2019年07月05日

2019・2020年度経済見通し

基礎研REPORT(冊子版)7月号

経済研究部 経済調査部長 斎藤 太郎

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1―停滞色を強める景気

2019年1-3月期の実質GDPは、前期比0.6%(前期比年率2.2%)と2四半期連続のプラス成長となった。中国をはじめとした海外経済の減速を背景に輸出は前期比▲2.4%の減少となったが、輸入が前期比▲4.6%と輸出以上に落ち込んだため、外需寄与度は前期比0.4%(年率1.6%)と4四半期ぶりに成長率の押し上げ要因となった。一方、国内需要は2四半期連続で増加したが、民間消費が前期比▲0.1%と減少に転じたこと、設備投資が2018年10-12月期の前期比2.7%から同0.3%へと伸びが大きく鈍化したことなどから、前期比0.1%の低い伸びにとどまった。2019年1-3月期は潜在成長率を大きく上回る高成長となったが、その主因は国内需要の低迷を反映した輸入の減少によるもので、内容は悪い。
 
2018年度の実質GDPは0.7%と4年連続のプラス成長となったが、2017年度の1.9%から大きく減速した。実質GDP成長率に対する寄与度を内外需別にみると、国内需要は0.8%と一定の底堅さを維持したが、輸出の伸びが大きく鈍化し外需が▲0.1%と5年ぶりのマイナス寄与となった。

2―輸出の減少傾向が鮮明に

景気の牽引役となっていた輸出は、世界経済の減速を受けて2018年に入り増加ペースが鈍化した後、2018年度末にかけて減少した。日本の輸出が弱い動きとなっている背景には、世界的に貿易取引の伸びが大きく低下していることがある。世界貿易量は2017年中には前年比で4~5%程度の高い伸びとなり、世界の実質GDP成長率を上回っていたが、2018年入り後は大きく減速し、足もとでは実質GDPを大きく下回る0%程度まで伸びが低下している。
 
日本の輸出を地域別に見ると、米国、EU向けは底堅さを維持しているが、中国をはじめとしたアジア向けが大きく落ち込んでいる[図表1]。
輸出数量指数
財別には、自動車関連が堅調に推移する一方、世界的なIT関連財の調整を受けて情報関連が減少しているほか、半導体製造装置などの資本財も弱い動きとなっている。
 
IHS Markitの製造業PMI(購買担当者指数)は2017年12月の54.4をピークに低下を続け、2019年5月には49.8と中立水準の50を下回った。地域別には、ユーロ圏、新興国の低迷が続いていることに加え、高水準を維持していた米国も2019年入り後は大きく低下している[図表2]。
製造業PMI
輸出の先行きを左右する海外経済を展望すると、米国は2018年の実質GDP成長率が2.9%となり、2017年の2.2%から加速したが、歳出拡大の時限措置終了、減税による押し上げ効果の減衰、保護主義的な通商政策による下押しなどから、2019年が2.5%、2020年が1.9%と徐々に減速すると予想している。また、ユーロ圏の経済成長率は、2019年1-3月期には同1.6%といったん持ち直したが、4-6月期以降は1%程度の成長へ減速することを見込んでおり、米中貿易摩擦が再び激化しつつあることもあり、中国の成長ペースの加速は期待できないだろう。
 
日本の輸出が世界貿易量以上に落ち込んでいる一因は、日本が比較優位を持つIT関連需要が世界的に急速に縮小していることである。
 
世界半導体売上高は2017年前半から2018年半ばにかけて前年比で20%台の高い伸びが続いていたが、その後伸び率が急低下し、2019年初に前年比でマイナスに転じた後も減少ペースの拡大傾向に歯止めがかかっていない[図表3]。
世界半導体売り上げ
今回の予測では、グローバルなITサイクルの調整が過去平均並みの1年半程度で終了し、2019年後半には底打ちすることを想定しており、日本の輸出も情報関連財を中心に2019年後半には持ち直すことを見込んでいる。ただし、ITサイクルの底打ち時期については不確実性が高いこと、米中貿易摩擦が一段と激化する可能性があることから、輸出の低迷は長期化するリスクがある。

3―底堅さを維持する国内需要

輸出の減少を受けて鉱工業生産が大きく落ち込んでいるにもかかわらず、日本経済全体が落ち込んでいないのは個人消費、設備投資などの国内需要が一定の底堅さを維持しているためである。2019年1-3月期のGDP統計では、外需(純輸出)が大幅なプラスとなる一方、国内需要はほぼ横ばいにとどまったが、四半期毎の振れを均すために前年比で見ると、2018年7-9月期以降は外需のマイナスを国内需要のプラスがカバーする形となっている[図表4]。
内外需寄与度
ただし、輸出の減少はいずれ国内需要にも波及する。国内需要の柱のひとつである設備投資は輸出との連動性が高く、すでに製造業では輸出の減少を受けて投資計画を先送りする動きがみられる。輸出の低迷が長引けば、企業収益の減少が雇用所得環境の悪化、国内需要の下押しにつながり、非製造業の設備投資も抑制されるだろう。
 
最近の設備投資の回復は過去最高水準を更新する好調な企業収益による潤沢なキャッシュフローを背景としたものであり、キャッシュフローに対する設備投資の比率が低水準にとどまるなど、必ずしも企業の投資スタンスが積極化しているわけではなかった。内閣府の「企業行動に関するアンケート調査(2018年度)」によれば、今後5年間の実質経済成長率の見通し(いわゆる期待成長率)は前年度から0.1ポイント低下の1.0%となり過去最低水準に並んだ。期待成長率の上昇によって企業の投資意欲が高まるまでには時間を要するため、企業収益の悪化に伴い設備投資が減速することは避けられないだろう。

4―実質GDP成長率の見通し

2018年度後半は高めの成長となったが、景気は基調としては弱い動きとなっている。2019年4-6月期は海外経済の減速を背景とした輸出の低迷や在庫調整による成長率の下押しなどから前期比年率▲0.7%と3四半期ぶりのマイナス成長となるだろう。
 
2019年7-9月期は2019年10月に予定されている消費増税前の駆け込み需要によっていったん成長率が高まるが、増税直後の10-12月期は前期比年率▲1.9%とマイナス成長となることが避けられないだろう。現時点では、大規模な消費増税対策が講じられることから、成長率のマイナス幅は前回増税時(2014年4-6月期の前期比年率▲7.1%)よりも小さくなると予想している。しかし、輸出の回復が遅れれば内外需がともに悪化し、景気後退が決定的となる可能性がある。その場合には、景気のピークは2018年秋頃となり、戦後最長の景気回復は幻となるだろう。2020年度は東京オリンピック・パラリンピックが開催される7-9月期までは高めの成長となるが、オリンピック終了後の2020年度後半は、押し上げ効果の剥落から景気の停滞色が強まることは避けられない。消費増税対策の効果一巡がオリンピック終了と重なることで、景気の落ち込みを増幅するリスクがあることには注意が必要だろう。
 
実質GDP成長率は2019年度が0.4%、2020年度が0.8%と予想する[図表5]。
実質GDP成長率の推移
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経済研究部   経済調査部長

斎藤 太郎 (さいとう たろう)

研究・専門分野
日本経済、雇用

経歴
  • ・ 1992年:日本生命保険相互会社
    ・ 1996年:ニッセイ基礎研究所へ
    ・ 2019年8月より現職

    ・ 2010年 拓殖大学非常勤講師(日本経済論)
    ・ 2012年~ 神奈川大学非常勤講師(日本経済論)
    ・ 2018年~ 統計委員会専門委員

(2019年07月05日「基礎研マンスリー」)

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