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まちづくりレポート|大阪の農空間づくり-大阪府農空間保全地域制度による、協働型コモンズの形成

社会研究部 都市政策調査室長・ジェロントロジー推進室兼任 塩澤 誠一郎
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1――大阪独自の都市農業施策

大阪府は、都市農業の振興に最も先進的に取り組んできた地方公共団体の一つである。条例施行当時の大阪は、農業者の高齢化、後継者不足により、農業の担い手や農地が年々減少し、遊休農地が増加していた。これ以上の農地減少を食い止め、遊休農地を解消していくために、大阪の特徴を踏まえた独自の制度を必要として、この条例を制定した。大阪の特徴とは、小規模農家が多く、多くの農地が市街地の近くに立地するという、都市農業の特徴そのものである。
条例の冒頭に掲げられている、制定の趣旨を示した附則を要約すると、都市農業及び農空間は、多様な公益的機能を発揮しており、その維持増進を農業関係者だけでなく、府民一体で取り組む必要があると謳っている。これだけ見ても基本法を先取りした内容であることが分かる。(図表1)
また、条例の名称にもあるように、都市農業とともに、農空間を対象としている点に特徴がある。農空間とは、「農地、里山、集落及び水路、ため池等の施設が一体として存する地域」としている1。つまり、農地だけでなく、都市農業の営みに必要な空間的要素を含めた一体のエリアを対象に、その保全と活用に取り組むというものだ。
保全すべき農空間を、「農空間保全地域」と設定し、さらにその中で、農地の遊休化が著しい区域を、「遊休農地解消対策区域」として指定して、必要な解消方策を適用しながら、遊休農地の利用を促進してきた。2016年度末までに、635ヘクタールの遊休農地を解消した。
しかし、遊休農地一筆毎の利用促進策を講じるこの制度では、農地が分散した状態のまま個々に利用を図ることになるため、利用を希望する担い手がいても、計画的で効率的な営農ができないという課題があった。超高齢社会、人口減少社会を迎え、農業従事者の高齢化や農業後継者の不足が進み、今後一層、農地の遊休化が懸念される状況からも、より計画的に農地利用を促進し、効果の高い制度への移行が求められた。
そこで、大阪府は2018年3月に条例を一部改正し、遊休農地一筆毎の利用促進から、地域単位での農地の利用促進に制度を見直した。
1 条例第2条第2項
改正された新しい農空間保全地域制度を詳しく紹介する前に、遊休農地の解消を目標に、2008年から10年間取り組んできた効果はどうだったのか確認したい。
制度を設けて2年後の2010年における大阪府の遊休農地面積は1,665ヘクタールである。これに対し、5年後の2015年は、1,671ヘクタールで6ヘクタール増加している。これだけ見ると、効果が無かったと捉えられてしまう。ただし、まったく無かったとは言い切れない。その増加率は0.4%で、全国平均の6.8%に比べれば低く、近隣府県と比べても非常に低い水準であることが分かる。農空間保全地域制度に取り組んできたからこそ、増加を食い止めてきたとみることができる。
だからこそ、条例を改正し、遊休農地の発生を未然に防ぐための地域単位での農空間づくりへと制度を改めた。
2――農空間保全地域制度
(1) 農空間保全地域の指定
農空間の公益的機能を発揮させるための区域として、府が「農空間保全地域」を指定し、それを公表する。府は、指定した地域の実態調査を行い、農空間の保全と活用に関する施策を実施する2。
農空間保全地域の指定要件は、市街化区域の生産緑地地区、農業振興地域の農用地区域3、市街化調整区域内の概ね5ヘクタール以上の集団農地となっており、1万1,450ヘクタールを指定した。これは、府内全農地の86%に当たる4。
2 条例第14条
3 農業振興地域の整備に関する法律に基づき、都道府県が農業振興地域を指定し、指定を受けた市町村が農業振興地域整備計画を定め、農用地区域を設定する。農用地区域は原則農地転用できない
4 2014年1月の指定時点。大阪府資料より。
府は、農空間保全地域内に、営農継続が困難である農地があるなど、農空間の有する公益的機能の確保に支障が生ずるおそれがある場合に、当該地域に計画的な農地の利用を促す働きかけを行う5。その際必要に応じて、市町村、農業委員会、土地改良区6、JAやその他関係者と一緒に農地利用促進方策を検討する。
改正前は、市町村単位で「農空間保全委員会」が設置され、前述の遊休農地解消対象区域を指定する役割を担っていた。しかし、改正により遊休農地解消対象区域の指定が廃止されたことで、農空間保全委員会は主に、後述する、地域単位の取り組みに向けて、検討対象地域に対し、「農空間づくり協議会」の設立及び、「農空間づくりプラン」の策定、実施を働きかける役割に移行した。
5 条例第15条
6 土地改良区は、土地改良法に基づき、一定地域で公共投資である土地改良事業を行う農業者の団体。土地改良事業では、農業用用排水施設の整備、農地の造成などが行われる。
農空間づくり協議会による農空間づくりプランの策定とそれに基づく取り組みは、改正前の制度では、遊休農地の利用促進方策の一つとして設けられていた。改正後、農空間保全地域における施策の実施は、農空間づくりプランの策定を前提に実施していく制度に移行した。農空間保全地域制度の核心をなす制度に格上げされた形だ。(図表4)
農空間保全委員会から働きかけを受けた地域は、農家や地域住民で地域の課題を共有し、今後の取り組みについて協議を行い、「農空間づくり協議会(以下、協議会)」を設立する。設立にあたっては、農家のみならず、地域から町内会・自治会、NPOなど幅広い参加を呼びかけて、構成メンバーを決定し、規約を作成する。協議会設立後、府に申請し、府はこれを認定する。
認定を受けた協議会は、農地の利用促進に関する計画策定や実施について、府から必要な支援を受けることができる。
以上は、働きかけを受けて協議会を設立する場合であるが、もちろん働きかけがなくても、地域の発意で協議会を設立することも可能だ。
協議会は、勉強会等を実施し、地域の将来像をメンバーで話し合い、それを基に「農空間づくりプラン」(以下プラン)をまとめる。
プランは、主に、地域のめざすべき将来像と将来像実現に向けた取り組みで構成され、将来像実現に向けた取り組みは、「担い手確保に関する計画」、「土地利用促進計画」、「地域活性化に関する計画」の3つからなる。
地域の農業者、集落営農組織7の他、準農家8など地域外からも幅広く、将来の農地利用の主体となる担い手を確保する方法を明示する。
7 集落を単位として、農業用機械の共同利用、農業資材の共同購入など農業生産過程の全部又は一部について共同で取り組む組織。
8 耕作意欲のある一定の農業技術を有した新規参入者が、中間管理事業などにより、耕作する予定農地を決定し、貸借が成立すれば準農家として耕作することができる、府独自の制度。
(2019年07月18日「ニッセイ基礎研所報」)

03-3512-1814
- 【職歴】
1994年 (株)住宅・都市問題研究所入社
2004年 ニッセイ基礎研究所
2020年より現職
・技術士(建設部門、都市及び地方計画)
【加入団体等】
・我孫子市都市計画審議会委員
・日本建築学会
・日本都市計画学会
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