2019年07月11日

働き方改革 CRE(企業不動産戦略) などの記事に関心のあるあなたへ

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(3) サステナブル・クリエイティブシティにおける最先端のテクノロジー実装の重要性
  • サステナブル・クリエイティブシティにおいて、複合化した多様な社会課題を解決するための極めて重要なポイントは、「地域・都市への最先端テクノロジーの実装」であることをここで強調しておきたい。
     
  • 建物やインフラなど地域・都市のあらゆる構成要素・機能にIoTデバイスが搭載され、地域・都市全体が通信ネットワークでつながる「コネクテッドシティ(つながる街)」とすることや、産学官民の多様な主体間で、ビッグデータを共有・共用できるしくみを構築しておくことなどが、サステナブル・クリエイティブシティ構築の必要条件となる。
     
  • 地域・都市というフィジカル空間(実世界)で生み出されるビッグデータをサイバー空間(仮想空間)でAIにより解析し、地域・都市で活動する産学官の多様な主体が、このAIによる解析結果を地域・都市のあらゆる構成要素・機能・サービスの管理・運営の効率化・高度化に活かすことができれば、地域・都市全体の最適化が図られ、多様な社会課題は解決に向かうだろう。
     
  • 最先端テクノロジーを活用して社会課題を解決する、第4 次産業革命やSociety5.0の本質は、サイバー空間とフィジカル空間が高度に融合・連動するCPS(Cyber Physical Systems)にあるが、サステナブル・クリエイティブシティは、CPSを先行的・試行的に応用・実践する場である、と言えよう。
     
  • このため、従来はサイバー空間でのビジネスをメインとしてきた巨大ITプラットフォーマーが、街づくりに積極的に乗り出してくることがあっても、まったく不思議ではない。実際、米アルファベット(グーグルを傘下に持つ持株会社)は、カナダ・トロント市でカナダ政府や市が推進するスマートシティ開発プロジェクトに子会社サイドウォーク・ラボを通じて参画している。
     
  • 米国のIT大手の本社は、シリコンバレーやシアトルなどの広大な敷地に構築されることが多いため、本社施設全体を「キャンパス」と呼ぶことが多い。このようなIT大手の巨大な本社施設は、都市の非常に重要な要素を構成しており、ハイテクを駆使した「先端型企業城下町」を形成している、とも言える。寄稿文にて先進事例として取り上げた、アップルがカリフォルニア州クパチーノ市の約71万㎡にも及ぶ広大な敷地に構築した新本社屋Apple Parkは、まさに巨大な社屋の中にひとつの街が再現されたかのようだ。
3|地方における企業の不動産戦略の在り方~「三種の神器」の導入を!
(1) 企業不動産(CRE)戦略とは?
  • 企業が事業継続のために使う不動産を重要な経営資源の1つに位置付け、その活用、管理、取引(取得、売却、賃貸借)に際し、CSRを踏まえた上で、企業価値最大化の視点から最適な選択を行う経営戦略を「CRE(企業不動産)戦略」と呼ぶ。
     
  • CRE戦略は、経理・財務、人事、IT などとともに、社内に専門的・共通的な役務を提供する「シェアードサービス型」戦略の一翼を担う(図表6)。シェアードサービスは企業経営に不可欠だが、事業戦略と整合性がとられて初めて機能するため、CRE戦略には、経営層や事業部門、従業員など「社内顧客」に不動産サービスを提供する「社内ベンダー」、すなわち社内顧客の「ビジネスパートナー」であるとの発想が必要となる。
     
  • シェアードサービス型戦略としてのCRE戦略の主要な役割として、(1)日々の事業活動における不動産ニーズに対するソリューションの提示、(2)中期的な経営戦略の遂行をサポートする不動産マネジメントの立案・提案・実行(経営層の意思決定・戦略遂行に資するという意味で「マネジメント・レイヤーのCRE戦略」と呼ぶ)、(3)社内顧客のニーズと外部ベンダーのサービスをつなぐ「リエゾン(橋渡し)機能」(外部ベンダーを使いこなす「ベンダーマネジメント機能」と言い換えてもよい)の3つが挙げられる。このうち、(2)がCRE戦略のコア機能だ。(2)に専念するために、できるだけ(1)を外部ベンダーに委託することが不可欠であり、(3)も重要な業務となる。
     
  • 企業不動産が、社会的ミッション起点のCSR 経営(ESG経営)を実践するためのプラットフォームの役割を果たし、地域・都市に貢献していくためには、企業が適切なマネジメント体制の下で組織的にCRE戦略に取り組むことが前提条件となる。
図表6 経営資源の全体最適化行動とCRE戦略の位置付け
(2) CRE戦略実践のための 「三種の神器 」
  • IBM、アップル、インテル、オラクル、グーグル、シスコシステムズ、ヒューレット・パッカード(HP)、フェイスブック、プロクター・アンド・ギャンブル(P&G)、マイクロソフトなどの米国大企業、英国のグラクソ・スミスクライン、フィンランドのノキアなど、先進的なグローバル企業のCRE戦略には、次の3つの共通点が見られ、筆者は、これらをCRE戦略を実践するための「三種の神器」と呼んでいる。この三種の神器は、グローバル企業に限らず、あらゆる企業がCRE戦略に取り組む際の重要なポイントになると考えられる。いずれの要素も、経営トップの強いコミットメントの下で、推進されなければならない。


1)CREマネジメントの一元化
CRE戦略を担う専門部署の設置による意思決定の一元化とIT活用による不動産情報の一元管理により、「CREマネジメントの一元化」を図っていること。ファシリティの運営維持管理コスト、利用度、従業員満足度などの一元管理された不動産情報は、世界の拠点間のベンチマークに活かされている。また、サステナブル・クリエイティブシティの構築において、最先端テクノロジーの実装が極めて重要である、という点については前述した通りであるが、オフィスなど個々のCRE単位での不動産データの収集・分析にも、IoTデバイス、AI、クラウドコンピューティングなど「不動産テック」8を利活用する余地が非常に大きい、と考えられる。例えば、オフィスでの執務エリアのデスクや会議室、カフェテリアなどの利用状況を把握するのに、赤外線センサー(人感センサー)を設置すれば、これまで目視により手間のかかっていた利用状況調査も、簡単かつ精緻にリアルタイムで行えるようになる。さらに、オフィスでのコミュニケーション状況など従業員の行動データを赤外線センサーや加速度センサーで取得し、このビッグデータをAIで分析すれば、定量データに基づいて、業務の生産性向上に資するオフィス環境の整備を検討できるようになるだろう。
 
8 「不動産とテクノロジーの融合」を意味する。「プロップテック(Prop Tech)」とも言い、ここ数年で注目されるようになってきた。その活用事例として脚光を浴びているのは、これまでのところ、不動産流通に関わる価格査定、マッチング、チャットなどBtoC分野の業務効率化が中心だが、本稿で述べた通り、事業用不動産(CRE)への活用余地も非常に大きい。
2)先進的・創造的なワークプレイスとワークスタイルの重視
CRE戦略の重点を単なるハードの不動産管理にとどめず、「先進的・創造的なワークプレイスやワークスタイル」を活用したHRM(人的資源管理:Human Resource Management)に移行させていること。ここでは、従業員の創造性を企業競争力の源泉と認識し、それを最大限に引き出し、革新的なイノベーション創出につなげていくための創造的なオフィス、すなわち「クリエイティブオフィス」の構築・運用が極めて重要となる。筆者が提唱する、クリエイティブオフィスの「基本的な設計コンセプト(基本モデル)」を図表7に示す。
図表7 クリエイティブオフィスの基本モデル(大原則・具体原則)の概要
3)外部ベンダーの戦略的活用
「アウトソーシングの戦略的活用」により、戦略的業務への社内の人的資源の集中を図っていること。施設運営など日々のサービス提供業務は、外部ベンダーに包括的に委託する一方、CRE専門部署では社内スタッフの少数精鋭化を進め、戦略の策定・意思決定やベンダーマネジメントに特化する傾向を強めている。社内スタッフと外部ベンダーが異なる組織にいながら実質的には一つのチームを形成し、社内スタッフはこのチームをフル活用することで、戦略的業務に注力することができる。
  • 前述の通り、CRE戦略は、大企業だけでなく、地方における中堅・中小企業にとっても重要になってきている。CRE戦略の重要性が高まる中、我が国でもCRE 戦略という言葉は産業界に広まりつつあるが、適切なマネジメント体制の下で組織的に取り組む企業はまだ少ない。
     
  • 企業は、CRE戦略に取り組むための準備を早急に行うべきであり、この三種の神器の整備から始めることをお奨めしたい(三種の神器の3つの要素に関わる詳細な説明については、是非、寄稿文を参照されたい)。
 

5――むすび

5――むすび

本稿では、国土交通省が5月に公表した『企業による不動産の利活用ハンドブック』について、筆者の寄稿文を中心に説明してきたが、そもそもこれには、ESGやSDGsの推進に向けた事業活動を通じた不動産の利活用によって、地域活性化や社会課題解決など社会的価値を創出することを促進したいという思いがある。

また、国土交通省土地・建設産業局では、同ハンドブックの作成・公表に加え、不動産投資におけるESGやSDGsのあり方及び取り組みの推進のための検討を行うことを目的として、「ESG不動産投資のあり方検討会」を設置し、2019年2月~6月に4回の検討会を開催し、7月に中間とりまとめを行った9。社会的ミッションを企業理念として掲げる志の高い産業界の方々には、業種を問わず幅広く、ハンドブック全体と併せて同検討会の中間とりまとめを是非実際に御覧頂きたい。

今後、多くの日本企業が国土交通省『企業による不動産の利活用ハンドブック』および『ESG不動産投資のあり方検討会 中間とりまとめ』を参考にして、CRE戦略実践のための三種の神器を整備しつつ、不動産を起点にESGやSDGsの推進による社会課題・地域課題の解決に踏み出すことを期待したい。
 
9 ESG不動産投資のあり方検討会の内容および中間とりまとめについては、以下のURLを参照されたい。http://www.mlit.go.jp/totikensangyo/totikensangyo_tk5_000198.html
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社会研究部   上席研究員

百嶋 徹 (ひゃくしま とおる)

研究・専門分野
企業経営、産業競争力、産業政策、イノベーション、企業不動産(CRE)、AI・IOT、スマートシティ、CSR・ESG経営

(2019年07月11日「基礎研レポート」)

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レポート紹介

【地域活性化に向けた不動産の利活用-国土交通省『企業による不動産の利活用ハンドブック』へ寄稿】【シンクタンク】ニッセイ基礎研究所は、保険・年金・社会保障、経済・金融・不動産、暮らし・高齢社会、経営・ビジネスなどの各専門領域の研究員を抱え、様々な情報提供を行っています。

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