2019年07月11日

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(2) 社会的ミッション起点のCSR経営・ESG経営の重要性
  • 企業の存在意義や社会的責任(CSR)は、あらゆる事業活動を通じた社会問題解決による社会変革や社会的価値の創出にこそあるべきであり、経済的リターンありきではなく、社会的ミッションを起点とする発想が求められる。企業は社会的価値の創出と引き換えに経済的リターンを獲得できるのであり、社会的価値の創出が経済的リターンに対する「上位概念」である(図表2)。
図表2 事業組織と社会のあるべき関係
  • このような「社会的ミッション起点のCSR 経営」の実践には、従業員、顧客、取引先、株主、債権者、地域社会、行政など企業を取り巻く多様なステークホルダーとの「高い志の共有」が不可欠だ。CSRの実践では、適切な「ガバナンス(G)」の下で、企業活動の一挙手一投足を「環境(E)や社会(S)への配慮」という「フィルター」にかけることが不可欠であるため、「CSR経営」は「ESG経営」と言い換えることもできる。
     
  • 企業が受け取るリターンには、経済的リターンに加え、非金銭的なモチベーション(高い志を達成したことによる満足感ややりがい、社会からの企業に対する評価向上)があると考えられる(図表2)。
(3) 企業不動産はCSR経営・ESG経営を実践するためのプラットフォームに
  • 企業が利活用する不動産は、「外部性」を持つため、とりわけ社会性を配慮した利活用が欠かせない。企業不動産(CRE)戦略では、各種のワークプレイスやファシリティが立地する地域社会や都市との共生を図り、良き企業市民として地域・都市に貢献する視点が重要だ。
     
  • 企業は、不動産の利活用が地域社会の自然環境や景観に及ぼす「外部不経済」を最小化・ゼロ化する一方で、構築した拠点を起点に事業活動を通じて地域社会に生み出す、地域活性化や社会課題解決など「外部経済効果」を最大限に引き出すことに取り組むことが求められる。すなわち、企業不動産は「社会的ミッション起点のCSR /ESG経営を実践するためのプラットフォーム」の役割を果たすべきだ。
<例①>ショッピングセンター(SC)の開発・運営
図表3 ショッピングセンター事業が創出する社会的価値と経済的リターンの関係
<例②>社会課題解決に資する製品の研究開発・製造拠点の立地・操業
(4) 社会性に配慮した不動産の利活用は中堅・中小企業にとっても重要
  • 地域活性化に向けた不動産の利活用は、大企業だけでなく、中堅・中小企業にとっても極めて重要な課題である。CSR/ESG経営の実践は、非上場企業や中堅・中小企業にも求められており、良き企業市民として持続可能な社会の構築へ貢献していかなければならない。
図表4 企業の土地投資(新規取得)の推移
  • 企業の土地取得額に占める中堅・中小企業の比率は、直近の2017年度では50%を占める(図表4)。このことから、企業不動産に関わる適切な経営戦略(CRE戦略)を通じた不動産の有効活用・企業価値の向上が、大企業に加え、中堅・中小企業にとっても極めて重要な課題として問われている。
     
  • 欧米の先進的なグローバル企業は、既にCRE戦略を実践している一方、我が国では、大企業でも組織的な取り組みが遅れており、さらに中堅・中小企業では認知度自体がまだ低い。
     
  • 大企業とともに中小企業にとっても、CSR/ESG経営に舵を切ることにより、購入した所有地の地域活性化・社会課題解決に向けた利活用の余地は大きい。
2|CSRやESGの推進に向けて求められる産学官民連携の推進
(1) 産学官民連携が必要となる背景
  • 人口減少や税収減により、自治体のみで地域課題や街づくりに対応するのは、もはや困難になってきており、産業界の知見・人材・資金、大学・研究機関の知見・人材を活用することが不可欠になってきている。加えて、地域住民やNPOなどの協力・参画も、今後ますます必要となろう。
     
  • 企業がCSR/ESG経営を実践するためには、前述の通り、多様なステークホルダーからの応援・協力が欠かせない。
     
  • 従って、CSRやESGの実践による社会課題・地域課題の解決や街づくりには、企業を中心に産学官民が連携し一致結束して取り組むことが求められる。
(2) ESGやSDGsの推進に向けた街づくりの在り方~サステナブル・クリエイティブシティの構築
  • 企業不動産など各種ファシリティの集合体である街づくりにも、外部性および産学官民連携の視点が必要だ。街づくりにおいても、企業不動産単体と同様に、まずは不動産の利活用が地域・都市の自然環境や景観に及ぼす外部不経済を最小化することが不可欠だ。
     
  • 一方、街づくりの外部経済効果は、「多様で創造的な人々が世界中から集い、IoT(モノのインターネット)、ビッグデータ、人工知能(AI)、ロボット、自動運転など最先端テクノロジーをフル活用したイノベーションが継続的に創出され、多様な社会課題が解決されることによって、結果として地域・都市の中長期の持続可能性(サステナビリティ)が向上することである」と考えられる。
     
  • 多種多様な背景を持った優秀な人材を地域・都市に引き寄せるためには、「職住遊の近接・一体化」および「オープンイノベーション推進のための多様な場」の視点から、複合用途(ミクストユース)を備えた街づくりを進め、地域・都市を「クリエイティブシティ(創造都市)」へ変貌させる必要がある。一方、地域・都市の多様な社会課題を解決するためには、ミクストユース開発の街づくりにより整備・誘致された産学官民の多様な機関・組織の力を結集して、地域・都市を持続可能(サステナブル)な「スマートシティ」へ変貌させることが求められる。
     
  • 従って、外部経済効果を最大限に引き出す街づくりでは、クリエイティブシティとスマートシティの要素を併せ持つべきであり、筆者は、そのような地域・都市を「サステナブル・クリエイティブシティ」と呼んでいる(図表5)。
図表5 サステナブル・クリエイティブシティの在るべきモデル
  • サステナブル・クリエイティブシティは、環境(E)・社会(S)への配慮を含む、多様で横断的な社会課題を解決するための強力なプラットフォームとなるため、地域・都市のサステナブル・クリエイティブシティへの進化は、ESGやSDGsを推進するための極めて有力な手段の1つとなる。ただし、地域・都市全体がデータに基づいて透明性の高い管理や適切な情報開示がなされ、適切な「地域・都市ガバナンス(G)」が確保されていることが、その前提条件となる。
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社会研究部   上席研究員

百嶋 徹 (ひゃくしま とおる)

研究・専門分野
企業経営、産業競争力、産業政策、イノベーション、企業不動産(CRE)、オフィス戦略、AI・IOT・自動運転、スマートシティ、CSR・ESG経営

経歴
  • 【職歴】
     1985年 株式会社野村総合研究所入社
     1995年 野村アセットマネジメント株式会社出向
     1998年 ニッセイ基礎研究所入社 産業調査部
     2001年 社会研究部門
     2013年7月より現職
     ・明治大学経営学部 特別招聘教授(2014年度~2016年度)
     
    【加入団体等】
     ・日本証券アナリスト協会 検定会員
     ・(財)産業研究所・企業経営研究会委員(2007年)
     ・麗澤大学企業倫理研究センター・企業不動産研究会委員(2007年)
     ・国土交通省・合理的なCRE戦略の推進に関する研究会(CRE研究会) ワーキンググループ委員(2007年)
     ・公益社団法人日本ファシリティマネジメント協会CREマネジメント研究部会委員(2013年~)

    【受賞】
     ・日経金融新聞(現・日経ヴェリタス)及びInstitutional Investor誌 アナリストランキング 素材産業部門 第1位
      (1994年発表)
     ・第1回 日本ファシリティマネジメント大賞 奨励賞受賞(単行本『CRE(企業不動産)戦略と企業経営』)

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