市圏5で開催される国際会議や展示会は、地方部と比べ大型のものが多いという点が一つの特徴である。一方で、そのような大型イベントを開催できる施設は数に限りがある上、MICEのみならず他のイベントにも広く使用されており、既に稼働率が高い状態にある。そのため、今後MICEの開催件数を増やすためには、三大都市圏よりも地方部での開催に主眼を置くことが重要である。
地方部へのさらなるMICE誘致に向けては、官民が一体となって密に協調する体制の強化が求められる。観光庁などの機関が資金面等の取り組みを強化するだけではなく、地元の協力やモチベーションアップが欠かせない。地元の再活性化を目指した商店街の協力を得て国際学会の開催に繋げた福岡市は、まさに官民一体となってMICE誘致に取り組んだ模範である7。このような成功モデルを例に挙げて、観光庁はMICE誘致のメリットを広く普及させ、地域の企業や個人等の民間を後押しすることが重要だ。
2019年のG20関係閣僚会合は、大阪サミットを除けば、8つのうち7つが地方部での開催である。閣僚会合の開催地について、政府は「地方創生の観点から声をあげた地区を中心に選定」(菅義偉官房長官)したとしている。地方開催には、日本の地方部の魅力を世界に発信するだけでなく、地方部の民間に対して今後のMICE誘致への契機につなげたい想いも含まれている。
また、カジノの可及的速やかなオープンはMICEの誘致に直結するため、誘致強化の役割を担っているテーマである。特定複合観光施設区域整備法(IR整備法)が2018年7月に可決されたが、この法案の指すIR(Integrated Resort:複合リゾート)とは、カジノの他ホテルやショッピング施設だけでなく、国際会議場や展示場などのMICE関連施設も含まれている。
つまり、日本でのカジノの開始はすなわち新しい大型MICE施設の誕生を意味している。カジノの集客力による効果もあり、MICEの開催件数および訪日外国人数は増加することが確実視される。さらに、カジノの誕生によるナイトライフの充実で、一人当たりの消費額は一層増加することが見込まれる。長くカジノでの賭博行為が禁止されていた日本にとっては、今後の観光産業を盛り上げるための格好の起爆剤となる。
「我が国のMICE国際競争力の強化に向けて(提言)」では、MICE関連の訪日外国人消費額の目標として、2020年に3,000億円、2030年に8,000億円と設定されている。2016年の実績から目標達成へ必要な伸び率(年平均)は、それぞれ18.9%、12.7%であり、これは全体の訪日外国人消費額が政府目標の達成に必要な伸び率とあまり変わらない。今後は、観光目的よりもビジネス目的の訪日外国人の拡大が重要になることを考えると、MICE関連の訪日外国人消費額はこれ以上のペースで伸びる余地があるだろう。政府目標に向けて、MICEが大きなカギを握っているといえる。
5 三大都市圏とは、埼玉、東京、千葉、神奈川、愛知、京都、大阪、兵庫の8都府県。それ以外の39道県を地方部とした
6 日本政府観光局(JNTO)「国際会議統計」より
7 筒井義信とチームみらい「未来がみえた!10人のメンバーがみた地域初「チーム力」」(2016年)
(お願い)本誌記載のデータは各種の情報源から入手・加工したものであり、その正確性と安全性を保証するものではありません。また、本誌は情報提供が目的であり、記載の意見や予測は、いかなる契約の締結や解約を勧誘するものではありません。
(2019年07月30日「研究員の眼」)
藤原 光汰
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