- シンクタンクならニッセイ基礎研究所 >
- 年金 >
- 公的年金 >
- 基礎年金の水準低下問題への対策試案~2014年財政検証に基づく試算
基礎年金の水準低下問題への対策試案~2014年財政検証に基づく試算

保険研究部 主席研究員・年金総合リサーチセンター 公的年金調査部長 兼任 中嶋 邦夫
文字サイズ
- 小
- 中
- 大
1 ―― 問題の所在:現役時代の給与が低いほど、年金全体の削減が大きく
2014年に公表された将来見通しでは、厚生年金の給付削減は早めに停止でき小幅の削減で済むのに対して、基礎年金の削減は長引いて大幅な削減が必要、という結果になった(図表1)。例えば経済が再生しかつ出生率が維持される前提では(図表1の実線)、基礎年金(1階部分)の給付削減は2043~2044年度まで続き、給付水準が2014年と比べて-29~-30%実質的に低下する見込みとなっている。他方で厚生年金(2階部分)の削減は2017~2019年度に終わり、給付水準の低下は-2~-5%にとどまる見込みである。
さらに経済や出生率の状況が悪い前提では(図表1の破線)、基礎年金は約4~6割の削減が必要なのに対して厚生年金は約1~2割の削減で済む見込みとなっており、厚生年金と比べて基礎年金で低下率が大きくなる傾向が顕著となる。このような傾向は2009年に公表された将来見通しでも明らかになっていたが1、その後の政権交代や社会保障・税一体改革と比べてあまり注目されず、根本的な対策が取られないまま2014年を迎えていた2。
1 拙稿「基礎年金が大幅に下落 ~ H21財政検証結果を読む」『研究員の眼』2009.02.24。同「基礎年金は大丈夫か?~ 特例水準解消を先送りしたツケの行き先」『保険・年金フォーカス』2012.09.03。
2 部分的な対応としては、社会保障・税一体改革の一環として創設された「年金生活者支援給付金」がある。ただし、同制度の対象は、前年度の所得が基礎年金の満額(2019年度で約78万円)以下の場合等に限られる。また、同制度の開始は、消費税率が10%に引き上げられた際となっている。
2 ―― 問題の原因:削減停止の判定方法と、デフレによる経過措置の長期化
構造要因は、給付削減の停止が基礎年金と厚生年金とに分けて2段階で判定されるという、現在の年金財政の仕組みに起因する。公的年金財政を大括りに整理すると、国民年金財政と厚生年金財政と基礎年金財政の3つで構成される(図表4)。国民年金財政の支出の大半は基礎年金財政への拠出であるため、基礎年金の削減停止時期や停止時の給付水準は、国民年金の財政状況に左右される。そして、厚生年金の削減停止時期や停止時の給付水準は、厚生年金財政から基礎年金財政への拠出金を差し引いた後の財政状況で判断される。
このような財政構造の下で、デフレによって経過措置(特例水準)が長期化したり年金額改定の特例措置が発動される、という環境要因が発生した。その結果、国民年金財政が悪化して基礎年金の大幅な削減が必要となった。すると、基礎年金の給付水準が低下するため、厚生年金財政から基礎年金財政への拠出が想定よりも少なくて済むことになる。その結果、基礎年金財政への拠出を差し引いた後の厚生年金の財政状況は好転し、厚生年金の給付削減が小幅で済むことになった。
3 ―― 政府の対応:環境要因にはある程度対応できたが、構造要因への対処は進まず
環境要因に対しては、経過措置(特例水準)を2014年度末に廃止し、年金額改定の特例措置は2018年度にマクロ経済スライドの見直しを実施済で、2021年度にも本則の改定ルール(通常の改定ルール)の見直しを行うことが既に決まっている3。マクロ経済スライドの見直しが不十分との意見も多いが、経過措置(特例水準)の廃止と本則の改定ルール(通常の改定ルール)の見直しによって、財政状況の悪化は防げている。
一方の構造要因には、政府の対応が及んでいない。政府は根本的な解決策(後述)ではなく、いわば変則的な対応を提案しているものの、それも実現に至っていない。
政府が提案した対策の1つは、基礎年金拠出期間の延長である。現在は20~59歳の40年間だが、これを20~64歳の45年間に延長し、それに伴って基礎年金の給付水準を約1割上昇させる(45/40倍する)案である。この方法では基礎年金の水準は改善するが、構造要因の根幹である給付削減停止の判定方法は変わらないため、逆進的な給付削減の解決には至らない。政府が示した試算でも、マクロ経済スライドの停止年度はほとんど変わらない(図表5のB)。
政府のもう1つの提案は、厚生年金の適用拡大である。適用拡大に該当した人は、基礎年金に加えて見直し後に加入した分の厚生年金も受給できるため、年金全体が増加するという恩恵を受けられる。さらに、適用拡大で加入者が国民年金財政から厚生年金財政に移動しても積立金を移さないことによって、残された国民年金財政は改善することになり、基礎年金の削減停止を早められるという恩恵もある4。しかし、すでに一定の年齢に達しており、見直し後に加入できる厚生年金の期間が短い人は、年金全体が増加する恩恵が少ない。国民年金財政の改善も、ある程度現実的な規模の適用拡大の場合には効果が小さく、マクロ経済スライドの停止年度はほとんど変わらない(図表5のC)。ほぼ最大限に適用拡大した場合には基礎年金の削減停止がかなり早まるが、基礎年金の削減停止が厚生年金よりも遅れるという根本的な問題は解決しない(図表5のD)。
(2019年07月08日「ニッセイ基礎研所報」)

03-3512-1859
- 【職歴】
1995年 日本生命保険相互会社入社
2001年 日本経済研究センター(委託研究生)
2002年 ニッセイ基礎研究所(現在に至る)
(2007年 東洋大学大学院経済学研究科博士後期課程修了)
【社外委員等】
・厚生労働省 年金局 年金調査員 (2010~2011年度)
・参議院 厚生労働委員会調査室 客員調査員 (2011~2012年度)
・厚生労働省 ねんきん定期便・ねんきんネット・年金通帳等に関する検討会 委員 (2011年度)
・生命保険経営学会 編集委員 (2014年~)
・国家公務員共済組合連合会 資産運用委員会 委員 (2023年度~)
【加入団体等】
・生活経済学会、日本財政学会、ほか
・博士(経済学)
中嶋 邦夫のレポート
日付 | タイトル | 執筆者 | 媒体 |
---|---|---|---|
2025/04/08 | 基礎年金の底上げ策に伴って厚生年金の補てんを求めるのは妥当か~年金改革ウォッチ 2025年4月号 | 中嶋 邦夫 | 保険・年金フォーカス |
2025/04/07 | SNS時代の年金改革-法案提出を巡る議論の本質は… | 中嶋 邦夫 | 研究員の眼 |
2025/03/11 | 高齢期に働く際の年金減額は、金持ち優遇批判等に配慮しつつ対象縮小へ~年金改革ウォッチ 2025年3月号 | 中嶋 邦夫 | 保険・年金フォーカス |
2025/03/05 | 次期年金改革案(調整期間の一致)を避けた場合に起きる問題 | 中嶋 邦夫 | ニッセイ年金ストラテジー |
新着記事
-
2025年05月02日
金利がある世界での資本コスト -
2025年05月02日
保険型投資商品等の利回りは、良好だったが(~2023 欧州)-4年通算ではインフレ率より低い。(EIOPAの報告書の紹介) -
2025年05月02日
曲線にはどんな種類があって、どう社会に役立っているのか(その11)-螺旋と渦巻の実例- -
2025年05月02日
ネットでの誹謗中傷-ネット上における許されない発言とは? -
2025年05月02日
雇用関連統計25年3月-失業率、有効求人倍率ともに横ばい圏内の動きが続く
レポート紹介
-
研究領域
-
経済
-
金融・為替
-
資産運用・資産形成
-
年金
-
社会保障制度
-
保険
-
不動産
-
経営・ビジネス
-
暮らし
-
ジェロントロジー(高齢社会総合研究)
-
医療・介護・健康・ヘルスケア
-
政策提言
-
-
注目テーマ・キーワード
-
統計・指標・重要イベント
-
媒体
- アクセスランキング
お知らせ
-
2025年04月02日
News Release
-
2024年11月27日
News Release
-
2024年07月01日
News Release
【基礎年金の水準低下問題への対策試案~2014年財政検証に基づく試算】【シンクタンク】ニッセイ基礎研究所は、保険・年金・社会保障、経済・金融・不動産、暮らし・高齢社会、経営・ビジネスなどの各専門領域の研究員を抱え、様々な情報提供を行っています。
基礎年金の水準低下問題への対策試案~2014年財政検証に基づく試算のレポート Topへ